三省堂 発行書籍
書道授業の実践的研究

学習者主体の書道授業をどのようにして実現するか。「お手本主義」を脱却して「思考」や「認知」的活動を取り入れた学習指導のあり方を、著者の中学・高校・大学における豊富な実践研究をふまえて提唱する。

  • 谷口邦彦
  • 2015年 8月 20日 発行
  • 定価 2,090円(本体1,900円+税10%)
  • A5  176頁  ISBNコード 978-4-385-36346-2
  • 対象 中・高

著者紹介

谷口 邦彦 (たにぐち くにひこ)

安田女子大学准教授(文学部書道学科)
〔経歴〕
1960 年広島市生まれ。筑波大学芸術専門学群書コース卒業、筑波大学大学院修士課程美術専攻書分野修了後、神奈川県公立高等学校教諭を7 年間、広島大学附属中・高等学校教諭を8 年間勤め、2003 年より安田女子大学勤務。
〔共著〕
『新中国書道史年表─図説で学ぶ書の歴史─』財団法人日本習字教育財団、2011
『書の古典と理論』全国大学書道学会、2013

目次

まえがき

 第1章 学習観の変化と授業研究の方向性
  第1節 芸術科書道における学力とは
  第2節 書道の学習方法と思考活動との関係
  第3節 臨書学習と思考活動
  第4節 学習者主体の学習指導の実際(1) ─高校生の場合─
  第5節 学習者主体の学習指導の実際(2) ─大学生の場合─
  第6節 手書き文字の個性の教育

 第2章 教育機器の活用と書道授業
  第1節 学習方法の変化と教師の役割
  第2節 授業への効果的な機器の活用

 第3章 古典作品の基礎的研究
  第1節 楊淮表紀拓本考異
  第2節 孔宙碑の校碑
  第3節 皇甫誕碑の校碑
  第4節 争坐位文稿拓本考異

 あとがき 

「まえがき」より 

2000年を挟む10年の時代は、急速な社会の変化に加え、学校を取り巻くシステムも大きく変わった。学校週5日制の導入をはじめ、「総合的な学習の時間」が新設されるなど、教師も学習者も意識の転換が求められる状況に迫られた。あれから15年が経過し、我々はまた大きな変革が求められる状況に直面している現在、当時の模索から見えてくるヒントも皆無ではないだろう。
 当時の社会の変化で言えば、情報機器のめざましい進歩とともに、職場や学校へコンピュータが導入された。携帯電話の急速な普及とともに、手紙に替わってメールでのやり取りが普通になり、文字を手書きする場面は限られていく。
 このような中で、学校は情報ネットワークで世界と繋がり、学校の中で閉じていた時代は終わった。また、学校週5日制の導入により、家庭や地域との連携も模索され始める。学習内容の精選による「ゆとり」がうまれるが、限られた授業時間においては効率化も求められていった。
 こうした変化に呼応して、教師の役割にも変化が求められることとなった。特に「総合的な学習の時間」の導入により、教師の役割や指導のスタンスは大きく変わったように思う。課題の設定から課題の探求、課題の解決に至るまで、学習者主体の学習活動が求められたからである。その結果、教師主導から学習者主体へと学習形態は大きく様変わりを遂げることとなった。
 学習者は、それまでの座学中心の学習から、学習者同士が協働しながら課題を解決する学習形態の中で、言葉を使ったコミュニケーションがより一層求められることとなった。知識・技能を身につけることを中核に据えた学習方法から脱却し、自ら進んで課題を見つけ、解決する方策を探り、解決へと向かう。そのような学習過程から、身につけるべき学力にも広い視点からの検討が求められるに至った。
 各教科は旧来の指導過程を見直し、新しい学習方法を模索していく。クロスカリキュラムの創出や合科的な取り組みも行われた。書道の授業にも「学びの転換」が求められたのは自然なことで、学習者主体の新しい学びを創出できるカリキュラムの開発、学習過程の見直し、評価活動の改善等に取り組むことになった。

 本書は、2000年前後の「学びの転換」が求められた時代における、書道授業の取り組みの記録である。情報化、グローバル化が一層進み、「21世紀型学力」が求められる現在から見れば些か今昔の感は拭えないが、書道の授業が「変化」へどう対応しようとしたのか、その一端として記録に留めておきたいと思う。今求められている「アクティブ・ラーニング」における書道の学びを推し進めようとするとき、当時提起した課題がすべて解決できているわけでもない。
 第1章では、学習観の変化と授業研究の方向性について述べるが、まず、知識・技能のほかに書道の学力とはどのようなものか試案を示した。「SECIモデル」を提示し、学習者の探求活動をモデル化することによって見えてくる学力について、各活動ごとにまとめた。なお、このモデルは後に広く活用されることとなる「PDCAサイクル」に先立つものであった。
 次に、書道のお手本主義からの脱却への模索を取り上げる。手本を学習者が自ら見つけるならまだしも、教師から与えられるのでは受け身の学習に終始してしまうことになる。そこで、主体的な学習へと転換するために、「思考」や「認知」的な活動を取り入れる方向性を示した。
 さらに、学習者主体の学習へと転換していくために試みた実践を提示した。ここには、学習者同士が協働していく過程で、どのように高め合っていったか、また、それに付随する教師の役割やスタンスの変化、といった面も意識しつつ、クリアしなければならない課題をあげた。
 第2章は、教育機器としてのコンピュータの活用について、試行錯誤の記録をあげた。現在から見ればありふれた実践ではあるが、当時、新しい機器を授業へ取り入れることによって生徒の学習意欲が高められたり、効果的に課題を提示できたりといった一定の効果は認められた。今後も情報機器の発達は続くだろうが、こうした機器と学習活動とをどう融合していくか、その在り方の一つを提示したものである。
 第3章は、古典作品の基礎的研究の分野から、拓本について考察した研究について若干取り上げた。教師にとって教材研究の重要性は今さら述べるまでもないが、芸術教科として「本物」に触れることの大切さは教師も学習者も忘れてはならない。書道史に関わる研究は、指導法の模索と車の両輪の関係にある。

 ともあれ、書道の歴史は長くそしてその世界は深い。限られた授業時間の中で、教師は適切に切り取って提示できるか。また、学習者はその中に自ら課題を見つけ、探求していくことは可能だろうか。今後の授業実践のたたき台の一つとして活用していただければ幸甚である。

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