宿口 信子 (金蘭会高等学校・中学校)
2022年06月23日
1.はじめに
10年ほど前に校舎が新しくなり、教室にプロジェクターとスピーカーが完備されました。それをきっかけにICTを活用した授業を模索してきました。初めは、使ったこともなかった「パワーポイント」を「紙芝居」のように使えばいいのか?と単純に、事前に英文を書いておいたシートを準備できる、また、それらを画面切り替えをするためだけに使い始めました。私が板書している間、生徒たちが手持ち無沙汰で待つことはなく(特に高校の学年が上がっていくと、一文自体が長くなりますから、事前の仕込みは有用でしたし、チャンクで区切ったものを提示すると、それだけで生徒たちの英文理解も容易になったようです)、私も机間巡視などをして生徒たちの様子を見ることができる時間が増えました。使っているうちに欲がでてくるもので、英語の文字が出てくる/消えるタイミングで音声を合わせるものを作ってみたり、さまざまなことを試行錯誤してきました。ただ、いかんせん、1つの教材を作るのに、かなりの時間がかかりました。フォーマットを同じものにして、中身だけ変更するというやり方にしても、それなりに時間がかかりました。そんなときに、指導者用デジタル教科書の存在を知り、早速使ってみることにしました。それも10年近く前のことです。
2.これまでのデジタル教科書
夏休み明けに試しに使ってみたら、「今日のあれ、楽しかったです!明日も同じような授業をしてほしいです」と授業直後に中学1年生から反応がありました。こんなことを言われたのは初めてでした。今までパワポで一生懸命作っていた作業はなんだったのか・・・。フラッシュカードにできるアプリを一生懸命探して、試行錯誤してやってきたのはなんだったのか・・・。所詮、素人がやっていることはこの程度。正直なところ、そんな思いも持ちました。
初期のデジタル教科書では物足りない面もありましたので、自作のパワポと組み合わせて授業を行なっていました。あれから教科書は2度改訂があり、デジタル教科書もかなり進化しています。前回の改訂のときに「学習者用デジタル教科書」が作られ、そのとき、生徒一人1台iPad利用という環境が整いましたので、学習者用デジタル教科書を採用しました。一番の理由は、教科書の音源を聞いてほしい、という願いからです。教科書音声CDを勧めても、買う生徒はそんなに多くなく、保護者が率先して購入してくださっても、肝心の生徒たちは聞いているように思えない。自宅にCD再生機を持たない生徒も多くなってきたのも理由の一つかもしれません。教科書と同じ見開きで、押せば音声が出る、素敵なことだ!と思いました。しかし、そうは問屋が卸さない。教科書の紙面上で音声が出る仕組みであっても、自主的に音声を聞く行動を取る生徒は多くありません。
3.デジタル教科書やアプリを活用した指導の実際①
今回の改訂版でも学習者用デジタル教科書を採用しています。前回のものよりも使い勝手が良くなっているように感じます。
授業は、毎回、英語の歌から始まります。iTunes Storeで音源を購入し、[yubiquitous text]という無料アプリでカラオケのようなものを作り、それを投影しています。前を向くことで喉が開き、声が出やすくなります。曲は生徒からのリクエストに応えたり、文法で扱う項目が入っているものを選んでいます。歌の間、出席簿をチェックしたり、次の準備をします。「チャンクで英単語」の帯活動をし、これは言えない単語を単語帳にチェックさせます。そして[quizlet]でquizlet liveを行いますが、この時間が一番好きみたいです。そして、教科書を使った授業に入ります。
【quizlet liveの画面】
教科書では文法の説明をした後、[Drill]で口頭練習を行います。プロジェクターで投影しているデジタル教科書の画面を使って、提示されるヒントをみて、quickで文を作る練習をします。そのあと、[Listen]でリスニングを行います。そして、本文に入ります。本文に入る前に「ピクチャーカード」で大体の概要を理解させ、教科書紙面を投影して音声を流します。意味の確認をした後で、音読活動に入ります。この際、「書き込み」機能を使って、必要事項を板書することもあります。音読は、「カラオケ」「シャドーイング」の機能があるので、シャドーイングできるまでなんども繰り返し音読活動を行っています。ペアで「早読み」競争をしたり、ディレクション読みをしたりと、ただ座って音読するだけではなく、活動と組み合わせて、「いつの間にこんなにたくさん読んだ?」という感じにしています。また、指導者用デジタル教科書では、「行間」「和訳」とモード切り替えができるので、音読活動の後半は、日本語を見せて、英語を言える活動へとシフトしていきます。
4.デジタル教科書やアプリを活用した指導の実際②
学習者用デジタル教科書の使い方の一つは、自宅での音読練習の時の利用です。押せばその語や文を読み上げてくれます。押すだけです。今回の改訂で教科書紙面のQRコードで音声再生できますが、画面を「押す」だけで必要な語や文を読み上げてくれる機能は便利です。また、「辞書」機能をプラスアルファで使えると、語彙習得にも効果的です。音読は「音声を何回も聞く、よく聞く、そして真似をする」「どんな気持ちで言っているのか?を考える」と必ず言っています。
「GET」に関しては、暗写テストを実施しており、そのテストの日の朝を締め切りに、[ロイロノートスクール]というアプリに音読提出を求めています。英語のシートと和訳のシートを[ロイロノートスクール]に配布し、英語のシートに音読を録音して提出させています。それを一人ずつ聞いて、ん?と思うところに印を入れて返却し、読み方に間違いの多い単語は全体に、ときには、個別に生徒を呼んで、指摘しています。「聞こえた通りに読む、どういうことを伝えたいのかを考えて読む、気持ちを入れて読む」ように練習するように伝えています。音読練習がきちんとできる生徒は暗写テストでも満点や満点近く取ってきます。また、模擬試験でのリスニングの得点率もかなり上がっています。昨年度は、音をよく聞いて、真似ることができると、リスニングにも大きく影響が出るのだなと生徒たちをみていて、改めて感じた一年でした。
【音読提出用のシート(ロイロノートを介して、生徒たちに送信)】
このシートに音読を録音したものを提出させています。
【音読提出シートの日本語訳】
大抵の生徒は、このシートを見ながら、スペリングノート(英語の自学ノート)に暗写テスト(教科書本文を英語で書くテスト)のための勉強をしているようです。
【音読提出状況の一覧】
宿口 信子 しゅくぐち・のぶこ (金蘭会高等学校・中学校)
検定教科書 Unicorn・Groveシリーズ(文英堂)、New Crown・CROWN・MY WAYシリーズ(三省堂)の付属教材の執筆、およびNEW STREAMシリーズ(増進堂)の編集協力に関わる。 また、『クラウン チャンクで英単語』シリーズ(三省堂 投野由紀夫 著)の編集協力をつとめる。 文英堂版デジタル教科書のアドバイザーおよび「デジタル教材 WORKSHOP」の講師をつとめるなど、ICT環境を活用する授業づくりに取り組んでいる。2016年「第1回関西教育ICT展」で登壇。
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