那須 敬弘 (坂出第一高等学校)
2025年01月22日
本校におけるICT環境
本校は香川県に所在する中規模の私立高等学校です。令和元年度よりGoogle for Educationを導入し、全教職員および全生徒にアカウントを発行し、積極的な活用推進に取り組んでいます。導入初期は主に校務に限定して使用していましたが、現在では授業内外で幅広く活用されるまでに至っています。また、生徒が使用する個人端末としてはiPadを採用しており、令和3年度から全新入生が学校を通じて契約・購入を行っています。これまでの導入初期に採用した各種サービスや取り組みについては、『日本私学教育研究所 紀要 第57号(2021年6月)』(https://www.shigaku.or.jp/study/journal.html)に詳細をまとめています。
ICTを超えて
ICT教育とは、”Information and Communication Technology”を活用し、学習や教育の質を向上させる取り組みを指します。しかしながら、ICTが目的化し、単なる技術導入に終始する事例が散見されます。これは、私自身への反省としても捉えています。
そこで私は、ICTを”Interactive and Collaborative Tools”(双方向的かつ協働的なツール)と読み替えています。つまり、ICTを単なる技術としてではなく、学習者同士や教師との双方向的なやり取りや協働学習を通じて、コミュニケーションを深め、学びの効果を高める手段として再定義しています。
前編でご紹介する辞書アプリ「ことまな辞書」は、令和3年度から導入しているICTツールのひとつです。辞書アプリを活用することで、生徒が英単語の意味を調べたり、新しい表現を共有したりする協働活動は、まさに”Interactive and Collaborative Tools”としての役割を果たしています。
また、後編では、OpenAI社のChatGPTなどの生成AIの利活用事例も併せてご紹介いたします。
「ことまな辞書」の導入指導
本校では、普通科特別進学コースの全生徒を対象に、またその他の学科・コースの希望者に対して、「ことまな辞書 5辞書セット」を次の5つの利点を意図して導入しています。
1.生徒が所有しているiPadを使用して、5冊の辞書をいつでも利用できる。
2.紙の辞書5冊を購入するよりも、コストを抑えて利用できる。
3.紙の辞書と同じレイアウトで、アプリ上で辞書を閲覧できる。
4.オフラインでも使用可能で、いつでもどこでも学習をサポートできる。
5.卒業後も引き続き利用できる。
年度初めに集計が完了次第、書店を通じて申し込みを行い、生徒一人ひとりにライセンス証明書を配布します。本校では、ライセンス証明書の配布に併せて「ことまな辞書使い方講座」を実施し、全生徒に向けて一斉指導を行っています。くわえて、導入後はライセンス証明書を一時回収し、卒業時に再配布する運用をとっています。導入当初に予見された、使い方への戸惑いや、ライセンス証明書の紛失などの混乱を未然に防ぐための取り組みです。
「ことまな辞書使い方講座」では、全生徒を対象に「アプリのインストール」「ライセンス証明書の記載内容によるログイン」「辞書データのダウンロード」「辞書の開き方」といった基本操作を指導しています。これらは、「アプリ」の使い方についての講座です。一方、「辞書」を効率的に活用するための具体的な方法は、授業の中で指導しています。英語の授業では、検索機能の活用方法、同義語や関連語の調べ方、用例検索による文法学習の実践例などを取り上げ、効果的な使い方を示しています。「アプリ」と「辞書」、それぞれの初回指導を徹底するようにしています。
これらにより、生徒の利用方法の理解促進とトラブル防止を実現することができました。「ことまな辞書」をスムーズに利用できる環境を整えることこそが、利活用促進の近道であると言えるでしょう。
「ことまな辞書」の利活用事例 ――重要表現の学習
教科書では各パートに重要な表現がいくつか紹介されますが、それらの授業での取り扱いには工夫を加えています。従来は、教師が提示した用例を生徒がノートに書き写し、その後全体で音読するという流れが本校では一般的でした。しかし、この方法では生徒の学びが受動的になりがちです。
