三省堂 発行書籍
メロスはなぜ少女に赤面するのか 「テクスト分析」でつくる文学の授業

「テクスト分析」は,優れた物語がもつ「空白」を,「問」という形で顕在化させる。テクストを根拠に「解」を求める過程こそ論理的思考である。「テクスト分析」の手法で,国語の授業を力強くサポートする。

【2020年3月26日 販売会社搬入予定】

  • 鈴木昌弘 著
  • 2020年 4月 10日 発行
  • 定価 2,000円+税
  • A5  160頁  ISBNコード 978-4-385-36518-3
  • 対象 小・中・高

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著者紹介

鈴木昌弘 (すずき・まさひろ)

1961 年(昭和36)大阪市生まれ
大阪教育大学教育部国語科卒
大阪市立中学校国語科教員として在職
現在、大阪市立中学校教頭
=研究テーマ=
 国語教育 「テクスト分析」=論理でつくる文学の授業
 生活指導 人間の本性に根ざした所属感・貢献感を賦活する生徒集団づくり

目次

はじめに

第1章 理論編     
1.「テクスト分析」とは何か
2.「テクスト分析」の実際
3.論理的思考――なぜ「話し合い」活動ができるのか

第2章 実践編     
1「竜」 今江祥智(中学一年) 
 ――竜の子三太郎は、変わらない
2「空中ブランコ乗りのキキ」 別役実(中学一年)
 ――命を賭けて守った幸福の果て
3「字のない葉書」 向田邦子(中学一年)
 ――憎いけれども愛おしい
4「トロッコ」 芥川龍之介(中学一年)
 ――やぶの暗い道は永遠に繰り返す
5「少年の日の思い出」 ヘルマン=ヘッセ [訳]高橋健二(中学一年)
 ――「少年の日」は「僕」を苦しめ続ける
6「仁和寺にある法師」(『徒然草』) 兼好法師(中学二年)
 ――狭量は無知に通じる
7「走れメロス」 太宰治(中学二年)
 ――二つの命を賭けて問う勇者と信実
8「形」 菊池寛(中学三年)
 ――記号「槍中村」の力能と限界
9「故郷」 魯迅[訳]竹内好(中学三年)
 ――「私」のいない「地上の道」という名の希望
10「坊っちゃん」 夏目漱石(中学三年)
 ――愛を知らなかった少年が捧げた清へのオマージュ

おわりに

内容紹介

「テクスト分析」の手法を用いて,新しい時代の文学の授業を!

 

 「テクスト分析」は,優れた物語がもつ,表現しないという「表現」(「空白」あるいは「空隙」)を,「問」という形で顕在化させる。そして,国語教室では,その全ての「問」に答える,統合した一つの「解」を求めていく。
 「解」を求める過程で学習者は,物語文の具体的な叙述に依拠し,それを論拠としながら,積極的な意見交流を行う。そうして学習者自身の手で得られた「解」こそが物語の真の主題(あるいは隠された主題)である。学習者は,「解」にたどり着いたとき,そこに新しい物語を発見する。この過程こそが,論理的思考であり,また「主体的・対話的で深い学び」なのである。
 「少年の日の思い出」「走れメロス」「故郷」「坊っちゃん」など,中学校国語の定番教材としてよく知られる10編の文学教材について,具体的な「テクスト分析」の実際を示す。

