熊上 絵里 (大阪府枚方市立第三中学校)
2021年04月23日
英語の授業を通して、コミュニケーションをする喜びを感じさせ、視野を広げて世界に飛び立つ生徒を育てたい、そんな思いで教員生活を続けている。教科書の単元テーマだけにとらわれず、それを飛び越えて自ら学びを深めてもらいたい。新学習指導要領にもある「知識・技能」「思考・判断・表現」そして「学びに向かう力・人間性」これら全てを統合して、何か形に残る活動はできないかと考え、本活動を設定した。
NEW CROWNの教科書は3年間を通して “The Ogasawara Islands”(平成28年度版) 、“Uluru” などの環境問題、 “The Story of Sadako”、“A Vulture and a Child” を代表する戦争問題、そして “I Have a Dream” の人権問題などと多岐に渡る深いテーマを取り上げている。ただ与えられたテーマだけを掘り下げるのではなく、それらの話題を通して自分が興味・関心を持った内容についてより掘り下げ、その問題について「自分は何ができるか考える。」本活動では1学期末~2学期初めを通してポスター “What We Can Do for the World” を作る。
2.活動の流れ
① 1学期末考査終了後 課題の紹介
1年生~3年生の教科書のタイトルを掲示し、どんな内容について学習しているのか再確認させる。グローバルな問題を取り上げていることが多いことに着目させる。自分の興味のあるテーマを選ばせ、それについてタブレット等を活用し調べ学習の時間をとる。また、今後必要となってくる参考資料・文献の引用の仕方も合わせて指導する。
生徒が選ぶテーマは以下のものである。
A 人権 B 環境・自然 C 日本文化の紹介 D 防災 E 戦争・平和 F 自由テーマ |
合わせてRubricを掲示する。
文量 | 内容 | 参考文献 | |
A | B4用紙のそれぞれの項目が半分以上埋まっている。(目安5文以上) | ワークシートの項目に求められている内容を明確に書いている。 | 参考文献が2つ以上書かれている。 |
B | それぞれの項目について2~3文程度しか書かれていない。 | ワークシートの項目を書いているが、内容が乏しい。 | 参考文献が1つ。 |
C | 1文または書かれていない項目がある。 | 理解できない。 | 参考文献なし。 |
盗作・盗用をしないことを合わせて伝える。また参考文献の書き方も伝える。
② 夏休み期間中に原稿を下書きさせる。一人では厳しい生徒もいるため、何日か課題をする日を設定し、生徒と一緒に行う。
③ 生徒は夏休み明けの始業式に下書きを提出。ALTとともに下書きを点検し、訂正、評価をつける。できるだけ早く生徒に返却する。書きなおしたい生徒もいるためセカンドドラフト・サードドラフトと個々の生徒が納得するまで続ける。5回書きなおしてきた生徒もいる。
④ 1ヶ月程期間をとり、原稿を元にポスターを制作させる。ポスターを作るのは自宅で、自由に表現させる。
⑤ クラスごとにギャラリーウォークを行う。各生徒に付箋をそれぞれ3枚持たせ、良いと思う作品に貼らせる。その際、どこが具体的に良いと感じたのかのコメントもさせる。自然と力作には多くの付箋が貼られ、頑張った生徒の自己肯定感につながる。
⑥ 優秀作品を中心に全作品を文化祭などで掲示する。もし、地域で調べ学習コンクールなどを実施しているようなら、出品するのも一つである。
3.国立と公立2つの中学校での本実践を通して
授業者は本活動を大阪教育大学附属池田中学校で初めて実践した。受け身で授業を受けるだけでなく、教科書を飛び越えて自分から研究テーマを見つけ、それについて深く掘り下げる生徒を育成したい。また、Critical Thinkingの力の育成が研究テーマであったため、多面的多角的に物事を見られる生徒の育成を目指したい。そんな思いで本活動を実践し、その思いに答えるように生徒はすばらしい作品を作り上げてくれた。しかしその時に同時に考えたのが、「公立中学校に戻ったときに生徒はこの高いレベルの活動ができるであろうか」である。
公立中学校に戻り半信半疑のまま、とにかくまずはやってみようと、生徒に段階を経て本活動を実践した。様々な生徒がいる中厳しいように思えたが、実際はそうではなかった。生徒が一番心動かされたのは、ポスターの実物である。教室に実際に中学3年生が作った作品を掲示し、「他の中学校だけど、君たちと同い年の生徒がつくった作品だよ」というと、興味を持って作品をながめ、分からないなりに本文を読む生徒が多くいた。「すごい、自分もこんな作品を作りたい」という思いを持ったように思う。英作文の中身に多少の違いはあるが、創意工夫は全ての生徒に素晴らしいものがある。また作品を文化祭で展示することで3年生でここまでWritingができるんだ、という他学年への良い見本ともなった。
4.おわりに
新学習指導要領が全面施行され、英語は4技能5領域となる。本実践は「話すこと」のやり取りと発表にも応用できるであろう。ポスターを元にクラスメートへ発表、またはALTとのInterview Testなどできることは多岐に渡る。自分が興味・関心を持った内容に関しての生徒の取り組み姿勢は素晴らしいものがある。教員からの押し付けの授業だけではなく、生徒の知的好奇心を刺激し、学びが深まるそんな授業を今後も展開していきたい。そして「知識・技能」「思考・判断・表現」そして「学びに向かう力・人間性」この3観点を統合して、楽しんで自分の学びを深める生徒の育成をしていきたい。
熊上 絵里 くまがみ・えり (大阪府枚方市立第三中学校)
平成18年大阪府枚方市公立学校教員に着任。文部科学省若手英語教員育成派遣事業により、Western Michigan Universityにて半年間研修を受ける。人事交流により平成25年大阪教育大学附属池田中学校着任。平成29年大阪教育大学大学院英語教育専攻に入学。修士号取得。平成31年より現任校である大阪府枚方市立第三中学校に着任。
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