三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2003年4月】 | ||||||||||||||||
「読む」という行為は、母語においても複雑で高等な技術であると言われています。子供のころ、ひらがなばかりの絵本の文字をひとつひとつ指さしながら、「う」「さ」「ぎ」とつぶやき、「あっ、うさぎかー」と文字と音と意味が一致し、妙に感動したことを覚えています。母語でも、こうしたプロセスが必要なのですから、ましてや外国語である英語を読む技術が一朝一夕に身に付くはずもありません。それでは、初級の英語学習者にどのように教えれば、将来良い読み手に育つのでしょうか。この場合の良い読み手とは、ある程度まとまった分量の英文を、ある程度速く読みこなせる読み手のことをイメージしています。 この話題について、比較的古くから、そして今でもホットな議論としてPhonics 対 Whole Language Approachという議論があります。 Phonicsとは、英語の文字と音の関係を積極的に教えるというものです。たとえば代表的な文字と音の対応関係には次のようなものがあります。 ひとつの読み方しかない文字 [子音] (カッコの中は例) 組み合わせで違う音になる文字 [子音] (カッコの中は例) 最後にeが付くと、long vowelとなる これらの文字をひとつひとつ擬人化したり、色分けしたりして、分かりやすく楽しく教えます。一方のWhole Language Approachは、単語のつづりや読み方よりも、お話やテーマのある会話の中での単語の「意味」を重視し、読み方の規則はその中で自然に気づかせるというやり方です。 どちらも母語の読み方指導から出てきている考え方なので、外国語の指導としてすぐに適用できるわけではありませんし、ましてやどちらの方法が絶対良い、と断言できるものでもありません。しかし、ひとつの方向性としては、近年、子供に良い外国語の読み手に育って欲しければ、Phonicsの要素を何らかの形で取り入れた指導のほうが良い、と言われるようになってきています。というのも、母語および外国語習得の両方の研究成果から、「良い読み手は、ひとつひとつの単語の認識速度が速い」ということが解ってきているからです。少し前に言われていたような、背景知識の活性化はむしろ未熟な読み手の行うことであり、熟達した読み手は、その必要がないくらい、ひとつひとつの単語を速く正確に認識している、ということなのです。これを「自動化」と呼んでいます。そして、「自動化」を行えるようになるまでに、少なからず音声化のプロセスを経るとも言われています。つまり、つづりから音、そして意味へと認識していくわけです。それならば、外国語の読みにおいても、つづり字規則がある程度わかり、単語の音読ができるようになることが、将来の「自動化」への第一歩であるとも言えます。文法指導とコミュニケーション活動で忙しくて、忘れがちなつづりと音の連関指導にも、折りあるごとに目を向けてみてはいかがでしょう。New Crown の「Sounds 発音してみよう」のコーナーは、このような視点から見れば、発音指導のためのみならず、リーディング指導のためにも有効利用できるコーナーであると言えます。 福岡教育大学 森 千鶴 ■バックナンバー |
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