そこで私は、生徒を班ごとに分け、それぞれの班に担当する表現を割り当て、5つの用例を自分たちで準備させる形式を採用しました。この際、「ことまな辞書」を活用し、その中の用例を優先的に整理させます。「用例タブ」を使用することで、調べたい表現を辞書全体から効率的に検索できます。
次の画像は、生徒が調べた内容を入力している様子です。クラス全体で、教師によってGoogle Classroomから配信された1つのGoogleドキュメントを共同編集します。この画像では赤枠で囲まれた4名が担当箇所に用例を同時に整理しています。これにより、生徒は自主的に用例を探し出し、それをクラス内で共有するという、能動的な学びの姿勢を示すようになりました。また、この成果物は簡単にクラス外にも共有できるため、クラスの垣根を越えて多くの用例にふれさせることができます。
「ことまな辞書」の利活用事例 ――辞書アプリとiPadとのコラボレーション
次に紹介するのは、iPad端末を用いた電子辞書の基本操作を活用した事例です。教科書のレッスンに「オーロラ」が取り上げられ、その英語として“northern lights”が新出語句として紹介されました。すると生徒から、「オーロラって英語じゃないんだ。どうして“northern”なの? “southern lights”はないの?」といった疑問が出てきました。
これこそ「ことまな辞書」を活用する絶好の機会だと思い、生徒全員に“northern lights”を調べてもらい、気づいた点を共有させました。以下はその一部です。「“the”と一緒に使うんだ、まるで“the Earth”みたいだ。辞書には“Northern Lights”と書かれているけど、教科書では“northern lights”と小文字で書かれているな。あ、やっぱりオーロラは“aurora borealis”って英語だったんだ。「ボレ」ってどう読むんだろう?」
次に“aurora”を調べてもらい、まずは発音を確認しました。私も調べて、教室の前方に投影しながら気づきを共有しました。「northernだけじゃなくて、southernもあるんだ。borealisが出てきたけど、australisもあるなんて混乱するな。australisってオーストラリアから来てるの?あ、南って意味か!」
さらに“borealis”について調べる方法を教え、iPadで表現を長押しして表示される情報を確認させました。「ラテン語か、そりゃ分からないよね。“北の”という意味だったのか」といった率直な反応がありました。iPadの機能を活用することで、「ことまな辞書」をハブとして利用し、インターネットという広大なリソースに接続することが可能になります。
その後、さらにインターネットを利用して調べさせ、“the southern lights”を長押しして“Search Web”を選択し、ブラウザで画像を検索しました。これにより、さまざまな“the southern lights”を確認し、“the northern lights”と見比べながら気づきを共有しました。
最後に、生徒各自でオーロラの動画を検索し、みなで夜空を舞うオーロラを疑似体験して、一連の学習を締めくくりました。
このように、「ことまな辞書」により、辞書という高い信頼性をもつ教材にふれさせたうえで、さらにiPadとのコラボレーションで、辞書の枠を超えた広範な学習が可能です。これら学習を通じて、生徒が自主的に学習を深めるようくり返し促すことで、より”Interactive and Collaborative Tools”としての役割を最大限果たすようになるのです。
※ 掲載の画像は一部修正を行っており、実際の画面と異なる場合があります。
那須 敬弘 なす・たかひろ (坂出第一高等学校)
1973年生まれ。1999年より学校法人花岡学園坂出第一高等学校に勤務。現在は教
育改革推進部長として、「ICT教育」、「総合探究」、「哲学対話」などにおい
て先進的な教育プログラムを推進している。また、Google認定教育者レベル1&
レベル2、Apple Teacherの資格を取得し、デジタル技術を活用した教育実践にも取り組む。
先生向け会員サイト「三省堂プラス」の
リニューアルのお知らせと会員再登録のお願い
平素より「三省堂 教科書・教材サイト」をご利用いただき、誠にありがとうございます。
サービス向上のため、2018年10月24日にサイトリニューアルいたしました。
教科書サポートのほか、各種機関誌(教育情報)の最新号から過去の号のものを掲載いたしました。
ぜひご利用ください。