三省堂 発行書籍
学習言語とは何か ―教科学習に必要な言語能力

近年、第二言語学習者、母語話者ともに「学習言語」の習得が不十分なために、授業についていけない児童・生徒が増えている。日米の研究や事例を紹介しながら,教科教育で使われる言語のあり方を考える。

  • バトラー後藤裕子
  • 2011年 6月 10日 発行
  • 定価 2,900円+税
  • A5判  344頁  ISBNコード 978-4-385-36511-4

三省堂WebShopで購入

著者紹介

バトラー後藤裕子 (ばとらー・ごとう・ゆうこ)

東京都出身。東京大学文学部東洋史学科よりB.A.,カリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)でM.A.(比較教育学),スタンフォード大学でM.A.(言語学),Ph.D.(教育心理学)を取得。スタンフォード大学教育研究センターのリサーチ・フェローを経て,現在ペンシルバニア大学教育学大学院言語教育学科准教授。著書に『多言語社会の言語文化教育』(くろしお出版),『日本の小学校英語を考える』(三省堂)がある。

目次

第1章 学習言語の教育的背景 ─なぜ、学習言語が大切なのか─
  1.1 日本語学習児童生徒が直面している壁
    1.1.1 多文化・多言語化する日本の学校
    1.1.2 把握しきれていない日本語指導の必要な子どもたちの実態
    1.1.3 大きな個人差
    1.1.4 日常会話力と教科学習に必要な力のギャップ
 1.2 アメリカの体験からわかること
    1.2.1 多くの第二言語学習児童生徒を抱えるアメリカ
    1.2.2 大きな学力格差
    1.2.3 英語学習者の大半は、なんとアメリカ生まれ
        ── 日常会話はできても教科学習が進まない ──
    1.2.4 学習言語の習得には長い時間がかかる
    1.2.5 英語履修者と判断されても必ずしも十分というわけではない
    1.2.6 学習言語の習得の問題は第二言語学習者に限定されない
第1章のまとめ
第2章 学習言語とは何か
 2.1 テクストとコンテクスト
    2.1.1 アイスクリーム屋での会話
     2.1.2 アイスクリーム屋での会話テクストの特徴
     2.1.3 コンテクスト
     2.1.4 レジスター
 2.2 学習言語のとらえ方
     2.2.1 BICSとCALP
     2.2.2 言語能力を区分する理論
     2.2.3 カミンズの修正モデル
     2.2.4 学習言語は複数のリテラシーから成るとするアプローチ
     2.2.5 カミンズへの批判
     2.2.6 その他の定義
 2.3 スカーセラの学習言語の構成要素
     2.3.1 言語的側面
        (1)音韻
        (2)語彙
        (3)文法
        (4)社会言語的側面
        (5)談話
    2.3.2 認知的側面
         (1)知識
         (2)高次の思考
         (3)ストラテジー
         (4)メタ言語認識
    2.3.4 社会文化・心理的側面
第2章のまとめ
第3章 教科学習に必要な語彙
 3.1 語彙とは何か
    3.1.1 語彙と単語
     3.1.2 レマと単語家族
 3.2 教科学習で使われる語彙
     3.2.1 コーパス研究からわかる語彙使用 ── 英語の場合 ──
     3.2.2 コーパス研究からわかる語彙使用 ── 日本語の場合 ──
     3.2.3 和語と漢語
     3.2.4 日本語の中の漢語と中国語
     3.2.5 和製漢語
     3.2.6 音読みと訓読み
     3.2.7 学校で学ぶ漢字
     3.2.8 教育基本語彙リストの作成
     3.2.9 国語以外の教科での語彙
 3.3 学習語彙の選出
     3.3.1 学習語とは?
     3.3.2 英語における学習語
     3.3.3 学習語彙の選出方法
         (1)ステップ1 コーパスの選出
         (2)ステップ2 基準の設定
         (3)ステップ3 語彙の選定と結果の評価
     3.3.4 コーパス分析を超えた評価の必要性
     3.3.5 日本語での学習語彙リスト作成の試み ── 手順 ──
         (1)ステップ1 コーパスの選出
         (2)ステップ2 基準の設定
         (3)ステップ3 語彙の選定と評価
     3.3.6 選出された日本語学習語彙
     3.3.7 今後の課題
第3章のまとめ
第4章 教科学習に必要な語彙の習得
 4.1 語彙力とは何か
     4.1.1 語を知っているとはどういうことか
 4.2 英語の語彙習得と学習
     4.2.1 語彙力の違いと読解力との関係
     4.2.2 第二言語学習児童生徒の語彙力
