三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2004年8月】 | ||||||||||||||||
先回に続いて、イギリスの小学校での話です。上の子がイギリスのランカスターの地元の小学校に通い始めてしばらくして、「お父さん、ムーフって何だか知ってる?」と私に聞きました。「それどういう時に使うんだい?」と聞き返すと、「先生が後ろに下がれというときにこう言うんだ。」と言いました。「じゃ、前に来いと言うときは先生はなんていうんだい?」と聞くと、しばらく考えて、「コムオーンだね。」と答えました。ムーフはmoveの最後の子音が無声化したもの、コムオーンはcome onのことです。 このやり取りは、子どもがことばの意味をプラグマティック(実際的)なものから習得してゆくことを強く示唆しています。会話の中で、極めてコンテクスト・ディペンダントな(文脈に依存した)意味から習得してゆくのであり、いわゆる辞書的な意味からは習得しないのです。私たちは中学生に英語を教えるときに、どうしても辞書的な意味から教えがちです。Goは「行く」、comeは「来る」などといった具合にです。日本で英語を教えるのだからしかたがない、などと考える向きもありますが、必ずしもそうとは言えません。工夫次第でかなり実感のこもったものになります。 そのよい例に、教室英語と呼ばれるものがあります。日常生活ではほとんど英語を使用する機会のない日本において、教室英語は稀有な実践的英語使用の場面です。大きな声で教員が英語で挨拶をし、様々な指示を英語で言ってみましょう。
英語によるほめ言葉や励ましもかなり有効です。
指示の英語が分からなくとも、後から何のことだったか事実が教えてくれます。英語でほめられたり、励まされると外国語であるにもかかわらず英語が心にしみるようになってきます。このような実感こそが、より自然な英語の学習につながってゆきます。ニュークラウンの巻末には、「授業中に使われる英語の表現」が載っています。AETが使っているものを参考にしてもいいでしょう。 名詞を導入するときも、できるだけ教室内にある具体物や学内にある施設などの名称から導入してゆくといいでしょう。Bagを教えるときも、子どもたちが学校に持ってくるバッグを手に取り、school bagとすれば実感がわきます。色の名称も、色鉛筆を使って画用紙にその色をぬりながら、blue、red、greenとその色で文字を書けばいいでしょう。私たちが実物から得る情報量は、単なる絵などから得る情報量とは比べ物にならないほど大きいものです。その情報量の多さが実感に結びつき、語感の形成に役立ちます。 私は体育の授業にAETを導入して英語でやればいいと常々思っています。短距離走なら、On your mark, ready, go! Faster, faster!とやれば、前置詞の感覚、形容詞の実感、命令文の動作、比較級の意味が全身で学べます。英語に限らずことばの習得というものは、詰まる所、コンテクストに依存した意味でどれだけその言語が理解でき、コミュニケーションができるかに掛かっているのではないでしょうか。 立教大学 鳥飼慎一郎 ■バックナンバー |
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