三省堂 発行書籍
プレイフル・ラーニング ワークショップの源流と学びの未来

現役にして伝説のワークショッパー、ハーバード大学博士・上田信行が「学びの場づくり」の奥義を語り明かす。ナビゲーターは中原淳東京大学准教授。学習環境デザインの歴史と、学びの未来を読み解く最強のテキスト。

  • 上田信行・中原 淳 編著
  • 2013年 1月 10日 発行
  • 定価 2,750円(本体2,500円+税10%)
  • B5変  200頁  ISBNコード 978-4-385-36564-0

著者紹介

上田信行 (うえだ・のぶゆき)

1950年、奈良県生まれ。同志社女子大学現代社会学部現代こども学科教授、ネオミュージアム館長。同志社大学卒業後、『セサミストリート』に触発され、セントラルミシガン大学大学院にてM.A.取得。ハーバード大学教育大学院にてEd.M., Ed.D.取得。専門は教育工学。プレイフル・ラーニングをキーワードに、学習環境デザインとメディア教育の先進的な研究をおこなっている。1996 - 1997 ハーバード大学教育大学院客員研究員 2010 - 2011 MITメディアラボ客員教授。著書に『プレイフル・シンキング:仕事を楽しくする思考法』(宣伝会議)、『協同と表現のワークショップ:学びのための環境のデザイン』 (東信堂、共編著)など。

中原淳 (なかはら・じゅん)

1975年、北海道生まれ。東京大学大学総合教育研究センター准教授。東京大学卒業後、大阪大学大学院で博士取得。専門は経営学習論。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。著書に『職場学習論』『経営学習論』(東京大学出版会)、『知がめぐり、人がつながる場のデザイン』(英治出版)、『職場学習の探究:企業人の成長を考える実証研究』(生産性出版)、『ダイアローグ 対話する組織』(ダイヤモンド社、共編著)、『Leaning×Performance インプロする組織:予定調和を超え、日常をゆさぶる』(三省堂、共編著)など。

金井壽宏 (かない・としひろ)

1954年、兵庫県生まれ。神戸大学社会科学系教育研究府長・経営学研究科教授(兼務)、経営人材研究所理事長。京都大学卒業後、神戸大学大学院、マサチューセッツ工科大学で学ぶ。Ph.D. (MIT・マネジメント)、博士(神戸大学・経営学)。専門は経営管理、経営行動科学。経営学における組織行動論、モティベーション、リーダーシップ、キャリア・ダイナミクスなどのテーマを中心に、組織と人にまつわる問題を研究。著書に『働くひとのためのキャリア・デザイン』(PHP研究所)、『仕事で「一皮むける」』(光文社)、『実践知 : エキスパートの知性』(有斐閣、共編著)、『戦略人事のビジョン:制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社、共著)など。

曽和具之 (そわ・ともゆき)

1973年、神戸生まれ。神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科准教授。高知大学理学部物理学科卒業後、千葉大学大学院にて多様性科学を専攻。学術博士。専門分野はコミュニケーションデザイン。高度情報化社会におけるプロセスの記録方法に関する教育・研究活動を行いつつ、2008年からは棚田の稲作活動を通して持続可能な農デザインの可能性を探っている。

舘野泰一 (たての・よしかず)

1983年、茨城県生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒業。現在は東京大学大学院学際情報学府博士課程中原研究室に所属。研究キーワードは「書くこと」「ワークショップ」「越境学習」「キャリア教育」など。表現や内省に関わる場づくりの実践や研究を行っている。

三宅由莉 (みやけ・ゆり)

1969年 堺生まれ。甲南女子大学文学研究科大学院修士課程修了。多摩美術大学副手を経て、広告会社にて広報誌の編集及びアートディレクションを行う。2002年に学習環境デザイン研究を実装するデザインオフィス「トロワ・メゾン」を設立。 現在、チーム活動に「Learning Designs」、「undesign」、「Playful Learning Devices」がある。

井上佐保子 (いのうえ・さおこ)

1972年、東京都生まれ。1995年に慶応義塾大学文学部を卒業。共同通信社、ダイヤモンド社を経て、2006年にフリーのライターとして独立。雑誌を中心に、「働くこと」「人材育成」をテーマとして、著名人、経営者、企業、一般社会人のインタビュー、取材記事を執筆。また、人事・教育分野の書籍ライティングも手がけている。

目次

プロローグ プレイフル・ラーニングの旅へ出かけよう 中原淳  12
第1章 プレイフル・ラーニングの旅 上田信行
      navigated by 中原淳 17

01 1970年代の学びのデザイン 「教えることのデザイン」 19
●「あの頃、ギターがパソコンだった!?」プレイフルの原点

●「道を究める」求道的ラーニングの時代

●「教育って楽しくてもいいんだ!」セサミストリートとの出会い

●セサミストリートのスタジオで「ワークショップの原点」に触れる

●世界一贅沢な!? ハーバード大学の授業

●「セサミストリート」が大成功した秘密

●制作プロセスそのものがワークショップ

●評価できなければ教育じゃない!?