     4.2.3 未知の語の意味を推測する能力
 4.3 日本語の語彙習得と学習
     4.3.1 本当に漢字の習得は難しいのか
     4.3.2 日本語を母語とする児童生徒の漢字習得
     4.3.3 国語科以外での漢字指導
     4.3.4 日本語学習児童生徒の漢字習得
     4.3.5 漢字圏と非漢字圏出身者の違い ── 成人学習者の場合 ──
     4.3.6 漢字圏と非漢字圏出身者の違い ── 年少学習者の場合 ──
     4.3.7 日本生まれの外国につながる児童の漢字習得
     4.3.8 日本語学習児童生徒の実際の語彙使用
第4章のまとめ
第5章 学習言語としての書きことばとその理解
 5.1 学習言語としての書き言葉の特徴
     5.1.1 教科書の文章例から
     5.1.2 学習のための英語(EAP)の研究
     5.1.3 小中学生向けの教科書 ── アメリカのケース ──
     5.1.4 小中学生向けの教科書 ── 日本のケース ──
     5.1.5 意味構築のありさまを映し出す鏡としての文法
     5.1.6 理科(科学)
     5.1.7 算数・数学
     5.1.8 社会
 5.2 学習言語としての書きことばの理解
     5.2.1 テクスト理解を左右する諸要素
     5.2.2 「テクストの読みやすさ」とは何か
     5.2.3 文と文のつながり
     5.2.4 文脈処理
     5.2.5 予想と異なった文脈の流れ
     5.2.6 語彙とテクストの難しさ
     5.2.7 やさしい日本語と日本語規格化の動き
第5章のまとめ
第6章 教科授業の中での話しことば
 6.1 音声モードでの学習言語指導
     6.1.1 見落とされがちな重要性
 6.2 授業中のディスコース
     6.2.1 IRF構造
     6.2.2 教室談話と家庭談話のギャップ
     6.2.3 IRFは避けるべきか
     6.2.4 教師の質問とフィードバック
     6.2.5 学習言語への社会化(socialization)
     6.2.6 日本の小学校での学習ディスコースへの社会化
     6.2.7 第二言語学習児童生徒への話しかけ
     6.2.8 教科授業中の母語の使用
 6.3 英語学習児童生徒の音声言語力(オーラル・スキル)と読む力の関係
     6.3.1 母語での音声言語力と、第二言語での読む力の関係
     6.3.2 第二言語での音声言語力と、第二言語での読む力の関係
     6.3.3 隠れた児童のニーズ
第6章のまとめ
第7章 学習言語の指導と評価
 7.1 学習言語習得の指導
     7.1.1 なかなか教科学習にとりかかれないナーちゃんの話
     7.1.2 内容ベースの指導法
     7.1.3 Guided Reading
     7.1.4 解読を超えた指導の重要性
     7.1.5 JSLカリキュラム
     7.1.6 情緒面でのサポート
 7.2 学習言語習得が不十分な児童生徒の診断とその問題点
     7.2.1 初期診断の重要さ
     7.2.2 どのようにして英語学習者と判断されるか
     7.2.3 英語学習児童生徒のためのスタンダードとアセスメント WIDA
     7.2.4 ランニング・レコード
     7.2.5 第二言語学習児童生徒と特殊教育との関連 ── 多い誤診断 ──
     7.2.6 言語学習障害なのか、第二言語習得の過程なのか
     7.2.7 言語学習環境への配慮の大切さ
     7.2.8 特別支援から在籍教室への移行
 7.3 標準学力テストにおける特別措置
     7.3.1 テスト適応措置とは何か
     7.3.2 テスト適応措置の種類
     7.3.3 どの措置を採用するか
     7.3.4 どの措置が効果的か
     7.3.5 標準テストの限界
第7章のまとめ
第8章 学習言語の習得を支えるために
 8.1 今後、学習言語をどのようにとらえていくべきか
     8.1.1 言語的側面だけにとらわれない学習言語のとらえ方の必要性
     8.1.2 学習者の視点を重視した学習言語のとらえかた
     8.1.3 一言語だけ(モノリンガル)の学習言語習得という発想からの脱却
 8.2 学習言語習得の支援のために
     8.2.1 制度上の整備
         (1)アメリカの支援例
         (2)日本の現状 ── 入試というハードルとその後 ──
    8.2.2教員研修の整備
         (1)第二言語学習児童生徒への指導を行うための資格・研修
         (2)担任・専科教員への学習言語に関する研修
    8.2.3 アセスメント(評価)の整備
第8章のまとめ
あとがき
資料1
コックスヘッドの学習語彙リスト(A New Academic Word List, NAWL)
資料2
小中学生のための学習語彙リスト
引用文献

