三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2002年10月】 | ||||||||||||||||
ことばは文化です。少なくとも文化の重要な一部をなしています。日常のなにげない会話表現であってもその中に文化の本質(エトス)が垣間見られることがあります。ここでは主として日英比較の観点から会話表現に隠された「文化」をみてみましょう。第1回目のテーマは「呼びかけ表現」です。 呼びかけ表現とはNice to meet you, Tom.といったあいさつ表現のTomのような、通常、口頭で人に呼びかけるときに使われる語や句のことをいいます。英語ではこの呼びかけの表現が日常会話でしばしば用いられます。しかしこれをそのまま日本語にするとなにか変です。日本語では「トムさん(君)、お会いできてうれしいです」とでもなるでしょう。このような場合、日本語では呼びかけ表現を使わないで「はじめまして」や「こんにちは」ですますのが普通です。英語では、誰が誰にどんな立場で話しているのかをできるだけ明確にするというルールが働きます。英語では人称代名詞のyouは相手との人間関係にかかわらずyouなので、あらたまっているとかくだけているとかを示すためにいろいろな呼びかけ表現を使います。たとえば次のような例をみてみましょう。 May I help you, sir? Could you explain it in detail, Professor Brown? What do you think about this problem, Mr Brown? Are you hungry, Billy? このように英語では呼びかけ表現を使い分けることによって、話し手と聞き手の上下関係や親しさの関係を明確にするのです。つまり呼びかけ表現によってコミュニケーションの力関係が決まるともいえるわけです。 もちろん日本語にも呼びかけ表現はあり、独自のルールに基づいています。日本語では、目上の人に呼びかけるときには肩書きや身分で、目下のものには名前で呼びかけるというのが基本的なルールです。たとえば、目上の人に対しては「課長」「先生」「お兄ちゃん」などの身分で、下のものに対しては「佐藤君」「健太」などの名前で話しかけます。ふつうは「部下」「弟」などといって呼びかけたりはしません。 それぞれの言語には独自のコミュニケーションのルールがあります。一般に日本人は英語での会話において呼びかけ表現を使うのが苦手です。その原因の1つは、日本語のスタイルが影響していると考えられます。効果的に英語でコミュニケーションを行うために積極的に、そして意識的に、呼びかけ表現を使ってみましょう。 玉川大学 高橋貞雄 ■バックナンバー |
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