●NHK「おかあさんといっしょ」とセサミストリート

◇1970年代の学びのデザインを振り返る  49

効率的かつ魅力的に知識を伝達するためのデザイン

教授設計理論

人間はからっぽな容器!?

教育番組「セサミストリート」

☆「1970年代の学びのデザイン」とプレイフル・ラーニングとのかかわり

02 1980年代の学びのデザイン 「学びに没頭する環境のデザイン」 55
●始まる前からゴールが決まっている授業なんて面白くない!

●コンピュータが教育を変える!?

●僕がやりたかったのは、「学習環境」だ!

●ボストン・チルドレンズ・ミュージアム「don’t touchからplease touchへ」

●「ものの見方」が「やる気」を変える!?

●面白ければ「やる気」は出る

●日本の子どもは中学1年で、固定的知能観へ変わる!?

◇1980年代の学びのデザインを振り返る  75

「教授」から「構成」へ

ピアジェの構成主義とパパートの構築主義

学習環境

動機論

☆「1980年代の学びのデザイン」とプレイフル・ラーニングとのかかわり

03 1990年代の学びのデザイン 「他者とのつながりと空間のデザイン」 79
●明日の可能性をひらいていく他者の存在

●教えないピアノ教室LMT

●ステージが学びを広げる

●プライベートミュージアム構想

●展示事のミュージアムをつくろう

●ネオミュージアム建設

◇1990年代の学びのデザインを振り返る 97

「学習環境」の拡張、ヴィゴツキーの再評価

ヴィゴツキーの理論「発達の最近接領域」

コミュニティの中で学ぶ、協調して学ぶ

学習における真正性

☆「1990年代の学びのデザイン」とプレイフル・ラーニングとのかかわり

 
04 プレイフル・ラーニングの実践  103
●人力コンピュータ実験 Human-Powered Computing Experiment 1993

●ラーニング・デザインへの挑戦

●メディアとしてのcube

●展覧会という名のカンファレンス

●ワークショップルームのあるマンション

◇プレイフル・ラーニングの実践を振り返る  127

モード2の科学

第2章 プレイフル・ラーニングへようこそ  129
      経験のREMIX unconference@neomuseum ルポ
       reported by 井上佐保子

●始まりは1通のメールから

●人は動きながら語り合う

●名札づくりを通して自分を表現

●オープングリッド

●新しいスタイルのカンファレンス

●何が起こるかわからない…脱予定調和

●女子大生からのおもてなし

●祝祭のはじまりは22時のロッケンロール

●そして前夜祭はつづく…

●舞台としてのネオミュージアム

●プロトタイプ、リファイン! プロトタイプ、リファイン!

●語り合うためのデザイン

●つながりのデザイン、振り返りのデザイン

● 「ハナシタイコト」を話し、「キキタイコト」を聞くアンカンファレンス

●1人1人の体験を共通体験にするリフレクション・ムービー

●終わらないアンカンファレンス


Column 1 リアルタイム・ドキュメンテーション 曽和具之  158
Column 2  「予定調和を超える場づくり」の系譜とその特徴 舘野泰一  162
Column 3 学びを触発するディバイスのデザイン 三宅由莉  166
第3章 プレイフル・ラーニング 旅のあとさき  173

