三省堂 発行書籍
ピーター・フランクルの頭の良くなる英語

クイズやパズル形式で、単に英単語を記憶するのではなく、ゲーム感覚で楽しく基本的な英単語を学習できる本。数学的思考を取り入れて英単語を整理し、英単語に関する記憶力をアップ。 著者は1953年、ハンガリー生まれ。現在、早稲田大学・理工学部教授。1971年、国際数学オリンピックで金メダル。1977年、オトボス大学大学院修了、博士号取得。1988年から日本に住む。大道芸で知られる。12か国語を話す。

  • ピーター・フランクル
  • 2002年 2月 15日 発行
  • 定価 1,257円(本体1,143円+税10%)
  • B6変  224頁  ISBNコード 978-4-385-36082-9
  • 対象 一般

目次

はじめに3

初級編
3-CONNECT(WARMING UP1)16
3-CONNECT(WARMING UP2)21
ASSOCIATION GAME(COLOR)26
DESCENT(EASY)33
3-CONNECT(EASY)45
MISSING LINK(PREPOSITION) 51
・PERFECT SQUARE 62
・SOLUTIONS(初級編) 64

コラム「3文字英単語の数学」 67

中級編
3-CONNECT(INTERMEDIATE1) 82
3-CONNECT(INTERMEDIATE2)88
ANAGRAM(EASY) 95
ASSOCIATION GAME(FRUIT)106
3-CONNECT(HARDER)113
DESCENT(ADVANCED)125
MISSING LINK(INTERMEDIATE)134
4-CONNECT(EASY)139
・PERFECT SQUARE 151
・SOLUTIONS(中級編)153

上級編
ASSOCIATION GAME(PROFESSION) 158
MISSING LINK(ADVANCED) 167
ANAGRAM(ADVANCED)175
3-CONNECT(ADVANCED)184
4-CONNECT(ADVANCED)194
・PERFECT SQUARE 202
・SOLUTIONS(上級編)204

付録
3文字英単語 210
4文字英単語 215

はじめに

よもや日本人向けの英語の教科書を作ることになるとは。日本語も英語も外国語として取得した僕は、そんなことを夢にも思わなかった。その切っ掛けを作ったのは日本の文部科学省である。2002年から実施される教育課程では英語教育は小学校3年から始まると同時に、中学校で教えられる英単語の数は大幅に減ることになった。子供の過剰な負担を軽減しようというのが狙いだそうだ。

 このニュースを読んだ時、泣きたくなるほど悲しくなった。以前、国語と算数の密度が減ると聞いたときにも遺憾に思っていたが、「まさか、英語も」という感じだった。これだけの日本人が、老若男女を問わず英語習得にいそしんでいる昨今である。彼らを励まして応援することこそ、文部科学省の最大の任務ではないか。

 一方、戦前の反ユダヤ主義、戦時中の強制収容所、戦後のスターリン主義、全てを絶えず笑顔で乗り越えた父譲りの、前向きな姿勢を持っている僕。こんな状況ではどうすれば良いのかと必死に考えた。そして正に日本の諺通り、「禍転じて福となす」と言えるべき対策を思いついたのだ。それをまとめたのが本書だ。英語を通して頭を良くしよう、ということが狙いなのだ。しかもこれは義務教育の対象である学生だけではなく、英語が使えるようになりたい日本人誰にでも役に立つ、前代未聞の英語勉強法である。その要点を紹介しよう。

 日本の学校教育は内外から暗記中心と言われてきた。英語の場合も例外ではなく、複雑な文法と多くの難しい英単語と熟語を覚えさせるやり方だ。日本の受験生が学んできた英単語で、平均的英米人が使いこなせないものも多い。実際、英語の学習が始まる前に、学生の大半は期待に胸をふくらませている。しかし、1、2年も経つと嫌いになってしまうことが多い。その原因は暗記中心のやり方にあると、僕は思う。

 英語の書物をたくさん読んで、数え切れないほどの英単語を覚えて、絶えず英語習得のために努力する人達にとってはこれで良いだろう。しかし500語程度の英単語しか知らないで、他にも仕事があり、長期留学に行く暇が無い人には、無闇に暗記するよりも、これから紹介するような、頭を使った理系的やり方の方がずっと向いているはずだ。