はじめに

ある小学校4年生の国語の授業では,「くらしの中の世界の文化について話し合おう」というテーマのもとに授業が行われていた。子どもたちに,身の回りの「和」と「洋」を代表するものを一対ずつ選ばせ,グループで調べた内容を発表したあと,話し合いをさせるという授業である。担任の先生は,はきはきとした聞きとりやすい声で,黒板に書かれた「話し合い」の重要点を子どもたちに確認させる。「聞き上手」「話し上手」になろうというものだ。聞き上手になるには,相手の話を聞いて「自分の考えと比べる耳を持つ」「話の流れが見える耳を持つ」ことであり,話し上手になるには,「流れに沿って話す」「前の人の話を生かして話す」ことなどが大切であるとの説明がなされた。発表グループ以外のメンバーは,発表グループを取り囲むようにいすをならべ,発表を聞きながら,「感想」やよかったところ、工夫されているところなどをノートに書くよう指示された。
 最初の発表グループは,靴と下駄をテーマに選んだ。まず,司会役の男子児童が靴の種類について調べたことを話し,続いて女子児童が下駄の種類などを話す。その後,次々にグループのメンバーが,靴や下駄の役割,歴史,ファッション性,通気性などについて発表した。
  メンバーの発表がひと通り終わったところで,司会役の男子児童が,手元のプリントを見ながら「では,メンバー同士の話し合いに移ります。何か意見はありますか」とほかの児童に聞いた。女子児童の1人が「ええと,○○君は,前,ちょっと声が小さかったりしたんですけど……」と切り出すと,担任が,「ううんと,そうじゃなくて。意見だから。今,出たことについての意見。違いやよさがでるための」と遮った。少し沈黙があったあとで,元気のよい男子児童が口火を切った。「△△君に,質問です。下駄に,ええっーと,ほかに特徴的なことはありますか」。聞かれた男子児童は,ちょっと照れながら「えー,あると思いますが,調べてないのでわかりません」と答えた。
 この一連のやりとりを見ながら,いろいろな疑問がわいてきた。「意見を言う」とは,一体,どういうことなのだろう。「感想を言う」のとどう違うのだろうか。「質問する」のは,「意見を言う」ことの一種なのだろうか。子どもたちは「意見を言う」という行為をどのように理解し,担任はどのような行為を「意見を言う」という言葉で表現しようとしたのだろう。目標の1つである「自分の考えを比べる」にしても,具体的にどのようなことをしたら「比べた」ことになるのだろう。「流れに沿って話す」とは,実際にはどういう話し方なのだろう。
 授業や教科書には,日常生活ではあまり使わない語彙や,日常生活とは少し違った意味で使われる語彙などがたくさん出てくる。「比べる」「比較する」なども,授業の中では本当によく使われるが,子どもの理解している「比べる」という行為と,教師が意図している「比べる」という行為が,必ずしも一致していないと思われる場面にときどき遭遇する(「比較する」といったような漢語まじりのことばは,子どもの日常生活では,そもそも使用頻度があまり高くない表現だろう)。授業で「比べる」時は,相違点と共通点の双方を検討する作業をさすことが多い。一方,日常生活での「比べる」行為は,相違点に注意が向いていることが多い。「今日,お母さんが,おやつにお芋を出してくれたけれど,お兄ちゃんのお芋に比べて,ぼくのは小さかった」というのが子どもの世界での日常的な使い方であろう。授業中に,子どもが相違点だけを検討して「比べた」つもりになっているところで,「同じところも考えてね」と教師に促されているのも,そういった日常生活でのことばの使用と,授業の中での使用のギャップが原因になっているのかもしれない。