経験のREMIX unconference@neomuseumを振り返って

鼎談 金井壽宏×上田信行×中原淳

●真剣に学び、真剣に遊ぶ

●「遊び」とは人々が動いているさま

●ワークショップと日常

●ネオミュージアム

●セオリーは自分でつくる

●学びはアウトプット

●アイスブレイクと言わずに氷を解かす

●振り切る勇気と思い切り

●ワークショップ・デザインで本当に大切なこと

●アンカンファレンス

●祝祭と日常 ハレとケ

エピローグ プレイフル・ラーニングの旅はつづく  191
プレイフルに、リスキーにいこう!
       ── 問いに生き続けることを願って  中原淳  192

旅の原動力は「憧れ」  上田信行  195

プロローグ

プレイフル・ラーニングの旅へ出かけよう
中原 淳
 「学び」や「教育」の言説空間において、ここ十数年で起こった変化を、3つのワードで端的に表現するとしたら、あなたは、何という用語を選びますか?
 もし、読者の皆さんが、こうした「問い」を突然投げかけられたとしたら、どう答えるでしょうか。
 この問いに「唯一絶対の正解」はありません。問いを投げかけられた人々が、それぞれの専門性や置かれている立場で、答えるしかないと思います。読者の皆さんならば、どういうキーワードを脳裏に思い浮かべますか?
 仮に、僕が、この問いを投げかけられたとしたら、こう答えるかもしれません。それは「オルタナティブ」「インタラクティブ」「アマチュア」の3つのワードです。
 「オルタナティブ」とは「既存のものとは別の」という意味であり、「インタラクティブ」とは「双方向性」、そして「アマチュア」とは「教育の非専門家」を示します。
 3つのワードを選ぶことで僕が描き出したい、この10年の変化は、こういうことです。
 つまり「教育の非専門家(アマチュア)が、自分の専門性や経験をもとに、既存の(学校)教育ではない、"オルタナティブな学びの場"を組織するようになってきた。そこに志や興味関心を同じくする人々が集い、双方向(インタラクティブ)のコミュニケーションを取りつつ、学ぶようになってきた」ということです。誤解を避けるために断言しておきますが、教育専門家の役割が低下したということではありません。むしろ彼らの専門性はさらに高度なものが求められています。教育の専門家と 連携/ 補完/ 役割分担するかたちで、教育の非専門家による学びの場の創出が増えてきているのです。
 具体的には、組織外で開催される様々な勉強会や交流会。はたまた、キャリアやイノベーションなど、各種のテーマに基づき開催されているワークショップなどが想定できるでしょうか。近年「朝活(早朝に行われる勉強会)」という言葉も生まれました。都市全体を「大学」に見たてた自主的な学習共同体も出現しています。
 子どもを対象にしたワークショップも全盛期を迎えています。アートや造形を行うワークショップ、プログラミングを行うワークショップ。様々なものが提唱され、実践されています。
 これらの隆盛を支えた要因は、多種多様です。しかし、おそらくインターネットやソーシャルメディアが引き起こした「動員の革命」は、こうしたオルタナティブな学びの空間への周知に一役買っています。
 かくして―現在では主に都市部が中心ですが―様々な人々が、自分の専門や経験を活かし、「単位にも学位にもつながらない学びの場」を組織するようになってきました。いわゆる「ワークショップバブル」と呼ばれるような様相を呈しているのが「現在」であると思います。
 これまで教育機関や専門家の手によって提供されてきた「学びの機会の創出」に、市井の人々が積極的に参加し、量的拡大をしたことは喜ぶべきことです。特に、教育のリソースが減少していく中で、教育の専門家と連携 / 補完 / 役割分担するかたちで、社会に学びのリソースが増えることは望ましいことであると僕は思います。それは「learningful society(学びに満ちた社会)」の実現に重要な役割を果たすでしょう。
 しかし、一方、このバブル状況において、憂慮するべき事態も生まれてきているようにも思います。最大の憂慮すべき事態は、「クオリティが玉石混淆である」という点です。誰もが「教え手」になれるということは、必然的に「クオリティの格差」が生まれることを意味しています。ひと言でいえば、「それぞれの専門性や経験にねざした素晴らしい学びの場」が生まれる一方で、「学びを生み出す以前のレベルの場」も存在する、ということです。
 学習内容がそもそも不明確なまま、参加者に学びを強制し丸投げして、主催者側が自己陶酔しているパターンもありえます。不適切なファシリテーションによって、学習者を必要以上に混乱させていたりする事例は枚挙に暇がありません。活動を詰め込みすぎて、内省を行う時間がないこともあります。また、ある所で自分が経験した教育手法を絶対化・教条化・固定化し、学習者に息苦しい学習機会を提供している場合もありえます。それらは「オルタナティブ」「インタラクティブ」「アマチュア」の3つのワードが必然的に抱えざるをえなかった負の部分です。それら3つの概念は、素晴らしい学びの機会を創出する一方で、他方、闇を生み出しうるものなのです。
