三省堂のWebコラム

大島希巳江の英語コラム

No.21 笑いとユーモアの根底にあるもの⑥:英語圏の「出来合いジョーク」が果たす重要な役割

大島希巳江
神奈川大学 国際日本学部 国際文化交流学科、「NEW CROWN」編集委員

2023年10月11日

「出来合いジョーク」の種類

 英語のジョークと言っても、英語圏にも各国の特徴がありますから一概には言えませんが、多くの場合は普遍的で万人受けする「出来合いジョーク」が多いようです。スタイルで分類すると、「Q&A形式のもの」と「ストーリー形式のもの」の大きく二つに分かれます。ジョークの対象は様々ですが、日本にあまりないものとしては、職業に関するジョーク(弁護士、医者、教師、農業者など)、エスニックジョーク、金髪美女ジョーク、特定のスポーツやアクティビティのジョーク(ゴルフ、釣りなど)、が多くみられます。もちろんどこの国でもネタとしてポピュラーな酔っ払いジョーク、男女(夫婦)ジョーク、間抜けジョーク、田舎者ジョーク、老人ジョーク、言葉を使っただじゃれ(word playやpun)もありますが、スタイルとしてはやはりそれぞれのステレオタイプを中心とした「ある男が・・・」で始まるものがほとんどです。個人的なエピソードが出回るという例はあまりみられません。

 

At a restaurant.

Q: What’s the difference between a bad customer and a canoe?

A: A canoe tips sometimes.

質問:嫌な客とカヌーの違いはなんでしょうか?

答え:カヌーなら時々はチップするよね。

 

名詞のtipは心付けのちょっとしたお金、チップのことですが、動詞のtipになると転覆する、ひっくり返る、という意味になります。このようなジョークはQ&Aスタイルを使った典型的なpunですね。無害で普遍的(ただし、チップ制の地域でないとわかりにくい)なジョークと言えます。

 

   A math teacher asked, “You have one dollar in your pocket. And you asked your father for a dollar and fifty cents. How much do you have?” A student replied, “I have one dollar.” The teacher said, “You don’t understand basic math!” The student said, “You don’t understand my dad.”

算数の先生がある生徒に聞きました。

先生「あなたのポケットには1ドル入っています。お父さんに1ドル50セントちょうだいとお願いしました。さてあなたはいくら持っているでしょう?」

生徒「1ドルです。」

先生「あなたは算数の基礎がわかっていませんね!」

生徒「先生は僕のお父さんをわかってないんだよ。」

 

 先生と生徒ジョーク、親子ジョークも数多くありますが、ステレオタイプとしては生意気で賢い子どもに大人がしてやられるパターンが多いようです。こういったジョークはかなり普遍的ですが、次のものはどうでしょうか。

 

   A family came to visit a big city for the first time. The father and his son were in front of an elevator. The father asked, “What do you think this box is?” Then an old lady walked into the box and the door closed. After a while, a young pretty blonde came out of the box. The father said, “Son, go get you mother, now!”

 ある家族が田舎から初めて大都会へやってきました。父親と息子はエレベーターの前に立っています。父親が「この箱、なんだと思う?」と聞いていると、おばあさんが箱に乗り込み、ドアが閉まりました。しばらくすると、美しい若い金髪女性が箱から出てきました。父親は言いました。「息子よ、今すぐ母ちゃんを連れてきな!」

 

 田舎者ジョークの典型的なものです。笑いどころは理解できるのですが、日本のおもしろい話のように「わかる、わかる~」、「いるよね、そういう人!」とピンとこないのはジョークスタイルの違いと、どこかの誰かが主人公であって、自分との関わりが薄く、登場人物や話とのつながりを感じにくいからかもしれません。

 

 さて、No.18 笑いとユーモアの根底にあるもの③では、ワイズマン博士の「世界一面白いジョーク」調査で第1位になったハンタージョークを紹介しました。それにちなんで第2位になったジョークをここで紹介しましょう。

 

   Sherlock Holmes and Dr Watson were going camping.  They pitched their tent under the stars and went to sleep.  Sometime in the middle of the night Holmes woke Watson up and said: “Watson, look up at the stars, and tell me what you see.”