 日常生活と授業や教科書などに出てくることばの違いは,なにも語彙のレベルに留まるものではない。本書で詳しく紹介していくことになるが,学校での学習場面では,文法や表現,談話構造などのレベルでも,日常生活とは異なった言語使用がなされることが多々ある。このような,授業や学習場面で使用される言語を「学習言語」などと呼んだりする。本書で扱うのは,まさにこの「学習言語」である。
 学習言語という用語も概念も,多くの読者にとっては,あまり馴染みがないものかもしれない。しかし,外国人児童生徒への教育研究・実践に携わっている者の間では,よく話題になることばである。なぜなら,この学習言語を身につけることが,非母語話者の児童生徒が教科学習を行うのに,非常に重要だと考えられているからである。だが,学習言語の習得が大切なのは,何も非母語話者の児童生徒だけではない。学習言語は,母語話者を含むすべての児童生徒にとって,学習を行うにあたり,是非習得しなくてはいけない大切なものなのである (Francis, et al., 2006)。第2章で詳しく見ていくが,この学習言語のとらえ方には,いろいろなアプローチがある。日本では,カミンズという学者の唱えた認知学習言語力(Cognitive Academic Language Proficiency, CALP)という用語が広く紹介されているので,CALPということばには聞き覚えがあるという読者もいるかもしれない。
 英語圏では,移民の児童生徒が,日常会話を十分にこなすだけの英語力がついたあとも,教科学習に困難をきたすケースが多いのは,この学習言語の習得が不十分であることに大きく関わると考えられてきた。そして,近年,教科学習を行うにあたって必要な言語力を実証的に解き明かそうとする研究が,精力的に行われるようになってきた。しかし,学習言語に関する実証的な研究は,英語圏でもまだまだ始まったばかりであり,わからないことが多い。高等教育の段階では,医学英語や法律英語など、専門分野で使う英語であるESP (English for Specific Purpose)の1つとして,アカデミック英語 (Academic English)の研究が行われてきたが,小中学生を対象としたものとなると,その重要性が強く指摘されてきた割には,定義でさえも一貫したものがない状態である。小中学生のための日本語の学習言語に関しては,実証データの蓄積はまだほとんどない。
 そこで本書では,多少なりとも研究が進んでいる英語圏(特にアメリカ)での研究・実践の成果も多く紹介しながら,今後,日本語における学習言語のさらなる解明と,学習言語の習得の支援には何をしたらよいのかを考えていくきっかけを作ることを目的とする。この本が,日本語における学習言語への関心が高まり,実証的な研究が行われていくための,1つの促進剤としての役割を果たせれば幸いである。本書では,特に学習の基礎を築く重要な時期である小・中学校段階における学習言語に焦点を当てる。
 英語圏での学習言語の研究は,移民など英語を第二言語として学習する児童生徒(以下,英語学習者)への教育研究・実践分野で中心に進められてきたことから,本書でも主に,母語話者ではない,英語学習児童生徒,および日本語学習児童生徒への教育といった視点から筆を進める。しかし,前述のように,学習言語の習得は,母語話者にとっても重要であることには変わりない。第二言語学習者が抱える問題を顕在化することで,これを契機に,母語話者を含むすべての子どもたちにとって非常に重要な学習言語の解明と,その習得に関する関心が,多くの人々の間で高まることを期待したい。