 知っている単語の数が少ないからと嘆いたり、長時間かけて難しい単語を覚えたりするのではなく、頭を使う。知っている単語を巧く並べたり、組み合わせたりする。

 英語を殆(ほとん)ど知らないと自覚する人は多い。しかしカタカナ語が氾濫する今日、(大人の)日本人なら誰でも潜在的に知っている英単語は驚くほど多い。ただし、これらの単語を知っている本人は英単語として意識せず、脳の中で他の日本語の語彙(ごい)と同じ場所に保存されてしまっている。だから英語を使おうと思った時、すぐにアクセスできないのだ。この本を通して脳の整理整頓をして、アクセスし易い英語ファイルやフォルダーを作っていただきたい。

 6ページの表1と表2にはそれぞれ30個の英単語がある。表1の場合ABC順に、表2の場合はなんとなく並んでいる。両表の単語は同じだけれど、ある単語、例えば、HIT(ヒット)がそのリストに載っているかどうかを確かめたいとしよう。表2の場合は、何の規則性もなさそうなので、30個の単語を一々読んで、HITがあるか否かを確かめなければならない。

 一方、表1の場合はABC順を巧く利用して、先ず真ん中の、15番目の単語KITを読む。これは(ABC順で)HITの後だからリストの後半(15番目から30番目まで)にはHITが絶対無いと分かる。次に7番目のDOGを読む。これはHITより先なので、1番目から7番目の間にはHITがない。次は(7と15の中点)11番目のHAT、次は(残りの12、13、14の真ん中の)13番目のICE、と最後に12番目のHOTを調べてHITがリストに載っていないことを確かめることができた。このために読んだ単語の数は30個ではなく、KIT, DOG, HAT, ICE, HOTの5個だけだった。


       表1   表2
1ACEICE
2ALLOUT
3BEDEVE
4BYEWAY
5CAPACE
6CUTOIL
7DOGALL
8EVECUT
9FITGUM
10GUMKIT
11HATCAP
12HOTSUN
13ICEJAM
14JAMTEA
15KITDOG
16LAPTOP
17MATNET
18NETBYE
19OILPIE
20ONEHAT
21OUTVAN
22PETFIT
23PIEBED
24POTPET
25RUMHOT
26SUNPOT
27TEAMAT
28TOPLAP
29VANRUM
30WAYONE
 「HITは載っているはずだ」と言う友達に反論する場合には、両表の優劣が更にはっきりしてくる。

 表1の場合、「11番目のHATはHITより先、次のHOTはHITより後だ。HITが載っていれば、この二つの間にあるはず。だからないよ!」と二つの単語だけを指して友達を説得できる。しかし表2の場合は30個の単語すべてを二人で確かめていかないと、相手は納得しないだろう。

 この例を通して、皆さんも脳の中を整理しておけば英語知識がもっと使い易くなると信じてくれるだろう。ちなみに表2の順番は、単語のカタカナ読みを五十音順に並べたものである。

 敗戦直後の日本の都市では食べ物が不足していた。皆押し入れ、箪笥(たんす)などから衣類などを持ち出して、闇市で食べ物と交換してしのいだ。これはいわゆる箪笥貯金である。これにちなんで、読者の皆さんが知っているカタカナ言葉を単語貯金と呼ぼう。この単語貯金を巧く利用すれば、新たに単語を丸暗記しなくても、英語が上達するのだ。

 単語を覚える時は、短い単語は短い程正確に覚えやすい。そこで3文字英単語に特に注目しておきたい。USA, UNO(国連)などの略語を除いた700語余りの現代英語で使われている英単語から、日本人にも馴染みのある英単語を優先して、250語を精選した。これらをミニ英和辞典にアレンジして付録として載せたので一度目を通してほしい。皆さんいかに英語知識が豊富かということが確認できるだろう。(210ページ参照)

 この250個の英単語を結ぶゲームをやりながら、これらの単語の様々な使い道を覚えていく。小さな英和辞典にも10,000個以上の英単語が載っていることを考えると、250個は極めて少ないと思われる。しかしこの本を読むと、これだけの単語(と基本動詞)を用いていかにたくさんの事柄を表現できるのか、実感できるはずだ。本書のこの部分だけをしっかりやれば、英語力がかなりアップするだろう。

 結び方のルールを説明するのに一例としてMAT(マット)とBED(ベッド)を結ぼう:
 MAT-MET-BET-BED(かMAT-BAT-BAD-BED)。

 ご覧の通り、最初の単語(MAT)の文字を一つずつ変えて、先ずMEET(会う)の過去形であるMET、そしてBET(賭ける)を経て、最後にBETのTをDに替えてBEDを作る。

 大切なのは、途中で出てくる英単語の全てが250個の基本的英単語のリストに含まれているということだ。もう一つの正解の場合も、BAT(野球などのバット)とBAD(悪い)もそのリストに入っている。純数学的に考えればMAT-MET-MED-BEDも正解だが、MEDは英単語ではないので、これではダメだ。

