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現在のページ 三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2003年12月】

マンスリーコラム
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表現力を高める授業(3) 適切な表現を使う

 英語力を高めようと、正確さと流暢さを求めて、さまざまな教え方、学習のしかたが提唱され、実践されています。しかし、コミュニケーションを成立させるもうひとつの重要な目標である「言語の適切さ」についてはどうでしょうか。コミュニケーションの道具として英語を使おうとするのであれば、相手との社会的地位の差、力関係、年齢差、親疎関係、その場の改まり度をわきまえた言い方ができるようになっている必要があるのです。

 しかし、中学生が外国語を学ぶ場合は様々な制約があり、十分に伸ばせない状況にあります。丁寧なものの言い方をしようとすれば、文法的にもより複雑な使い方が要求されます。さらに、教科書では身近な人との対話が想定されていることが多いため、丁寧さや適切さを意識した指導が行われないまま3年間を終えてしまうことも多いのです。その上、私たちにとって英語は生活言語ではないため、言葉の使い方で失敗して適切さに気づく実体験がないまま社会人となり、不用意に不適切な英語を使って相手を怒らせてしまうことにもなるのです。子供ならその場で注意してもらえますが、一定の年齢に達した人で、ある程度の英語を使う人であれば、指摘してもらえないばかりか、無礼な人間である、とレッテルを貼られることにもなりかねません。

 では中学校の英語指導で何か出来ることがないか、ということになりますが、解決策のひとつとして、まずは言語の適切さを意識させることから始めるといいでしょう。同じことを言うのにいくつかの表現がある場合、その中のどれが普通の言い方で、どれが感じのいい言い方なのか、小グループで話し合ってみるのもいいでしょう。何かを依頼するとき、命令文にplease をつけるだけで大丈夫なのか、断るときはNo.だけでいいのか、不平不満を言いたくなったらそのまま感情をぶつけていいのか、など、中学生なら母語ではできるようになっていることから始めるといいでしょう。また、これから友達になろうとする人の名前を知りたかったら、What is your name? と尋ねる前に自分から名乗る、と言った間接的な手法を取ることは中学1年生の英語でもできます。何かをもらいたいときは I want ... よりI’d like ... のほうが丁寧ではあるが、Is there ... ? / Are there ... ? のほうが感じのいい言い方であると気が付く生徒もいるでしょう。道順を聞くときもWhere is ... ? より Is there a ... around here? のほうが威圧的に感じなくてすみますし、住所を聞くのもWhere do you live? ではなく、ときにはDo you live around here? と言ったほうがよい場合もある、と気づく生徒がいれば大いにほめてあげてください。

 また、丁寧さを加えたり、語気を和らげたりする表現を教えるのも大変効果的です。たとえば、どこかへ一緒に行こうという誘いを柔らかに断るには、I’m sorry. を加えたり、誘いを受けられない理由を述べたり、別の機会ではどうかという提案をしたりすればいいのです。予定をあらわす表現を学んでいる中学生なら、教室でペアワークなどを用いて練習すれば、すぐに適切なものの言い方でその場の会話を成立させることができるようになります。相手の面子をつぶさない配慮をする、と言えば中学生ならわかるでしょう。

 外国語話者だから多少のおかしな言い方は許させる、というような意見もあるかもしれませんが、中学英語でも丁寧なものの言い方はできるのです。また、適切な表現を用いないと、ことばとしてうまく機能しません。英語で適切な表現を使う能力を育成するには、英語の表現の違いに意識を向け、違いに気づかせ、いくつかの決まった表現と規則性を明示的に学ばせるのです。そうすれば、適正な言語観を育成することができるでしょう。

駿河台大学 佐野富士子

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