本書の構成

■第1章
 まず第1章では,そもそもなぜ学習言語の中身と習得についての理解を深めることが大切なのかを考えていく。ここでは,アメリカにおける事例を通じて英語学習児童生徒の置かれている教育環境を中心に紹介しながら,なぜ学習言語への関心が高まってきたのか,その理由と教育的意義について述べる。
■第2章
 第2章では,学習言語とはそもそも何であるのかについて考える。学習言語のとらえ方には,いろいろなアプローチがある。研究者の間でも統一見解があるわけではなく,現場の教師にとっても学習言語のとらえ方はさまざまである(Solomon & Rhodes, 1995)。学習言語は日常会話と対比した形で語られることが多く,そのため,「日常会話=話しことば」「学習言語=書きことば」と短絡的にとらえられることもある。確かに学校での学習では,(特に学年が上がるに従って)文字から得られる情報に大きく依存していくので,学習言語の分析は,書きことばを中心に行われている。しかし,学習言語と書きことばは必ずしも同義ではなく,その関係は複雑である。また,冒頭で教室の授業中に使用される話しことばの例を挙げたが,学習言語は,話しことば,書きことばの両方に当てはまるものである。学習場面(コンテクスト)自体も,何も学校の授業中や教科学習の中だけではない。学校以外の場所でも学習は起こっているからである。この章では,日本でも広く知られているカミンズ (Cummins, 1979a, 1979b, 1984, 2000)の理論モデルを中心に,いろいろな学習言語へのアプローチを紹介する。さらに,スカーセラ (Scarcella, 2003)の提案した学習言語を構成する要素を取り上げ,そのモデルに示された学習言語の言語的,認知的,社会文化・心理的側面,つまり学習言語の全体像を概観する。第2章は,学習言語の理論的な側面に触れるので,言語学・心理学に馴染みのない読者には少しわかりにくい部分もあるかもしれないが,がんばってついてきてほしい。
 第3章以降は,さまざまな学習場面の中でも,特に学校での教科学習のコンテクストに的をしぼって議論を進めていく。特に,スカーセラの学習言語モデルを構成する言語的,認知的,社会文化・心理的側面の中での言語的な側面に焦点を当て,教育現場で重要だと考えられる言語的諸問題について,順次取り上げていく。
 第3章,第4章では,学習言語の中でも特に要ともいえる語彙の問題を扱う。教科学習では,専門用語がたくさん出てくる。もちろん,こうした専門用語の意味や使い方に精通することが大切なのは間違いない。ただ,意外に盲点なのが,「学習語彙」と呼ばれる語の習得である。学習語彙とは,専門用語ではないが,学習を行うのに大切な語彙である。学習語彙の習得がなかなか厄介なのは,学習語彙は子どもの日常生活ではあまり使われないか,使われても,教科学習場面では,日常とは異なった意味や使い方をされることの多い語だからである。学習語彙は,教科学習を行うにあたり非常に重要な役割を果たしながら,しばしば,知っていることが前提となっているがゆえに,教科書でも授業中でも,意味や使い方を明示されることが少ない。
■第3章
 第3章では,そもそも教科学習で使用される語彙とは何なのか,語彙はどのように分類されるのか,コーパス等を使った先行研究から,教科書で取り上げられる語彙に関して,どのようなことがわかっているのかといったことを見ていく。そして,英語での学習語彙リストの先行研究例を概説し,その学習語彙選定の手法に基づいて筆者が試みた,日本語における学習語彙の選定の例を紹介する。
■第4章
 第4章では,語彙の習得について述べる。そもそも「語彙を習得する」とはどういうことをいうのか。第二言語学習児童生徒の語彙の習得の状況はどのようになっているのか。英語のケースをまず紹介し,次に日本語のケースに言及する。日本語で教科学習を行うにあたり,漢字の習得は非常に重要な役割を果たす。教科書には漢語を中心に,多くの漢字が登場する。そして,この漢字学習は,日本語学習児童生徒はもちろんのこと,日本語を母語とする児童生徒にとっても大変な学習量を要求するものであるとよくいわれる。しかし,漢字の習得は子どもたちにとって,本当に押しなべて難しいのであろうか。難しいとすれば,漢字の習得の何が難しいのか。このトピックは,まだ実証研究が非常に乏しい分野ではあるが,現在わかっている範囲で,漢字圏と非漢字圏出身者の違い,および,日本生まれの日本語学習児童生徒と日本語母語話者との漢字の読み書き、漢字の習得の違いなどを紹介する。
