三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2004年2月】 | ||||||||||||||||
ある英語の授業を見ていて変な気持ちになったことがある。その授業では、Do you want...? をターゲットセンテンスにして活動が行われていた。学習者には、バナナやオレンジやりんごやケーキなどが描かれたカードが配られ、子どもたちは教室を回りながら相手を変え、Do you want...? と尋ねるのである。相手がバナナのカードを持っていそうであれば、Do you want a banana? と尋ねる。尋ねられた側は、もし持っていれば Yes, I do.と答えてそのカードを渡す。持っていなければ、No, I don't.と言いカードは渡さない。そうやって、多くのカードを集める競争をするというものであった。 この活動を見ていて、なぜ変な気持ちになったのであろうか。それは、この活動の中の表現と状況がmeaningfulでなかったからである。表現としては、Yes, I do.( I want a banana.)と言いバナナを欲しているのに、活動ではそれを相手に渡さなければならないという矛盾があったからである。 このように、ゲームや活動を行うとき、盛り上がりや材料の便利さに注意が集中してしまい、状況と矛盾する表現が用いられていることが時々ある。困った点は、このように現実社会での運用を無視した表現の練習を重ねると、学習する英語は勉強のためのものであり、現実に生きて働くものではないという印象を学習者に植え付けてしまうことである。 文法指導において重要なことは、その文法知識が言語運用に役に立つことを保証することである。そのためには、文法指導の中で扱う場面が現実的であり、かつ活動とことばの働きが一致していなければならない。上の活動で言えば、Yes, I do.と言って、カードを貰うようにすべきであろう(そして、早くカードをなくした者を勝ちとする)。このように、ことばの働きはそれを使う人の気持ちを反映するものでなければならない。 さて、本題の英作文における文法指導に入るが、英作文の活動においても場面と書き手の気持ちとことばの働きを配慮することが大切である。これまで、そうした要素は軽視され、ただ日本語の文を英語に翻訳する作業が英作文であると考えられてきた。そこで、まずどういう内容を表現するかを書き手に決めさせることが第一の転換となる。予め決まっている正解を求めるのでなく、書き手自身が何をどう表現するかを工夫することが重要なのである。 そうなると、やるべきことは自由英作文ないし創作英作文ということになるが、中学生にいきなりそれをやらせてもうまくいかないことが多いであろう。なぜなら、彼らはまだ十分な文法知識を持っていないからである。そこで、自由英作文への橋渡しとしてguided writingをやることをおすすめしたい。例えば、接続詞の指導をするとき、生徒たち自身の考えや意見が生きるような英作文の活動をさせるのである。次の文の( )内を埋めさせる活動などはどうであろうか。 (1) As soon as John came home, (
). ( )の中を埋める活動を通して、生徒は内容的に前後関係を合わせる工夫をしなければならない。中には面白い内容を表現しようとして工夫する者もいるであろう。重要なことは、こうした活動をやる中で、彼らが、as soon as, as, after, though, while, becauseなどの使用法を学ぶことである。接続詞だけをとりあげて、その意味や用法を説明するより、この方が効果的であろう。そして、その学習効果は、以後の自己表現や接続詞の解釈に生きてくることが期待される。 鳴門教育大学 太田垣正義 ■バックナンバー |
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