三省堂のWebコラム

大島希巳江の英語コラム

No.15 日本語にはない英語表現

大島希巳江
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授,「NEW CROWN」編集委員

2021年04月30日

英語を日本語に直訳すると…

 これまで,英語にはない日本語を多く紹介してきましたが,今回は逆に,日本語にはない英語で困った話をしてみたいと思います。誰もがよく知っている英語のあいづち, “I know.” 日本語でいうところの「ああ,そうだね」「うん,だよね」といったニュアンスでしょうか。ニューヨークから帰国したばかりの中学2年生の女の子が,テニスクラブでコーチに「この間の試合,よく頑張ったよね。よかったよ!」と褒められて「はい,知っています。」と答えてチーム全体を微妙な空気にしていました。間違いなく, “Yes, I know.” を頭の中ですばやく翻訳したのだと思います。苦笑いの一瞬でした。

 アメリカに住んで1年近く経った頃,公園に遊びに行っていた10歳の次男が帰ってきました。

 

次男「公園で友達見てきたよ。」

私「…見てきただけ?」

次男「ううん,見て,一緒にサッカーしてきた。」

私「公園で友達に会ったのね。それでサッカーしたの?」

次男「うん,そう。Like I said, I saw my friends at the park. So we played soccer.

 

友達を見てきた,とは “I saw my friend.” の直訳だったわけです。日本語の「会う」は幅広く使われるのに対して,英語のmeetseeはしっかり使い分けがされています。通常,meetは初めて会うときや,正式な紹介を経て会うようなやや改まった場面で使われ(Nice to meet you, I would like to meet your family, It was good to meet you, I just met my son’s girlfriend,など),知り合いや友達に偶然道端や公園などで会ったときにはseeを使います(I just saw my sister at the market, I will see you tomorrow, I am going to see my dad next week,など)。特別に待ち合わせをしたりするときはまた別途meet upを使います。このあたりも英語から日本語,日本語から英語の使い分けが混乱しやすいところですね。

日本語にはない英語表現

 日本語も英語も堪能なアメリカ人の夫ですが,ときどき苦悩するのが日本語に「できたい」という表現がないことだそうです。英語ではwant to be able to …で表現できることが多くあります。例えば,料理番組でシェフがものすごいスピードでキュウリを薄く輪切りにするのを見ると,包丁を持って同じように切ろうとするのですが,当然なかなか上手にできません。そんなとき,「うう~ん…,上手に切れたい! あれ,そんな日本語ない? できたい! あれ,これも変? I just want to say that I wanna be able to do this!」一番近い日本語は「~できるようになりたい」だと思うのですが,それほど悠長なことではなく,今すぐ「できたい」もしくは「やれたい」という場合は何と言えばいいのでしょう? 確かに,難しい表現です。いまだにこの英語に見合う日本語が見つかっていません…。

 

 夏になるとどうしても子どもたちにつき合ってアウトドアの活動が多くなります。油断するとすぐに日焼けしてしまい,我が家で一番日焼けしやすい私は小麦色を通り越してカフェラテ色と言われています。アメリカでは,あまり日焼けすると “You are going to look like a raisin when you get old.”(おばあちゃんになった時にレーズンになっちゃうよ。)と言うのだそうです。なるほど,肌がしわくちゃの茶褐色になってレーズン…,なんとなくわかります。でも,日本ではそういう言い方はしません。私が「日本人はレーズンにはならないんじゃない?」と言うと,夫は「ああ,そうか。日本人だから干しブドウになるのか。いや,もしくは干し柿か…。」どうしてもドライフルーツにしたいようです。これもまた日本語にはない表現で,面白いですね。

言葉と習慣

 英語とは関係ないのですが,言葉と習慣の理解が十分にあって初めて会話は成り立つのだなあと実感することがあります。先日,私が日本語で「やっぱり美味しいものって揚げ物とか,味の濃いものとか,カロリーが高いものが多いね。それをしろめしで食べるとさらに美味しいんだよねえ。」と買い物しながらふと言いました。すると夫は目を丸くして「ええっ,そうなの!? しろめして食べると美味しいの!? うえー,知らなかった!」私たちはしばらくこの会話のズレに気がつかなかったのですが,おわかりでしょうか。私は白飯(しろめし)で食べると美味しいと言い,夫は白目(しろめ)して食べると美味しいと聞こえた,ということです。日本に長年住んでいても意外に知らない言葉はあるもので,夫は白飯(しろめし)という言い方を知らなかったとのこと。そのため,「白飯で食べる」が「白目して食べる」に聞こえたのです。白目という言葉は知っていたのですね。なので,白目をしながら食べると美味しいという,日本の古いことわざがあるのだと思ったようです。すぐに誤解が解けてよかったです。このようなことは実はちょくちょく起こるようで,その場で正しい理解にたどり着けないこともあり,やがてそのあと誰かと話したときにとんでもない誤解をしていたことに気がつくのだそうです。

 もう一つ,日本語に関するエピソードがあります。アメリカから帰国して,区役所で転入届の書類を書いていたときのこと。誕生日を書くのですが,40代の私たちは昭和○○年○月○日,と書くことに慣れています。アメリカ人の夫もいつも通り昭和○○年,と書きました。すると区役所の方が「すみません,外国人の方は西暦でお願いします。…昭和生まれではないので。」とおっしゃいました。日本で生まれたわけではないのだから,昭和生まれにはなりえない,ということなのだそうです。なるほど,不思議なような,しかし筋が通っているような…。いままで昭和生まれで通ってきた夫も,驚きながら「そうなのかー,わかりました。」と納得したのですが,昭和という漢字は書けても西暦という漢字が書けなかった夫。区役所の方に恥を忍んで「西暦」という漢字を書いて教えてもらったそうです。

 

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大島希巳江 著
定価 2,200円(本体2,000円+税10%) A5判 128頁
978-4-385-36156-7
2013年6月20日発行

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プロフィール

大島希巳江    おおしま・きみえ
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授,「NEW CROWN」編集委員

教育学(社会言語学)博士。専門分野は社会言語学,異文化コミュニケーション,ユーモア学。

1996年から英語落語のプロデュースを手がけ,自身も古典,新作落語を演じる。毎年海外公演ツアーを企画,世界20カ国近くで公演を行っている。

著書に,『やってみよう!教室で英語落語』(三省堂),『日本の笑いと世界のユーモア』(世界思想社),『英語落語で世界を笑わす!』(共著・立川志の輔),『英語の笑えるジョーク百連発』(共に研究社)他多数。

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