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現在のページ 三省堂 英語ホーム > 英語教育コラム > マンスリーコラム【2003年9月】

マンスリーコラム
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日本人と言葉の学習(3)高校・大学、そして生涯教育としての言葉の学習

 日本人と言葉の学習について、最終回は、高校・大学そして生涯教育としての言葉の学習について考えてみたいと思います。

 文部科学省の構想では、おそらく、英語重視の言語教育政策がこれからも推進されることになるのでしょう。小学校の英語も教科として登場し、中学校との連携がしっかり行われれば、それなりに、「英語の使える日本人」が育成されるであろうことは、前回も触れました。さて高校・大学では一体どうするべき、どうなるべきなのでしょうか。

 例えば、ヨーロッパ共同体(EU)では、全ての市民に、ハイスクール卒業までに、母語以外に少なくとも二つの言語を身につけさせる言語政策が採用されているようです。それはもちろん、多くの国の集合体ですから、お互いの立場を尊重し理解し合うためにも、一つ一つの言葉を大切にする必要があるのでしょう。たとえ英語を母語としていても、母語や自文化をよりよく理解するためにも、一つか二つの外国語は学習する必要があるわけです。日本の高校生達にも、これまで学習してきた英語を深めるとともに、EUに倣って、将来のアジア共同体を目指す上からも、韓国・朝鮮語や中国語、ロシア語などの近隣諸国の言葉を是非ともかじらせておきたいものです。大学入試でも、英語以外の外国語の受験者がもっともっと増えるような体制が作られるべきなのです。

 そして大学では、学部の性格にもよりますが、学生個人個人の将来の進路やニーズに応えるための様々な言語学習プログラムが準備されている必要があるでしょう。将来の就職先で必要となる言語能力の開発・向上に、一人ひとりの学生が精一杯努力できる環境を整えておくということです。具体的な例を挙げれば、ハングル語を身につけたい学生がいれば、ハングルの母語話者が側にいたり、視聴覚教材が容易に利用できるライブラリーが充実していたりすること、或いは、ロシア語を必要とする学生のために、サハリンなどに姉妹提携した大学を有していたりすること等でしょう。例の「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」でも、将来仕事に必要な語学力の養成が大学生に求められていますが、英語に限定することなく、語学の枠を拡大して考えることが必要なのです。また、たとえ英語に限定したとしても、学会等を通して各大学間の競争・協力が活発に展開されるならば、大学の語学教育は一層効果的なものになるでしょう。

 そして、生涯教育の視点からの言葉の学習は、豊かな人生を歩むための言葉とのお付合いということになります。それには、人生を楽しむためのenjoymentを中心にするものと、人生をより豊かにするためのenrichmentを中心とするものの二つが考えられます。いわばライフワークとしての英語をとことん楽しむ人もいるでしょう。筆者の友人に英検1級に毎年合格している人がいますが、これも楽しい生涯学習の一例でしょう。筆者自身の夢は、大学生の時に祝ったシェイクスピア生誕400年祭を、今度は没後400年祭として、2016年に、昔の仲間と再び、喜劇でも悲劇でも何か一つ上演することです。筆者の身の回りには、カタカナ語に興味を示し、筆者を見つけると直ぐにあれこれ質問をしてくる老紳士や、たどたどしいマレー語ながら、国際結婚した義理の娘の両親との関係を築こうとがんばっているご婦人、近隣諸国の人々との料理講習会等で会話に花を咲かせている二児の母親、合唱や民族楽器などを通して世界平和の輪を広げている先生、動物園の動物達につけられているアイヌ語の表示を一生懸命覚えているご家族等、いろいろな人が見られ楽しい限りです。また、好むと好まざるとに関わらず、インターネットの時代ですから、居ながらにして、様々な言語を学習できる環境もあります。誰でも、いつでも、どこに居ても、日本語、英語、そしてその他の言葉を楽しみ、言葉の壁を越えて楽しく豊かな人生を歩むことができるのです。

 しかし、残念ながら、現在の日本は、英語一辺倒と言ってもいい状況が続いています。「バベルの塔」を建てようとして神様に罰せられた人類は様々な言語の所有者となったわけですが、それを楽しむ方向へ積極的になるべきではないかと思います。逆「バベルの塔」の現象で、英語だけに凝り固まらないようにしなければならないのではないでしょうか。従って、我が国の言語教育政策を根本から問い直すことも忘れてはいけないことだと思います。大阪大学名誉教授の大谷泰照氏は、日本人の言語文化意識が明治初期以来、ほぼ40年周期で大きな盛衰の流れを繰り返してきたことを、大学英語教育学会北海道支部での講演で述べられました。「戦略構想」がどう進み、その後がどうなるか、大いに注目する必要がありそうです。人類はみな平等であり、どんな少数民族の言葉も「言葉はその民族の命である」という『ニュークラウン』の理念を常に忘れることなく、人間として、日本人として、様々な言葉を愛し、様々な言葉と向き合って、生きていきたいものです。それでこそ、21世紀が、真に生き甲斐のある、万物の霊長たる人間に相応しい世紀となるのではないでしょうか。

 北海道教育大学旭川校   森永 正治

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