 このゲームの効果は二重にある。一つには、両方の単語を結ぼうとする過程で、「こんな英単語があったっけ」「このつづりで大丈夫か」など自問自答しながら、たくさんの英単語を思い起こしたり、英単語ファイルにそのコピーを写したりすることだ。まさに単語貯金を活かす作業だ。しかも全ては遊び感覚で、楽しい。

 もう一つは、「ピーターからの一言」という解説と余談を読みながら、単語の別の意味や面白い使い方も学んでしまうことだ。人間の頭はコンピュータと違って、英単語や言い回しをひとつずつインプットしてもまたすぐに忘れてしまう場合が多い。しかし筋が通った、論理的な綱でつながったものなら違う。一部を覚えれば、それを頼りに残りも脳の奥から引っ張り出せる。効率的に記憶する方法は、脳の中に既にあるもの(単語、言い回し)にくっつけることだ。

 例えば、HIGH(高い)を知っている人にとってその反意語LOW(低い)や類似語のTALL(地から測って高い)は覚え易い。これらの単語をHIGHにくっつけるので、それからLOWを見ても、TALLを聞いても、たとえ直接に分からなくても、頭のなかにHIGHが浮かんできて、結局理解できる。

 四、五十歳の大人には、ゲームをやるよりも真面目に勉強すべきだと思っている人も多いと思われる。こう考えている人達にこそ、この本に載っている様々なゲームをやりながら、四角四面の頭をもっと柔らかくしてもらいたい。そうしないとかなり高度の英語知識をもっていてもなかなか話せるようにならないのだ。

 東大、早稲田、慶応などの一流大学で数学を教えた経験を通して説明させてほしい。大体の教授達の頭は固くて、大学生はゲームをやったり問題を解いたりするべきではなく、難しい理論を勉強すべきだと考えているらしい。将来的にその教授の研究を発展させることができる、非常に優秀な学生にとってはそれで良いだろう。一方、大多数の学生は卒業後に普通に就職する。彼らのことを考えたい。僕は各大学で、初等的でありながら先端数学とつながりがある問題を皆に解いてもらってから、その奥に隠れている数学を紹介する形の問題ゼミナールを何回も行ったことがある。そしていかに学生の問題解決能力が低いかにびっくりした。大学に入った頃に初等的な問題ならかなり解けるはずだった彼らは、理論ばかりの授業を受けて、問題解決能力が著しく低下してしまったのだろう。他に説明がつかない。

 これらの学生は社会に出て、大学で学んだ高等数学の理論を活かすところがないのは言うまでもない。また入学当時に持っていた問題解決能力まで失ってしまったとすれば、大学に通ったことはマイナスになったと言っても過言ではない。だから僕は数学の根本である、問題解決能力を維持させる授業を試みている。例えば、ゲームや手品を使った問題を出してみる。必勝法やタネ明かしを通して、無関心ふうだった学生達の表情がみるみる明るくなっていくのを見ると、教えている僕もうれしくなってくる。

 この本のゲームも同じように考えて欲しい。他の、「真面目な」勉強をするのも悪くない。けれどもそればかりするより、遊び感覚で問題を解いたり、ゲームを考えたりした方がずっと効果的である。しかも、この作業を通して英語力だけではなく思考能力までアップするのだ。まさに頭の良くなる英語習得法である。

 上で説明した3文字英単語でやるゲーム(3-CONNECT)以外にも、色々な面白くて英語力と思考能力を同時に刺激するゲームや問題を紹介する。詳しい説明はその都度するが、これらのゲームの共通点だけをここで言っておく。長くて難しい英単語は一切使わない。各ゲームは独りで(例えば通勤電車の中)でもできるが、友達と競争しながらでも、家族と和気藹々しながらでもできる。親子の会話が少ないと言われている現在、是非とも家族全員で英語熱を共有し、この本を通して、家族の絆を強めていただきたい。

 英語が母国語ではないピーターが書いた本だから、その英語はどれだけ正確なのか心配に思っている人もいるかもしれない。僕もこの点は一番気にしていた。しかし、心配は無用だ。世界屈指の数学者であり、在米生活20年超の友人(Laci BABAI)と純粋なアメリカ人で文学にも非常に長けているその奥さん(Glenda)にきちんと顧問料を払って、僕が書いた原稿を逐一、細部までチェックしてもらった。この作業を何回も繰り返してきたので致命的な間違いは残っているはずがない。GlendaとLaciに心から感謝する。

 何といっても、お陰で僕の英語の水準もかなりアップしたのではないかと感じているほどだ!

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