三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2003年8月】 | ||||||||||||||||
昨年7月に文部科学省が「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」を発表してから、英語教育を巡る状況にいろいろな変化が見られるようです。今年の夏から始まる中学校・高等学校の英語の先生方の再訓練のための研修講座はどうなるのでしょうか。研修を実施する側も、研修を受ける側も、本当に大変な努力ですので、その成果を大いに期待したいところです。 英語教師の中でも、その力が一番求められるのは、大学教師ではなく、特に入門期の教師です。その意味では、これから小学校に英語が登場するとなると、小学校で英語を教える先生方の英語の力、英語指導力が、極めて重要になってきます。次回の新しい学習指導要領では、小学校でも、いよいよ英語が教科として登場するというのが大方の予想ですので、小学校の先生方の猛勉強が必要となってくるわけです。小学校の先生方の準備は、どの程度進んでいるのでしょうか。 かつて、『ニュークラウン』の編集主幹を勤めておられた故若林俊輔先生は、小学校の英語に関して「先ず小学校は英語を取り入れるほど暇でないということ。そして地球上の多くの言葉の中でなぜ英語なのか。もしやるとしたら指導者が肝心で、教員養成が優先されるべきこと。そして中学校との連携を考えたカリキュラムの作成が不可欠であること。」と述べられたことがありました。ここ10年ほど、筆者も同じことを危惧してきましたが、小学校英語をめぐる環境はあまり改善してはいないようです。教育学部で小学校英語教師養成が始まったところはほとんどありません。小学校から中学校、あるいは、高校までの一貫した英語学習のカリキュラムが検討されている話もありません。掛け声だけで、小学校英語が始まろうとしているようですが、大丈夫でしょうか。 例えば、筆者の勤務する北海道教育大学教育学部附属旭川小学校では、実験校の任務として、「総合的な学習の時間」ではなく、学校裁量の時間を利用して、昨年度は1年から6年まで各クラス6時間、今年度は倍増の12時間の英語活動を実施してきています。指導するのは、昨年度は学級担任の日本人と児童の保護者でもあるイギリス人、今年度は学級担任とアメリカで小学校の音楽を教えた経験を有する日本人です。それに「人材銀行」に登録した保護者の方に、助っ人をお願いしております。 低学年では、前回述べたような、英語起源の身の回りの言葉をたくさん、英語らしく発音することを中心に練習し、歌やゲームを取り入れています。ウィンドウ、ドア、テーブル、デスク、カレンダー、テレビジョン、カーテンなど、教室の中の事物を使って、「何ですか?」を中心とした問答、あるいは、いろいろな動物やお花、食べ物や色の名前などを練習した後、「好きなものは?」等と英語によるやり取りが行われています。もちろん、子ども達はビンゴゲームを楽しんだり、簡単な英語の歌も上手に歌っています。6月末に4年生の教室を覗いてみますと、身近な生活に結びついたロール・プレイイングということで、一人ひとりの子どもが、Mission Cardに応じて、学校のいろいろな場所に行って、何らかのMission(指令)を受けて行動するという活動をしていました。保健室に行って発熱の手当てをしてもらったり、頭痛で休ませてもらったり、図書室へ出かけて、魚の本を借りてきたり、辞書を借りてきたり、理科室へ行って試験管を借りてきたり、お花に水をやったりするのです。もちろん、子ども達は、事前に、 “Ihave a fever.” “I need a book about fish, please.” “Can I water the plants?” など必要な表現を十分練習しています。子ども達は、ところどころに配置されている保護者の方々(「人材銀行」の方々)の応援をいただきながら、楽しそうに動き回っていました。なかなか充実した活動であると感じたのは、手前味噌でしょうか。 1年から6年まで、年齢差・英語学習経験の差を考慮して、発音・語彙・文法項目などの割り当ても出来ており、英語に対する興味関心を高めるには結構大きな意味がありそうな気もしています。 小学校の英語は、よく言われるように、これまでの中学校英語の前倒しにならないようにしなければなりません。また、英語力を養成しようなどと考えずに、気楽に英語に親しませることを目標にするのが得策です。英語に限らず、出来るだけ多くの言葉や文化にも目を向けることも心がけたいものです。中学校の先生方には、それぞれの学校で受け入れる1年生が、どの小学校出身で、その学校ではどんな英語活動が行われていたか等、小学校の実態をよく理解して頂き、子ども達が既に体験してすっかり馴染んでいることの繰り返しで、興味を失ってしまうことのないようにご留意いただきたいものです。実践的コミュニケーション能力の育成を目指す中学校での新しい実践が、小学校での英語ときっちりと結びつくことが出来れば、小学校の英語も大いに意味があることになるのです。そうしてこそ、ある程度『英語が使える日本人』が育成されることになるのでしょう。いずれにしても、各地区の英語教育学会には小学校の英語と中学校の英語の連携を考える取り組みが、緊急の課題として取り上げられなければなりません。 次回(最終回)では、高校・大学そして生涯教育としての言葉の学習について考えてみたいと思います。 北海道教育大学旭川校 森永 正治 ■バックナンバー |
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