三省堂のWebコラム

ことば×思考×学び

ICTがあたりまえの時代の国語教育【先行公開編】

堀田龍也(東北大学大学院教授)×松永和也(桐蔭学園国語科教諭)

2020年11月16日

学習のための1人1台端末と高速大容量ネットワークの整備が進められています。国語科の授業は,どのように変わるべきなのでしょうか。
2020年9月某日,「ことばの学び」No.13の対談企画として,教育ICT研究の堀田龍也教授と,国語科の松永和也先生に国語科ICTの今後についてお話しいただきました。その様子をウェブサイトにて先行公開いたします!

対談の番外編も,1週間後に公開予定です。楽しみにお待ちください。
なお,「ことばの学び」No.13は,2020年11月末より,アーカイブからダウンロードしてお読みいただくことができます。

「1人1台端末」の時代

松永:昨年末(令和元年12月)に発表された「GIGAスクール構想*」と,このコロナ禍で,学びの環境が大きく変わりそうです。そもそも「1人1台端末」はどのような背景で求められてきているのでしょうか。

 

* GIGAスクール構想:児童・生徒1人1台端末と高速大容量ネットワークを学校に整備し、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない教育を実現する構想。文部科学省が提唱。(関連情報はこちら

 

堀田:急に決まったという印象をおもちの方も多いようですが,「学習者に1人1台の端末を」という話は10年前からありました。
松永先生は,端末を何台使っていますか?

 

松永:PCは3台です。家のデスクトップと,学校と,今日持ってきているこれです。それにスマホ1台とタブレット1台です。

 

堀田:ぜんぶで5台! 5台は極端ですが,「1人1台」はあたりまえの時代なんですよね。
大人がPC等を活用して仕事を効率化・深化させている時代,これから社会へ出ていく子供たちも,ICTを「学びの道具」として活用して学習の効率を上げ,また,日常生活や社会でそのスキルを生かすことができるように,学校が導いていく必要があります。そのために,新学習指導要領では情報活用能力を「学習の基盤となる資質・能力」の一つとして位置づけました。
ところが実際の学校では,ICT環境の整備がまだ不十分なところも多い。このままでよいのか,ということで「GIGAスクール構想」が推進されているわけです。

 

松永:未来予想図から逆算した構想ではなく,すでにそういう時代を生きているから,対応が急がれる,ということなのですね。

タブレットは「学びの道具」?

 松永:学校現場にいる者の実感としては,環境が整備されても,「学びの道具」という認識が浸透するにはまだまだ時間がかかるのではないかと感じます。OECD調査**で,日本は学習でのICT活用が最下位なのに対してチャット等での利用は1位でしたね。タブレットは「遊びの道具」だと思われていて,子供がタブレットを触っていれば,親は「遊んでいるんじゃないか」と見てしまう。子供たちもそうです。

 

** 「PISA2018(OECD生徒の学習到達度調査2018年調査)」のこと。(関連情報はこちら

 
堀田:なぜ,学校は「学びの道具」にできなかったのでしょうか。
だいぶ前ですが,大人の社会でも,PCを触っていると「仕事をしていない」と見られていた時代があったんですよ。
 
松永:え!? それは職場でもですか。
 
堀田:職員室にPCが2台くらいしかなかった時代があるんですよ(笑)そんな状態から何年もかかって,1人1人がPCを使って仕事をするのがあたりまえになっていきました。今はもうそういう目で見られることはありません。職場のICT環境の整備を経て,時間をかけて認識が変化したわけです。

松永:文化の変容ということですね。そう考えると,1人1台端末も,「それがある環境で過ごす時間」を増やしていくことが重要なのかなと思います。
中学生を担当していたとき,朝のホームルームで1分間スピーチを実施していたのですが,タブレットで写真を見せることをルールにしていました。「毎朝歯磨きをするようにタブレットを使う」,そういう習慣づけを意識していました。
 
堀田:習慣づけは大切ですね。
自分の身に置き換えて考えると,たとえば「講演してください。ただしプレゼンスライドは使わないでください」と言われたら,かなりつらいです。けれど,実際にはそんなことを言われることはまずない。日常生活においても,ご飯を炊くのに土鍋や飯盒で炊いてくださいとはあまり言われない。炊飯器で炊ければ十分です。
つまり,テクノロジー込みで文化変容は起こっている。「ツールがあること前提の能力」があるということです。松永先生の1分間スピーチは,そうした能力を発揮しやすい場面を用意して定着を促していらっしゃって,とてもよいアプローチだと思います。