■第5章
 第5章では,「学習言語としての書きことばとその理解」と題し,書かれたテクストにおける学習言語の構造面の分析,およびその読解について見ていく。まず,統語やテクスト構造など,語彙を除いた学習言語の構造面を分析し,特徴的な構造を英語と日本語のそれぞれにおいて紹介する。学習言語の構造は一律不動のものではなく,教科によって,また使用場面や使用する人物によって,違いがある。教科によって,特徴的な構造がどのように違い,それが意味構築のあり方にどのように反映されているかを検討する。さらに,書かれたテクストにおける学習言語の理解についても言及する。テクストはどのように理解されるのか,テクストの読解難易度(text readability)とはどのように決められているのか,わかりやすいテクストとはどのようなテクストをさすのか,テクストをわかりやすくする要素は何かといったようなことを見ていく。
■第6章
 学習言語は何も読み書きに限定するものではない。第6章では,授業中に口頭で使われる学習言語,つまり音声モードでの学習言語を取り上げる。英語圏でも,話しことばの発達の組織的な支援は,小学校教育の中で,比較的おろそかにされてきた。教師が話すことば (teachers’ talk) にはどのような特徴があり,授業中の談話(ディスコース)にはどのような特徴が見られるのか。教室での言語使用の分析には,どのような手法がとられてきたのか。さらに,話しことばとしての学習言語と,書きことばとしての学習言語との関係について概観する。
■第7章
 第7章では,学習言語の指導と評価の問題について考える。まず,言語だけを取り出して,「語学学習」させるのではなく,言語と教科内容の習得の両方を目指したコンテント・ベースの指導法について紹介する。さらに,学習言語の指導法として,アメリカを中心とした英語圏で広く実践されている指導モデルをいくつか紹介する。こうしたモデルは,基本的に英語学習児童生徒を対象に開発されてきたものだが,英語母語話者にとっても有効に実践できる部分がたくさんあると思われる。
 ここではさらに,第二言語学習者を対象とした評価をめぐる問題点についても取り上げる。アメリカでは,学習言語の習得が滞っているために,特殊教育のプログラムに入れられてしまう第二言語学習児童生徒が少なくない。このような診断の誤りは,学習言語の習得,および教科内容の習得の度合をどのように評価するべきなのかという問題と,深く関わり合っている。テストを受ける際の適応措置の問題など,評価に関わる重要事項をいくつか取り上げる。
■第8章
 最終章は,学習言語を考えていく上での今後の課題,および学習言語を2つ以上の言語で習得するために目指したいことは何かを探る。本書では学習言語の言語的側面を中心に見ていくことになるが,学習言語の探究には,認知・社会的側面も含めた包括的なアプローチが必要である。また,学習言語を絶対的・固定的なものととらえ,学習者に一方的に押しつける態度からも脱却が必要であることを述べる。最後に,グローバル化が進む中で,モノリンガル(一言語使用)を超え,二言語以上で学習言語を習得するニーズが非常に高まっていることから,バイリンガル(二言語使用)での学習言語習得の重要性を唱える。
 バイリンガル話者に対する社会の態度(イメージ,評価など)は社会によって違う。例えば,アメリカでは,まだまだ否定的なイメージが強い。日本でも,日本語と英語の組み合わせはともかく,それ以外の言語の組み合わせとなると,否定的なイメージが強いようだ。しかし,バイリンガルまたはマルチリンガル話者(多言語使用者)は,国家にとって強力な人的資源であり,地球規模の財産でもあると考えるべきである。この章では,日本語学習児童生徒、日本語母語児童生徒の双方の潜在的強みを最大限に引き出して2つ以上の言語で学習言語を習得することの重要性と,そのために我々一人一人がモノリンガルの発想から脱却し,制度面・実践面での整備を着実に整える必要性を論じる。

同じカテゴリの書籍

ページトップ