中川 雅道 (神戸大学附属中等教育学校)
2025年04月07日
1. この授業について
「子どものための哲学」と呼ばれる授業が世界中で研究されています。自由に考えることを学校システムの中で実践するこの取り組みは、各国の教育システムに組み込まれながら、進歩してきました。筆者は、それらの取り組みの中でも、ハワイ州の風土の中から生み出されてきた「子どものための哲学ハワイ」から多大なる影響を受けています。下の写真は、コミュニティボールです。
2. 授業の流れ (全5時間/本時は第3時)
※指導事項:第1学年 C 読むこと 「オ 文章を読んで理解したことに基づいて、自分の考えを確かなものにすること。」
第1時 教科書を参考に、漢文の訓読の方法(返り点、送り仮名など)を練習し、音読する。
第2時 「故事成語 ――矛盾」の全体を通読し、個人で問いを立てる(「『故事成語 ――矛盾』に関することで、みんなで話し合ってみたい問い」を考えてみてください、と説明する)。
第3時【本時】
【導入】 第2時の復習
・「矛盾」の本文を振り返り、前時に立てた問いを思い出す。
【展開1】 グループで問いを一つ選び、生徒が板書する
・グループ(4人グループ)の他のメンバーの問いと、その問いを立てた経緯、意味を聞いて、よい問いをみんなで考える。
<指導上のポイント> 「よい問い」とは何か、は最も難しいポイント。問いを選ぶ基準は実は無限にある。さしあたりは「おもしろそうな興味をひかれる問い」くらいで大丈夫。 |
・グループで問いが決まったら、生徒が板書を行う。発表者も決めておき、クラス全体に向けて、問いと、問いの「意味」、問いを立てた「経緯」を共有する準備をしておく。
【展開2】 グループ代表が、問いの意味を発表する
・展開1で板書した問いを発表者が読み上げ、なぜその問いを選んだのか、問いの「意味」や問いを立てた「経緯」を説明する。
生徒反応例 ……黒板に書かれた問い
【まとめ・次時への準備】 多数決で問いを決めて、考えをメモする
・多数決による決め方は時間的に経済的だが、少数派の意見が消されるという欠点がある。問いを一つに決めない、など他の方法もある。
・次時のワークシートの「対話前の考え」のところに考えをメモする。
第4時 「子どものための哲学」の対話の時間(「コミュニティボール」という毛糸玉を使い、コミュニティボールを持っている人が話すというルールで、前時に決めた問いについて車座になって話し合う)。
第5時 身近な「矛盾」の例をあげて、「矛盾」の要点について書く活動を行う。
4. 授業のまとめ
この授業をするときには実は、考査が楽しみです。いつもこんな出題をします。「日常生活の中から『矛盾』にあてはまる例を見つけて、説明してください」。
例えば、こんな解答があります。「母に他の人と比べておこづかいが少ないので多くしてほしいと頼んだら、他の人と比べるなと言われた。しかし、別の日には他の人はもっと勉強してるんだから、もっと勉強しなさいと言われた」。
対話の時間の評価軸は、その場で起こる対話だけではありません。学んだ内容を、どうやって日常生活に活用していけるか。そのことのほうがきっと大切なことなのです。
5. 推しポイント!
「子どものための哲学」の情報はずいぶんと充実してきましたが、問いを立てて、考えたい問いを選ぶプロセスの情報は少ないので、そこをテーマにしました(他教科の授業にも活用できます)。ポイントは「問いを拒絶しない」ことです。「漢文を勉強する意味はあるのか?」といった挑発的な問いにも、固有の背景があり、子どもたちが言いたいことが詰まっています。子どもたちの問いをおおらかに受け入れてみてください。その態度が(授業内外の)子どもたちの振る舞いに大きな影響を与えることでしょう。
(『ことばの学び』No.21 2025年4月発行に掲載)
中川 雅道 なかがわ・まさみち (神戸大学附属中等教育学校 教諭)
哲学対話や、子どものための哲学を研究中。
育児をしながら、ゆっくり生きている。
過去の業績は次のとおり。https://researchmap.jp/masamichi-nakagawa
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