新しい時代の国語科

堀田:国語科でも,そういった変容は可能でしょうか。先ほどのお話にもありましたが,OECD調査で,学習におけるICT活用について日本は最下位でした。国語科についても,諸外国では理科に次いでICTが浸透している***のに,日本ではICT活用が進みませんでした。なぜだとお考えですか。

 

***「PISA2018」調査結果より。(関連情報はこちら
 
松永:私自身は教員2年めから1人1台端末の環境で授業をしてきたので,従来型の紙の授業からのパラダイムシフトを経験していません。
いろいろな学校で授業見学などをする中で,学校の先生がたから聞くのは,ICTツールで意見の共有はできるけれど,ある児童・生徒の発言に他の児童・生徒が感化されていくといった「思考のリレー」が生まれるような対話には,ICTは向かないのではないか,というものです。特に小学校では,対話的な授業を「アクティブラーニング」という名前がつくずっと前から進めてきていますから,物足りなく感じるのかもしれません。
 
堀田:それはわかりますね。これから児童・生徒1人1人の端末に国語の教科書が入れば,本文を抜き書きして,自分の考えを書き足して,友達と共有して深い議論をして,まとめ直す,といったこともできるようになると思いますが,それでも,目の前の相手の表情の輝きを見ながら話し合って感化されていくような,協働的な学びにおける「身体性」は,変わらず重要でありつづけると思います。
 
松永:そうですね。一方で,私たちが思うよりずっと「デジタルな身体」を彼らはもっているのかもしれないと思うこともありました。高校の夏期講習でのことです。
コロナ禍により,オンライン会議ツールを使って講習を行ないました。お互い不慣れですし,教員側から一方的に伝えることしかできないかなと思っていたのですが,私の心配をよそに,生徒たちはオンラインでもしっかりと議論をしていました。高校生ということも大きいかもしれませんが,ICTを活用した協働的な学びは可能だと思いました。
教室での授業でも,4人1組で机を合わせて話し合いをさせることができない状況が続いていますが,アウトプットをICTで共有したあとに,各自が内省する時間をしっかり設けることで,他者の意見を取り込む協働性を担保できるよう工夫しています。
 
堀田:「書くこと」についてはどうでしょう。僕たち大人は,手書きはもうほとんどしませんよね。ある程度の長さの文章はPCを使いますし,書き直すことを前提に書いていきます。「読むこと」も,マニュアルや,ネット上のコンテンツなど,多種多様なものを読む機会が増えました。
 
松永:私の授業では,タブレットで文章を書かせています。
 
堀田:「漢字が書けなくなる」など,保護者から批判的な見方はありますか。
 
松永:本校では聞かないですね。ただ,もちろんすべてをタブレットで書かせるのではありません。紙とペンも使います。私自身,創発的なものは紙とペンで書き,それを文章に整える段階からPCを使うというように両方使っていますし。子供たちにも同じようにしています。
 
堀田:僕も論文を書くとき,構想の段階では紙とペンを使います。そこは紙とペンじゃないと僕は無理ですね。研究者には同じことをおっしゃる人がたくさんいます。読むのも,画面で読むことが増えましたが,じっくり読みたいときは紙に出力して読みます。紙で読んで当たりをつけてからタブレットで読む,といったこともします。「メディアの特性」を捉えるということですね。
 
松永:メディアの特性に合わせて適切に使い分ける力が,これからますます必要になると思います。私も,選択肢として紙とデジタルの両方を子供たちに差し出せるようにしていきたいと思っています。
 
堀田:お話を伺ってきて,「読むこと」「書くこと」は時代の情報化に合わせて変わっていく必要があり,「話すこと・聞くこと」は,従来のやり方を大切にしながらICTをうまく取り入れることで,時代に合った能力を身につけさせることができると感じました。
松永先生とお話しをして,国語科の未来は明るいと感じました。時代に合った授業で,子供たちの言語能力を伸ばしていってください。
 
*~***の関連情報はこちらからご覧いただけます。

 
(構成・編集部)

プロフィール

堀田 龍也    ほりた・たつや 東北大学大学院情報科学研究科教授。専門は教育工学・情報教育。『情報社会を支える教師になるための教育の方法と技術』(三省堂),『間違えない学校ICT』 (小学館),『「これからの教室」のつくりかた』( 学芸みらい社)等著書多数。

プロフィール

松永 和也    まつなが・かずや 学校法人桐蔭学園国語科教諭。ワークショップデザイナー。勤務校では「アクティブラーニング型授業・探究・キャリア教育」の三本柱に取り組む。

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