三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2004年7月】 | ||||||||||||||||
2001年の3月から1年間、在外研究の機会を得て、家族ともどもイギリスのランカスターに住む機会がありました。当地では、上の子どもは地元の小学校の1年生に、下の子は大学付属のプレスクールに通うという体験をしました。その間私も研究の合間を見ては、特に小学校に足しげく通い、イギリスでの小学校教育を観察してきました。英語教育理論では、母語としての英語習得と外国語としての英語学習を分けて考えるのが一般的ですが、必ずしもこのふたつは一般に言われているほど異質なものではなく、むしろ共通点もかなり多いように感じました。特に中学生の英語学習では、母語としての英語習得から学ぶことが多いと思います。これから3回の連載では、イギリスでの母語としての英語教育から日本の中学校の英語教育が学べる事柄、明日にでも教室で応用できる事柄を中心にお話したいと思います。 子どもはまねる天才です。大人のまね、テレビのCMのまね、タレントのまねなど中学生でもすぐに他人のまねをします。この「まねる」ということは、ことばの教育において大変重要な役割を果たしています。まねることで新たな語彙や表現だけでなくリズムやイントネーションを獲得し、自分のものとしてゆくからです。中学校の英語教育においても、ドンドン英語をまねさせることがとても大切です。そのためには子どもたちがまねしてほしい英語を、教室の中にふんだんに用意することが重要です。 一例として、英語での挨拶があります。大きな声でのHello. How are you? I’m fine, thank you. And you? などはその第一歩でしょう。聞き返すときの Pardon? や、相手の注意をこちらに向けさせるときのExcuse me! なども初期のよい例でしょう。状況がはっきりとしている場面でのこのような英語使用を繰り返し教師が示すことで、生徒は場面と英語との関係を理解し、同じような状況に置かれたときに同じ表現を使うようになります。 このような定型の英語表現以外にも、まねさせるのに適しているものとして、ニュークラウンで取り上げている Rhythm Corner があります。付属のCDを流しながら音楽に合わせて手拍子を打ったり、ステップを踏んだり、体を動かしながらまずは教員がまねをし、自然に生徒が後についてまねをし始めるようにしましょう。音楽に合わせると英語のリズムが自然と身につきますし、生徒にとっても発話しやすくなります。ことばと動作と音楽を三位一体のノリで楽しむのがポイントです。 同じような理由から、英語の歌や詩や読み物も大切です。イギリスの子どものリテラシー向上に役立つこととして真っ先に挙げられるのが、親による story telling(読み聞かせ)です。情感を込めて子どもに英語を読み聞かせる。この行為が、実は子どもの言語習得や言語能力の向上に大変貢献します。日本人の教員やALTが気持ちを込めて英語を読み聞かせることで、英語が子どもたちにとって生きたものとなります。教員の後について、文字を見せずに反復させることも、とても有効な「聞く、話す、理解する」練習になります。 母語習得は「自然に起こる」ものと考えられがちですが、実はかなりの部分が周囲の意識的な教育によって助長されているようです。リズム、歌、詩、読み物などの使い方を工夫することで、日本の教室内でも、より自然な英語学習を行うことができるのではないでしょうか。 立教大学 鳥飼慎一郎 ■バックナンバー |
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