三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2003年6月】 | ||||||||||||||||
「英語を読むということ−1」で、「英語の良い読み手とは、ある程度まとまった分量の英文を、ある程度速く読みこなせる読み手をイメージしている」と述べました。そして、良い読み手になるためには、まずひとつひとつの単語を速く認識できることが重要であることを述べてきました。しかし言うまでもなく、読むという行為はそれだけで成り立っているわけではありません。ひとつひとつの単語を速く認識することが基本ですが、さらに文の意味を理解し、文の集合体である文章を理解していく、そのプロセスの中で、当然のことながら自分の持っている背景知識なども利用し、先の内容を予測したりもしています。良い読み手は、すばやい単語レベルの情報処理と、それを統合したパラグラフレベルでの情報処理の両方をバランスよく行なっている、といえるかもしれません。そこで、最終回の今回は、こうした両方の情報処理の方法を、楽しみながら学べる方策のひとつとして、多読をおすすめしたいと思います。 多読(Extensive Reading)は母語習得のみならず外国語習得の分野でも、その意義が広く認められています。まず、「多読」とは何かということについてですが、一般的な定義としては「学習者が興味を持つ読み物を、ある程度のスピードである程度の量、読みこなすこと。その際、学習者の注意は言語そのものではなく、内容に向けられていること」というものです。注意はあくまで「内容」に向けられているので、未知語に出会うたびに辞書を引くことを強要したりもしません。未知語に出会っても、全体の意味がわかればOKというわけです。しかし当然のことながら、あまりにも未知語が多いと内容が解らなくなってしまいますので、自分のレベルにあった読み物(graded readers * など)を自分で選んで、自分のペースで読むのが基本です。そのようにして、楽しみながら、多くの読み物を読む利点として次の3点が挙げられます。 (1) Sight Vocabulary が増える (1) Sight Vocabulary とは、見た瞬間に音声化を経ることなく意味がわかる単語のことです。多読の中で、何度も同じ語に遭遇することにより、Sight Vocabulary の増加につながるわけです。(2)一般的な語彙の量については、自分の現在持っている言語能力より少しレベルの低い読み物を読めば、未知語の推測が比較的容易になり、結果的に語彙量の増加が望める、ということです。(3)については、多くの量の英文を、内容を追いながら読んでいくうちに、いつの間にか一文一文を頭の中で日本語に訳すことをしなくなり、未知語が出てきてもあわてることなく、既知の情報と結びつけながら、内容のまとまりを把握する方法が身につく、ということです。多読は、このように単語のすばやい認知を促す側面と、まとまりのある文章単位での把握を促す側面の両方を備えている活動であるといえます。 学習者の立場にたってみても、自分のレベルに合った本を本当に楽しいと思って読んでいれば、それが強力な動機づけとなり、また次が読みたくなるであろうことは容易に想像できます。そうやって楽しみながら次々と読むうちに、語彙力と内容把握力が養われ、結果として良い読み手が育っていくことになるのだと思います。 *以下のページから具体的な本の紹介を読むことができます。 福岡教育大学 森 千鶴
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