   Watson replied: “I see millions and millions of stars.”

   Holmes said: “and what do you deduce from that?”

   Watson replied: “Well, if there are millions of stars, and if even a few of those have planets, it’s quite likely there are some planets like earth out there.  And if there are a few planets like earth out there, there might also be life.”

   And Holmes said: “Watson, you idiot, it means that somebody stole our tent.”

 シャーロック・ホームズとワトソン博士がキャンプに出かけました。夜、星空の下でテントを張って寝ていると、夜中にホームズがワトソンを起こして言いました。「ワトソン君、空を見上げて何が見えるか教えてくれないか。」

ワトソン「えーと、星がたくさん見えます。」

ホームズ「それで、それから何か推察されるかね?」

ワトソン「えー、星がたくさんあると言うことは、もしその中のいくつかに惑星があるようなら、地球のような惑星がある可能性もあります。それで地球のような惑星があるのだとすれば、生物もいるかもしれないということで…。」

ホームズ「ワトソン君、キミはアホか!これは誰かが我々のテントを盗んだということだ。」

 

<参考文献>

Richard Wiseman “LaughLab”(2023年4月20日)

https://richardwiseman.wordpress.com/psychology-of-humour/

 

 世界でもよく知られたシャーロック・ホームズとワトソン博士のそれぞれの職業(探偵と医者)、性格(傲慢な天才と謙虚で忠実な弟子)、そして彼らの関係を見事に表したジョークです。

 

英語圏の多様性がもたらした、出来合いジョークの意義

 英語圏は低コンテクスト社会であることが多いのは、その多様性により、文化や社会通念などの共通のコンテクストをほとんどもっていないことが多いからだと思われます。社会の構成員の常識にずれがあればあるほど、「これっておかしいよね」「わかるわかるー」と言い合えるような内輪ウケのジョークは通じにくくなります。また、さまざまな民族、文化、社会背景の人々が混在している多民族、多文化社会では、個人的なエピソードは個人攻撃をしているかのような誤解を与える危険性もあると考えられます。そういったことを避けるためにも、あまりステレオタイプからはみ出さないように「出来合いジョーク」を言い合う習慣ができたのかもしれません。

 どこかで聞いたような、どこかから持ってきたようなネタを言い合うことにどんな意味があるのか?と思われるかもしれません。そこは、やはり相手を笑わせようとしたという思いやりの部分が重視されるのだと思います。誰でも笑えるようなわかりやすいジョーク、もしかしたら相手も既に知っているかもしれないジョークだけれど、言うことによって「私はあなたを笑わせようとしたよ。敵意は一切ないから仲良くしようね。」というメッセージの表れとなるのです。そのようなメッセージを交換することが、文化や社会通念を共有しないが故に誤解が生まれやすい多民族、多文化社会では大事なのです。

 

やってみよう!教室で英語落語 [DVD付き]

大島希巳江 著
定価 2,200円(本体2,000円+税10%) A5判 128頁
978-4-385-36156-7
2013年6月20日発行

三省堂WebShopで購入

プロフィール

大島希巳江    おおしま・きみえ
神奈川大学 国際日本学部 国際文化交流学科、「NEW CROWN」編集委員

教育学(社会言語学)博士。専門分野は社会言語学、異文化コミュニケーション、ユーモア学。

1996年から英語落語のプロデュースを手がけ、自身も古典、新作落語を演じる。毎年海外公演ツアーを企画、世界20カ国近くで公演を行っている。

著書に、『やってみよう!教室で英語落語』(三省堂)、『日本の笑いと世界のユーモア』(世界思想社)、『英語落語で世界を笑わす!』(共著・立川志の輔)、『英語の笑えるジョーク百連発』(共に研究社)他多数。

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