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現在のページ 三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2002年12月】

マンスリーコラム
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コミュニケーションと文化B−丁寧表現

 今回は丁寧表現に関する問題を取り上げてみたいと思います。日本語では、尊敬語、謙譲語、丁寧語といった分類で敬語の体系が確立しています。日本語の会話では、相手を持ち上げたり、自分を下げたりすることによって、それぞれの立場を明確にすることが求められます。敬語の使用は、「疎遠さの度合い」によって決まるといわれます。つまり、2人の間柄が疎遠であればあるほど敬語表現を用い、逆に近ければ「くずれた表現」を用いるというわけです。

 ときどき、日本語には敬語があるが英語にはない、ということを耳にすることがあります。本当にそうでしょうか。確かに、英語には「見る」を「ご覧になる」に変えるようなはっきりとした敬語の形式はありません。そういった意味では、英語には敬語がない、というべきかもしれません。しかし、英語の会話であっても、ただ文法にかなう文をいいさえすれば会話が成立するというわけではありません。コミュニケーションには、もののいい方、つまり「適切性」(appropriateness)が大事なのです。日本語の会話では、敬語表現に見られるように「縦の適切さ」が求められますが、英語の会話では一般的に「横の適切さ」が求められます。つまり、会話をスムーズに運ぶために、できるだけ「親しさ」(friendliness)を示すように心がけます。そうすることで会話の「よそよそしさ」を無くそうというのが英語の丁寧表現を作る1つのルールです。朝の挨拶で Good morning, Beth.と名前で呼びかけたり、自己紹介で I am TANAKA Mayuko. Please call me Mayu.といったりするのは、親しさを示す1つの方法なのです。

 ここで具体的にいくつか英語の表現を見てみましょう。次の文はいずれも命令文です(命令文であっても命令のためにだけ使うわけではありません)。

 (1) Clean this room.
 (2) Have another sandwich.

どちらが丁寧であるかは明らかです。ここで働く原理は、相手に課す負担が大きければ大きいほど丁寧度は下がり、相手の利益が大きければ大きいほど丁寧度が上がる、というものです。従って、Clean this room.というのは相手に相当の負担を強いることになるので、たとえpleaseをつけて Clean this room, please.といってもそれほど丁寧な表現にはならないのです。しかし、ときには相手に負担のかかることを依頼しなければならないこともあります。そのときにはできるだけ間接的な表現を用いて、丁寧度を上げるようにします。ここでクイズに挑戦してみましょう。次の6つの文を丁寧度の高い順に並べ替えてください(答えは最後にあります)。

 (1) Will you answer the phone?
 (2) I want you to answer the phone.
 (3) Can you answer the phone?
 (4) Would you mind answering the phone?
 (5) Answer the phone?
 (6) Could you possibly answer the phone?

間接度の高い順に並べられたでしょうか。何かの依頼をする場合に間接的な表現を用いるということは、相手にNOをいいやすい選択権を与えるということです。この原理は英語でも日本語でも同様です。

 (1) Can you lend me 1000 yen? (千円貸してくれる?)
 (2) Can't you lend me 1000 yen? (千円貸してくれないよね?)

英語でも日本語でも(2)のほうが、断りやすい文だといえます。従ってその分だけ丁寧度の高い文になるのです。結局のところ、丁寧表現を適切に使えるかどうかは「相手を思いやる気持ち」があるかどうかによる、ということです。

[クイズの解答:(6)-(4)-(3)-(1)-(2)-(5)]

 3回にわたってコラムを担当させていただきました。英語と日本語を対比すると様々な興味深い発見があります。私はそんなことばや文化の綾を楽しんでいます。英語を学ぶ子どもたちにも「ことばの面白さ」を知ってほしいと心から願っています。

玉川大学 高橋貞雄

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