岡山大学教育学部教授
岡山市立御野小学校校長
はじめに
田中智生
第1章 理論編
理論1 読むことの教育の構想
田中智生
理論2 「物語を読むって、おもしろい。」と、子どもがつぶやく授業をつくる
小川孝司
コラム 子どもたちの物語読書における読みの姿を探って
磯野千恵
第2章 実践編
第1学年
①おおきな かぶ
おもしろ見つけに挑戦する
嶋村尚美
②あいして いるから
価値ある反応を身に付け、主人公の変化を読み味わう
小寺智美
③夕日の しずく
気持ち反応を中心に、きりんとありの交流を読み味わう
野崎尚子
コラム 「おもしろ見つけ」の発想に立った教材研究
小川孝司
第2学年
①お手紙
言葉に立ち止まって反応し、登場人物の心の交流や変化を読み味わう
柿丸道子
②きつねのおきゃくさま
多様な反応をしながら、きつねのやさしさを読み味わう
久次正浩
コラム 「おもしろ見つけ」の発想に立った板書
小川孝司
第3学年
①ピータイルねこ
価値ある反応を生み出しながら、人物同士の関係や主人公の変化を読み味わう
石部聡美
②うさぎのさいばん
特長ある仕掛けに根ざした「比べ反応」を中心に、登場人物の知恵や考えの違いを読み味わう
小林和弘
③おにたのぼうし
多様な反応をつなぎながら、やさしさの象徴的な表現を読み味わう
近藤昌子
コラム 反応のよさを確かめる部分精読
小川孝司
第4学年
①白いぼうし
言葉を根拠にした反応で、主人公のやさしさやふしぎな世界を読み味わう
小川孝司
②いわたくんちのおばあちゃん
描写表現や人物の関係に根ざした反応を発揮して、親子の愛情を読み味わう
嘉数佐千子
③ごんぎつね
表現に即して反応を深化させながら、心のつながりを読み味わう
田岡朋子
④あたまにつまった石ころが
身に付けたおもしろ反応を使って、グループで伝記を読み味わう
稲本多加志
コラム 自らのおもしろ反応を意識する
小川孝司
第5学年
①カニモトくん
自分の生活経験に根ざした反応を中心に、物語を読み味わう
八代佳子
②競走
「変化反応」「関係反応」を中心に、次第に心のつながりを深めていく人物の関係を読み味わう
小野 桂
③大造じいさんとガン
「視点」を拠り所に「変化反応」を発揮し、大造じいさんの心情の変化を読み味わう
鳥越保行
コラム 読むことの発達系統
田中智生
第6学年
①竜
作者との対話反応を発揮しながら創作民話を読み味わう
石部圭一
②雪わたり
「作者との対話反応」を使いながら、主人公ときつねとの心の通い合いや
宮沢賢治の願いを読み味わう
三村直輝
コラム 読むことにおける学び合い
田中智生
おわりに
小川孝司
はじめに
物語を読む力は、読んでおもしろいと思えることだ。その力を育てるために、どんな作品に出会わせ、どんな活動を組織して、今まで感じることのできなかったおもしろさを感じることができるようにするか、それが物語の読むことの授業の課題である。
読者は、物語のテキストに出会い様々な反応をする。人それぞれの異なる反応をし、同じ人でも状況や成長によって反応が変化する。一人で読んでその作品のおもしろさがわかったつもりになっていても、仲間と自分の見つけたおもしろさの交流を行うことによって新たなおもしろさに気づくことも多い。物語との出会いは、作品に対する自分の反応との出会いと言い換えることもできる。そう考えると、物語を読む授業を、作品に対する反応との出会いを支援する場だと考えることができる。
私たち「岡山・小学校の国語を語る会」のメンバーは、子どもたちがすでに持っている物語に反応する力を手がかりに、学び合いを通して、新たな反応の力を獲得させ、おもしろさをより実感できるような授業づくりを模索してきた。2008 年に出した『直観からの出発 ―読む力が育つ「丸ごと読み」の指導―』(三省堂)は、その考え方に立って、感性的全体的把握である「直観」から出発し、読者の中に再創造される世界を文章表現に即して検証する指導過程を中心に構想した。それに対して本書で提案する「おもしろ見つけ」は、「直観」を裏付けている様々な反応の方に目を向けた指導法である。「丸ごと読み」と「おもしろ見つけ」とは読む力を育てる表裏の、あるいは二つで一つの指導法である。どちらの指導法も、指導者に導かれて指導者の予定していた読みにたどり着くのではなく、読み手である子どもたちの中に生まれた読みを育てていく考え方に立っている。
本書の中で「○○反応」という物語の何に反応するかを示す学習用語を使っている。この用語は、必ずしも固定された用語ではなく、学年や学級によってわかりやすいものにすればいいと考えているが、これを学校単位で共有していくと、低学年で獲得させたい反応や、高学年でようやく芽生える反応などを考慮して、発達段階に即した系統的な指導が可能になる。系統的な反応の部分については、ストーリー駆動から表現駆動へそしてポイント駆動へとつないでいく考え方を背景にしている。出会わせる作品の難易度で教育内容が変わるという発想から、反応の仕方・読み方を育てていくという発想に変える取り組みである。
もう一つ大事にしている発想は、学び合いである。必ずしもグループ学習の場面を想定しているわけでなく、仲間の気づきを教師の適切な取り立てによって学級の学びとするという考え方である。教師にとっては、教材研究の成果が問われる場面である。それだけに教材研究を深めれば深めた分、子どもたちに返してやることができる。「語る会」の月例会でも○年生の子どもに教材のどんな特質に気づいてほしいかを検討することは中心課題である。教材研究で何をするかが共有された仲間同士の検討の時間は、楽しい時間でもある。学び合いが成立している空間は、子どもにとっても教師にとっても楽しい時間だと思う。
本書実践編の執筆者は、学年配当の問題もあり、「語る会」メンバーの一部の人にとどまっている。しかし月例会での意見交換が反映されて原稿ができあがっており、研究会全員の成果として世に問いたいと思う。「おもしろ見つけ」の実践が初めての学級もあり、一年以上繰り返されている学級もある。当然、授業の導入段階の指導に違いが出てくる。まだまだ工夫の余地があることはいうまでもないが、そもそも基本の考え方が共有できていれば一定の形にはめる必要はないと思って取り組んでいる。今後よりよくしていくためにも、読んでいただいた方からのご批判やご指導をいただけるとありがたい。
なお、本書の出版に当たり、前書『直観からの出発 ―読む力が育つ「丸ごと読み」の指導―』に引き続き、三省堂の八尋さんに大変お世話になった。心からお礼申し上げます。
2012 年10 月 岡山・小学校の国語を語る会代表 田中智生
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