三省堂 発行書籍
源氏物語ハンドブック

全54巻のあらすじをやさしく解説。登場人物のプロフィールや人物相関、「源氏」学の変遷、その舞台と生活環境、作者・紫式部の生涯を詳しく紹介。読むための重要語句・熟語、年表など、資料も充実。

  • 鈴木日出男
  • 1998年 3月 3日 発行
  • 定価 1,800円+税
  • A5変  256頁  ISBNコード 978-4-385-41034-0

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目次

第一部 物語の鑑賞

第二部 物語の登場人物

第三部 紫式部と『源氏物語』

  紫式部の生涯
  『紫式部日記』
  『源氏物語』への道

第四部 『源氏物語』の伝統

  「源氏」学の変遷
  さまざまな「源氏絵」

第五部 『源氏物語』の環境

  物語の舞台
  恋の諸相
  生活環境
  年中行事と生活儀礼

第六部 『源氏物語』のことば

  読むための重要語句(キーワード)
  考えるための術語(テクニカルターム)
  味わうための花鳥風月

『源氏物語』年立(年表)

参考図書

索引

『源氏物語』を読みとくためのハンドブック

《自著自自讃 小社PR誌 ぶっくれっと No.129》より

鈴木日出男(すずき・ひでお 東京大学教授)

『源氏物語』が、われわれが世界に誇るべき一大古典であることは、誰しも異存のないところだが、いざ、これを読み解くべく相手どるとなると、容易ならざる難行苦行を強いられることになる。言葉や表現の難解なこと、五十四帖というとてつもない長大な分量、しかもその内容や人間関係もややこしく複雑に入りくんでいることなどが、全文の通読を敬遠させる由因になっている。須磨がえり、という言葉もある。第十二帖の須磨の巻までどうにか読みすすんだところで、それまでの物語の経緯がはっきりつかめていないのに気づいて、はじめの桐壺の巻から読みかえそうとすることである。

古くから人々は、この長大な物語をより正確に理解しようと、さまざまな工夫を重ねてきた。難解な語句や表現を解きほぐす注釈はもちろんのこと、物語の内容や作中人物の事蹟を年表ふうに整理する年立(とし/だて)、作中人物の血縁・姻戚関係を図示する系図や、個々の人物を総体的に整理して解説する人物綜覧、あるいは物語内容をかいつまんで解説する梗概など、はるかに溯る室町時代あたりから、盛んに試みられてきた。もちろん、今日一般に行われている現代語訳もまた、こうした理解のための工夫の一つである。

いったい、『源氏物語』を読んで理解するというのは、具体的にどういう作業なのだろう。まずは、物語の筋、具体的な内容を知るという読み方がある。そのためには、難解な原典の本文によらずとも、信頼における現代語訳によっても、ある程度その目的は果たせるであろう。しかしその場合でも、内容の厄介な複雑さを克服するのに、梗概・人物綜覧・年立・系図などが大いに役立つことになる。古来、『源氏』の愛読者の多くが、そうした工夫に導かれながら、読み、考えてきたのである。

また、物語を、筋本位で読むのを超えて、言葉そのものに執する読み方がある。原典とじかに対面して、その言葉に機微にふれることは、読むことの興味を倍加させる。たとえば、光源氏と深く関わる女君たちが、なぜほとんど一様に、自らの宿縁を痛恨する気持の「憂(う)し」の語を発するのか、また夕顔の巻ではなぜ「あやし」の語が繰り返し用いられるのか、あるいは紫の上がなぜ「桜(花)」に喩(たと)えられるのか。すぐれた物語文学であるだけに、その虚構世界は言葉の雄弁な力によっていて、その分だけ緻密に構築されている。

筋で読むにせよ、言葉で読むにせよ、『源氏物語』の読解観賞のために、その手がかりを与える道案内、ガイドブックの必要なことは、これまでの長い享受の歴史が証明してくれよう。もとよりこの物語は、今日の小説一般とは異なり、古代的なるものを基盤にして斬新な世界を現出させている作品である。その普遍性を理解するためにも、古伝承、語りの方法、行事・儀礼・習俗などという古くからの伝統を知る必要もある。作中人物たちが多くの歌を詠みあうことも、古代の物語ならではのことである。

このたび発刊の『源氏物語ハンドブック』は、読解鑑賞のための多様な要請に応じられるように工夫をこらしたつもりである。各巻の梗概と問題点、主要人物綜覧・年立・系図などはもちろん、作者紫式部のこと、この物語のしくみや特質、物語の環境や習俗や場面、あるいは後世の享受の仕方など、実に多岐にわたっている。そして辞典ふうに編んだキーワード集では、この物語の勘どころになっている用語、さらにこの物語の意味するものを深く考えるために必要な術語も取りあげてある。物語を読む喜びの一つに、親しい人々とこれを語りあう楽しみもある。考えるための術語などを他者との共通理解の言葉としながら、たがいの理解を深めていただきたいと思う。紫式部自身も、自分の書いた物語をめぐつて、多くの人々と文通を交わし心を通わせることで、日ごろの憂愁の思いから救われる気持になった、と『紫式部日記』に記している。

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