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現在のページ 三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2004年5月】

マンスリーコラム
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ことばの獲得・処理・学習からみた語彙指導(2) 単語はみかけ以上に多芸である?!

 言語獲得の研究者・コーエンはWords are more cunning than they let on.〈単語はみかけ以上に多芸である〉と言っています。私たちは「英単語を覚える」と言うと「日本語訳を記憶する」ことだと考えがちですが、単語には実にいろいろな種類の情報が納められています。単語に内蔵された情報をのぞいてみましょう。

 次の文を手か紙で隠しておいて、1語ずつ右へずらしながら読んでみてください。

  The / horse / raced / past / the / barn / fell.

「納屋の向こうを抜けて走らされた馬が倒れた」という意味ですが、多くの人は文末にfellという動詞が現れて慌ててしまいます。racedが過去形の動詞だと思っていたら、文末に至ってraced past the barnを過去分詞句として私たちの脳は処理しなおす必要があるためです。このような文は迷路文と呼ばれていますが、私たちが普段どのように文を理解しているかを探る試金石の一つになっています。

 では、次の文はどうでしょうか。同じ要領で読んでみてください。

   The / book / found / in / her / room / is / mine.

上の例文と文の構造は同じです。にもかかわらず、あまり難しくないのです。これは、最初に出てくるthe bookが持っている[無生物]という意味が大きく関係しています。無生物の主語では動作の主体にはなりませんから、読み手はfoundという動詞をはじめから過去分詞だと判断するためです。一口に「意味」と言っても、日本語訳だけでなく、生物か無生物か、具象か抽象か、など多様な意味情報を持っています。

 最後にもう一つ。今度は2文ありますが、同じ要領で読み比べてみてください。

  (a) Which book / did / the boy / read / in school?
  (b) Which road / did / the boy / read / in school?

(b)は文法的には適格ですが、意味的におかしい文です。さまざまな心理実験で、動詞readが現れたときに、私たちの脳はその不自然さに気づくことがわかっています。動詞readが現れた時点で、readは名詞句を2つとること、そしてその2つの名詞句は、[読む主体]と[読まれるもの]であることが計算されます。もう一つ重要なことは、Which book/roadが現れた時点で、その名詞句がどういう意味成分をもっているかもちゃんと計算されているという点です。だからこそ、readのところで意味的におかしいと判断できるわけです。

 私たちが英語の文を聞いたり読んだりするとき、どのような要素をいくつとる動詞かといった文法的な情報や、主語や目的語に来るのはどのような意味成分を持った名詞かといった意味的な情報を、リアルタイムで使いながらことばを理解していることが分かってきました。こうした単語が持つ豊かな情報は、ことばで解説するより、先生が英語を使って多くの実例にさりげなく頻繁に触れさせることが大切であり、一番の近道となるでしょう。
       

神戸大学 横川博一

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