
石塚 瑛一 (横浜市立上菅田中学校)
2026年03月27日
1 はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、ICTの教育現場への導入は急速に進展した。さらに近年では、生成AIをはじめとする人工知能技術の発展により、情報の収集や整理、文章生成といった知的活動を支援するツールが広く普及している。こうした技術の進展は、教育における学習活動の在り方や、思考過程に対する支援の方法を改めて検討する必要性を示唆している。そこで、本実践では、生徒および教員の双方の立場から、ICTやAIを学習活動の中でどのように位置付け、思考過程の支援に活用していくべきかについて検証することを目的とした。
2 単元で育成する資質・能力
本単元では、「走れメロス」(太宰治)を教材とし、「文章を読んで理解したことや考えたことを知識や経験と結び付け、自分の考えを広げたり深めたりすること。」(読むこと(1)オ)の育成を主たるねらいとして設定した。なお、読むこと(1)イや書くこと(1)オなどの思考・判断・表現に関する資質・能力については、年間指導計画に基づき各単元を通して継続的に育成してきた既習事項として位置付け、本単元においてもそれらを基盤として活用しながら、資質・能力の一層の伸長を図ることとした。
3 授業の手立て
まず、紙のワークシートを用いて本文を読み取り、登場人物の言動や心情の変化を整理した。ここでは、既習事項である「目的に応じて複数の情報を整理しながら適切な情報を得たり、登場人物の言動の意味などについて考えたりして、内容を解釈すること。」(読むこと(1)イ)を基盤として本文理解を行った。
理解した内容が設問として問われた場合にも通用するかどうかを確かめるため、教員側でAIを用いて作成した定期試験形式の問題データと紙の解答用紙を配布した。この活動は授業内では扱わず、時間に余裕があり挑戦を希望する生徒が任意で取り組むものとした。AI生成問題は、理解の代替ではなく、生徒自身の解釈が設問形式においてどの程度通用するかを確認するための自己診断の手立てとして位置付けた。
続いて、ワークシート(データ)の作成に取り組んだ。
本ワークシート(データ)では、同一作者(太宰治)の他作品を一つ以上読み、「走れメロス」と比較することを課題としている。Classroomの記事内に青空文庫のリンクを掲載し、他作品へのアクセスを可能とした一方で、学校図書館司書と連携し、学校図書館に所蔵されている太宰治の書籍をまとめて配架することで、紙媒体による読書を希望する生徒への支援も講じた。学校図書館司書による資料選定や配架の支援により、デジタル媒体と紙媒体の双方から資料にアクセスできる環境を整備した。
さらに、「学びのプラン」やワークシート例を提示することで、考察の観点を整理しながら読み進める必要がある生徒への支援とした。一方で、太宰治の長編作品の読解やAI生成問題への挑戦は、より深く学習を進めたい生徒に向けた発展的な手立てとして位置付けている。
4 授業を通して見られた生徒の姿
完成したワークシートはグループで読み合い、既習事項である「表現の工夫とその効果などについて、読み手からの助言などを踏まえ、自分の文章のよい点や改善点を見いだすこと。」(書くこと(1)オ)を用いて修正を行った。この過程を通して、本文理解や作者の生い立ち、他作品との比較から得られた知識を基に、自身の解釈を再構成し、自らの考えを広げたり深めたりする様子が確認された。
5 まとめ
本実践では、ICTやAIを一律に導入するのではなく、生徒の学習段階や媒体の選好に応じて、デジタル資料、紙媒体、AI生成問題を異なる手立てとして配置した。このような環境整備により、生徒は理解した内容を知識や経験と結び付けながら、多面的に作品を捉え、自らの考えを広げたり深めたりすることが可能となったと考えられる。
また、ワークシート例の作成や定期試験形式の問題作成にAIを活用することにより、従来多くの時間を要していた資料準備の効率化を図ることができた。さらに、多様な設問形式を短時間で生成することが可能となり、学習内容の定着を図るための補助教材の質的向上にも寄与することが確認された。
一方で、AIによって生成された問題の中には、メロスの心情ではないものが正答として設定されていたり、物語の時系列に整合しない選択肢が含まれていたりするなど、本文の解釈と齟齬を生じる記述が見られた。これらの事例から、AIによる生成物をそのまま教材として用いるのではなく、教員が内容の妥当性を再度確認し、本文理解に照らして適切かどうかを精査する過程が不可欠であることが示唆された。
このことは、AIを学習活動に導入する際、それを思考の代替として用いるのではなく、あくまでも教材作成や情報整理といった反復的・定型的な作業を補助するツールとして位置付ける必要があることを示している。すなわち、AIは教員の専門的判断を代替するものではなく、授業準備における作業負担の軽減を通して、指導内容の精緻化に寄与する補助的手段として活用することが求められる。
以上のことから、ICTおよびAIの教育的活用においては、技術そのものの導入を目的とするのではなく、育成を目指す資質・能力との関係性を踏まえ、その役割や活用場面を明確にした上で運用していくことが重要であると考えられる。
石塚 瑛一 いしづか・えいいち (横浜市立上菅田中学校教諭)
横浜市立中学校教諭として13年間、担任業務や教科指導、部活動指導に従事。研究会役員として横浜市学力状況調査の作問に携わるとともに、国語科研修事業部長として教員向け研修の企画運営を行う。教育課程委員として授業提案を実施し、ICTを活用した資質・能力の育成に関する授業実践の普及に取り組む。全日本中学校国語教育研究協議会神奈川大会では研究発表ユニットリーダーを務めた。現在、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科にて経営学、データ分析、地域創生を研究している。DICT Education DAOメンバー。ITコーディネータ資格を有している。

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