 さて、少し話題を変えましょう。
 時代をさかのぼって、1990年代前半に時計の針を戻してみることにします。ワークショップという言葉が流行・消費されはじめるちょっと前、この頃、「オルタナティブな学びの場」をつくりだすための社会実験を繰り返し、そうした一連の試みを「ワークショップ」と呼んだ人物がいます。それが、本書の共著者である上田信行さんです。
 上田さんは、大学卒業後、紆余曲折をへて、ハーバード大学・教育大学院で博士号を取得し、当時の「学びの科学研究」から様々な着想を受け、自らも「実験的で、先端的で、革新的なオルタナティブな学びのあり方」を探究していました。
 上田さんは、留学中に目にした様々な理論や学びの空間にインスピレーションを受け、「多くの人々が集まり、出会い、相互作用する中で、様々な気づきを得ることのできる学びの場」をつくることを夢見て、それを実践する私的ミュージアムまで建設し始めました。
 自分のワークショップのために、自腹でミュージアム(ワークショップ空間)まで建築する。そうした破天荒とも思われる研究・実践の果てに、本書のテーマである「プレイフル・ラーニング」という概念を生み出します。上田さんは数々の社会実験を繰り返し、この概念にたどり着きました。
 上田さんが探究し続けたことでもあり、かつ、本書のテーマでもあるプレイフル・ラーニング(playful learning)という言葉は、一般には聞き慣れない言葉かもしれません。
 プレイフル(playful)とは、ひと言でいいますと、「楽しさのこと」。それに続くラーニング(learning)は「学び」のことですので、プレイフル・ラーニングとは、「楽しさの中にある学び」という風にも解釈できそうです。おそらく、この概念は、「アカデミックな辞書」には掲載すらされていません。むしろ、上田さんが、様々な学習理論にインスパイアーされながら、自ら現場で実践を積み重ねる中で、少しずつ輪郭をあらわにした「概念」であるからです。しかし、それはアカデミックなフォーマルセオリーよりも根拠が薄い、ということを意味しません。現場での経験の蓄積と、それを活かしたアブダクション(仮説形成)の果てに、この概念が生まれているのです。それはおいそれと否定できるものではありません。
 一般に「楽しさ」と「学ぶこと」は相容れない言葉です。「学び」「ラーニング」という言葉からは、「辛くて、堅苦しい、受験勉強」を想定してしまう人もいるかもしれませんので、「楽しく学ぶ」ということを訝しがる方もいらっしゃるかもしれません。
 プレイフル・ラーニングの細かな理論的背景は、こののち、おいおい論じていくものとして、ここでは「プレイフル・ラーニング」を、「人々が集い、ともに楽しさを感じることのできるような活動やコミュニケーション(共愉的活動・共愉的コミュニケーション)を通じて、学び、気づき、変化すること」と、ゆるやかに考えておくことにいたしましょう。
 プレイフル・ラーニングは、まず「人々が集う場」におこります。そして、そこには「楽しさを感じられる活動」がある。つづいて「学び」や「気づき」や「変化」が予期されている。この3点が、どうやらプレイフル・ラーニングを構成する要素のようです。
 さて、ここまで読まれた読者の方々で、勘の鋭い方は、もうおわかりかもしれません。
 本書の目的は、様々なオルタナティブな学びの場づくりの実践を繰り返してきた、上田信行さんの実践の歴史、彼が影響を受けてきた理論や思想の歴史を紹介することで、クオリティの高い、革新的な「オルタナティブな学びの場」をつくりだすために必要なことを紹介することです。もちろん、オルタナティブな学びの場づくりやワークショップには、多種多様な理論的源流がありますので、ここで紹介しうるのは、あくまで上田さんの実践やプレイフル・ラーニングを裏打ちする理論群です。
 本書の趣旨をひと言で述べるならば、「オルタナティブな学びの場づくり」は、「プレイフル・ラーニングの創発する場所である必要がある」、ということであり、「プレイフル・ラーニングを生み出すためには、本書で紹介する理論・思想を押さえておく必要がある」ということです。「よい理論ほど実践的なものはない」といったのはグループダイナミクスの祖 クルト・レヴィンです。骨太の理論・思想は、素晴らしい実践を生み出す土壌です。
 ともにこの本を記す、上田さんと僕は、今から15年ほど前、関西で出会いました。それ以来、一緒にワークショップや研究会をしたりしてご一緒させていただいています。僕と上田さんは、息子と父親ほどに年齢が離れていますが、ふだん、僕自身は、そのことをあまり意識することはありません。上田さんには失礼な話かもしれませんが、「同僚とほぼ同じような関係で、ディスカッションをしたり、情報をシェアしたりすること」のできる間柄です。