はじめに

 なぜ勇者が緋のマントを捧げる少女に赤面するのか(「走れメロス」)、なぜ良平八歳の「トロッコ」体験に二十六歳の上京の場面が加わっているのか(「トロッコ」)、「僕」は大切にしていたチョウの収集を自己処罰と少年の日との決別のためにこなごなに潰した(「少年の日の思い出」)、「私」は新しい世代に将来の希望を「地上の道」という言葉に託した(「故郷」)。
 これら定番教材に疑問をもったり、定説となっている解釈に違和感を感じたりしたことはないのだろうか。
 この小著は、書店の国語教育のコーナーを賑わしているような読解のための様々な技法を紹介するのでもなく、実践の記録でもない。
 小著は、これらの疑問や解釈の違和感の原因を解き明かし、代わって、物語の真の姿が立ち現れてくる「テクスト分析」という手法を紹介する。その他の定番教材を含めて十篇の教材の分析を紹介している。
 「テクスト分析」という手法は、物語(テクスト)にある「表現しない」という表現で隠されたいくつかの「空白」を掘り起こし、それを「問」という形で顕在化して、「表現された」内容との整合性を図りつつ、それらを根拠にしながら真の主題あるいは隠された主題を探し当てる│というものである。ただそれだけであり、平たく言えば、物語の読みの勘所とそれにたどり着く道筋を示していると言える。そのために特別な技法や指導者しか知らない作者の伝記的事実についての知識を駆使している訳ではない。
 だからこそ、この「テクスト分析」を学習者の実態に即してアレンジすれば、そのまま授業にすることができる。
 この授業では、「問」によって学習者の知的好奇心が点火する。主題という一つの解を求めて、テクストの表現を根拠にして学習者が意見を出し合い、互いの意見を尊重しつつより高い次元の「解」を求めて「話し合い」活動となる。この過程が文学の読解と対極にあると誤解されている「論理的思考」である。
 第一部「理論編」では、「テクスト分析」の基本的な考え方を紹介する。そしてなぜ読解活動が「話し合い」として成立するのか。従来の文学的文章(物語)の読解では「話し合い」活動が成立しない理由と併せて両方の違いを明らかにしたい。
 第二部「実践編」では「テクスト分析」に基づいた中学校国語の「定番教材」の解釈を行っている。それぞれ「読み切り」となっているので、まずはおもしろそうなところから読んでいただきたい。
 そして何よりも、あなたとあなたの生徒が「物語の授業がおもしろい」という経験をしていただきたい。それにこの小著がそれに少しでもお役に立つことを願っている。

 

二〇二〇年三月

鈴木昌弘

おわりに

 司馬遼太郎が、自分の小説は二十二歳の自分に当てた手紙だと語っている映像を見たことがある。彼に比肩するようで烏滸がましいが、この小著は、過去の自分を念頭に書いた。授業が思うようにならず国語の教育書を漁った若い頃の自分に、またテクニックや話術(話芸)で授業が制御できていると勘違いしていた中堅の自分に、そしてベテランの域に入ろうとする矢先に、異動先での授業が成立しなかった自分に。本質を捉えない技術が如何に無意味なものかを痛感させられた。生徒をテクストに向かわせるという本質に立ち返ってたどり着いたのが「テクスト分析」である。だからこそ、「敷居は低く奥行きは深く」をモットーに若手から中堅、ベテランまでが満足してもらえるように丁寧に書いたつもりである。
 ところで、いま国語教育の界隈がなにかと騒がしい。
 二〇二一年度からは学習指導要領「主体的・対話的で深い学び」が中学校でも実施、二〇二二年度からの高校での「文学国語」と「論理国語」の選択国語が話題となり、さらには二〇一八年PISAの「読解力」の結果発表もあった。こんな時期だからこれらに触るのがスジであろうが、やめにした。「理論編」の注で触れるにとどめた。すでにこれらの課題は「文学的文章の詳細な読解に偏り」(一九九七年の教育課程審議会「教育課程の基準の改善の基本方向について(中間まとめ)」)という言葉に集約されているからである。裏を返せば、国語における「論理」の軽視ということに尽きる。この「文学」と「論理」との対立というべきものを「テクスト分析」は止揚することで解消している。「論理」を用いて、複雑に絡み合った人間の心理を読み解いているのである。「論理」を実地に学ぶという方が適切かもしれない。学習者主体の授業を志向してきた帰着である「テクスト分析」に時流が合ったのであり、その逆ではない。
 この「テクスト分析」をベースに生徒の実態や指導者自らの力量にあわせてカスタマイズすればいろいろとおもしろい授業ができる。おもしろい授業とは、授業に参加している生徒はもとより、何よりも、その生徒の反応に手ごたえを感じ授業をしているということである。それができるのが「テクスト分析」だといささか自負している。しかし、この当否を決めるのは私ではない。「テクスト分析」を実践するあなたである。
 中学校教師として文学的文章の読解と生徒集団づくりを自らの研究テーマと課し悪戦苦闘してきた日々の、そのうちの一つがこの小著という形へと結実した。今日に至るまでの数え切れぬ多くの方のお力と支えのお陰であり、感謝の気持ちでいっぱいである。また無事、出版に漕ぎ着けたのは、編集部からの、遅れがちの原稿への「力作です」という後押しの言葉があればこそ、お礼を申しあげる。
 お世話になったお一人お一人のお名前を記して謝意を表したいが、謝意を表すべき方が多く、とても紙幅が足りない。最後に慣例にしたがって身内の名を挙げることをお許し願いたい。母 サト、亡き父 辰一に実行できずにきた親孝行の代替として。そして何よりも、家族の理解と忍耐がなければ教師を続けることもできなかった。妻 真美、息子 周一、娘 かすみに「ほんとうにありがとう」。

鈴木昌弘

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