 僕は、上田信行さんは「この50年で最も社会に影響を与えた学習の実践的研究者の1人であると思っています。実際、今となっては「ワークショップ」という言葉は、誰もが使う言葉となっていますが、わずか20年前には、その言葉は「作業場」以上の意味はありませんでした。上田さんが、プレイフル・ラーニングの実践を積み重ね、ワークショップという言葉の輪郭をつくりあげていったのです。
 このように上田さんは、大きな影響を与えた実践的研究者ではありますが、上田さんは論文や書籍のかたちで、あまり自らの実践を語ることをしません。ですので、その研究プロセスや業績に関しては、あまり知られていないのが現状です。
 俗に研究者のあいだには「記録に残る研究者になるのか、記憶に残る研究者になるのか」という二者択一を含む問いがありますが、上田さんは後者には間違いなく属するものの、前者の研究者ではありませんでした。僕は、こうした状況を、横から勝手に憂慮していました。「父親のように大きい人」の存在を「記録」に残したい、という思いがふつふつとこみ上げてきました。
 本書を執筆するにあたり、僕は、先達の「聞き役」に徹しました。上田さんが経験してきた実践の歴史、上田さんが影響を受けてきた思想・理論を聞き取り、それをそのまま伝えることをめざしてきました。
 オルタナティブな学びの場にしのびよる教条化・固定化の影、クオリティへの懸念に対して、上田さんの追求してきたことを、読者の皆さんに伝えることが、今、必要だと僕は思っています。そうすれば、「オルタナティブな学びの場」は、プレイフル・ラーニングのインキュベーション装置になりうるはずなのです。そんなビジョンのもと、本書は編まれました。
 最後に本書が想定している読者層と本書の構成について述べます。 
 本書は、ビジネス、教育の現場などでラーニングデザインを実践している人、あるいはラーニングデザインに興味がある人を対象にしています。
 上田さんのプレイフル・ラーニングの歴史を追いつつも、ラーニング理論についての基礎も学べるようになっているので、ワークショップ等の、いわゆる「場づくりの実践」をなさっている方にはぜひ読んでいただきたい内容です。
 とかく、ワークショップに関する本は、いわゆるHow toや技法の紹介、ないしはワークショップ批評にとどまる傾向があります。それもワークショップデザインにとって必要なことではありますが、一方で忘れ去られがちなのは、その背後に横たわる理論的背景・思想的背景です。そうした内容について常に意識的である必要はないのですが、ある程度のことができるようになったあとは、ぜひ意識しておいておくとよい内容です。 
 第1章では、上田さんにその半生を振り返っていただき、上田さんの「プレイフル・ラーニングを追求する旅」をたどります。上田さんの歴史は、ラーニングデザイン研究の発展の歴史そのものです。各節の終わりには、その時代背景をより理解していただけるよう、それぞれの時代のラーニング・デザイン研究についての解説を入れました。
 第2章では、2011年12月4,5日に吉野にあるネオミュージアムで行われた実験的なラーニング・イベント「経験のREMIX unconference@neomuseum」をルポ形式でご紹介します。このイベントは、上田さんと僕とで主催し、120名の参加者を得て、無事終わりました。私たちは「オルタナティブな学びの場づくり」を、今もなお、行っています。それは「完成」してはいけないことなのです。こちらでは、「経験のREMIX unconference@neomuseum」で生まれたプレイフル・ラーニングを追体験することができます。
 第3章では、「経験のREMIX unconference@neomuseum」後、ゲストとして参加してくださった神戸大学大学院経営学研究科の金井壽宏先生を迎え、金井×上田×中原による鼎談を収録しました。「経験のREMIX unconference@neomuseum」を振り返りつつ、今、この時代にプレイフル・ラーニングの持つ意味とその可能性を探ります。
 僕たちは、上田さんの実践や彼が影響を受けてきた思想や理論から、多くを学べるような気がします。「お仕着せのワークショップ」や「落としどころの決まった研修」を拒否し、「楽しさの中で異質な人々、物事が出会い、その出来事がきっかけで、変化や気づきが生まれる学びの場」をつくりだしたい、と願う人々は、上田さんの歩んできた旅路を、僕と一緒にたどってみませんか。
Are you all set?
Welcome to the journeys of playful learning!

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