渡邉 亮祐 (御殿場市立御殿場中学校)
2023年12月14日
1 導入
私は、子どもが自ら疑問を持ち、自分なりの学習プロセスで他者と協働しながら自らの疑問を解決することで学びの実感を得る「子どもが前のめりに学ぶ授業」を目指しています。
このような授業を実現するために、問いづくりを中心とした学びを展開しており、ICTが有効であると実践の中で感じています。
本稿では、問いづくりの学習におけるICTの有効性について紹介します。
2 授業実践
(1)単元計画
題材:平家物語(敦盛の最期)
目標:古典に描かれる登場人物の言動や物語の展開の面白さについて自ら問いを持って学習することを通して、登場人物の人となりやその関係性について読み解くとともに自らの問いを解決することで古典作品に込められた作者の想いや考えに気付き、古典の世界に親しみつつ、自らの知識や経験とを結びつけて自分の考えを広げたり深めたりすることができる。
単元計画
次 | 時 | 内容 |
1 | 1 | 初読の感想・初読の問いづくり、物語の設定 |
2 | 登場人物(熊谷・敦盛)の人となりについて考える | |
2 | 3 |
自らの問いの解決とプレゼン 全体課題「熊谷は物語の最後まで武士としての名誉を求めていたか」の解決 |
4 | ||
3 | 5 | 物語の設定や展開の面白さ |
6 |
作品の主題と昔の人の見方・考え方 |
(2)使用するICT機器など
授業では、iPadとロイロノート(共有ノート)を使用します。
【共有ノート】
・共同編集や作業を行うための環境を整えやすい。
・同じノート内で学習するため、誰が何をしているのかを確認しやすい。
・良い取組や意見を見つけ、それをすぐに真似したり、比較、参考にしたりしやすい。
(3)学習の様子
①初読の感想・問いづくり(右が初読の問い)
生徒たちは、「敦盛の最期」を読み、初読の感想と共に、初読の問いづくりを行いました。ここでは、初めて物語と出会う中で疑問に感じたことを素直にロイロノート上の個人カードに書き出していきます。
この時点では、問いは表面的なものが多く、また、問いの質や量においても個人差が見られます。
②登場人物の人となりについて、問いづくり(2回目)
次時では、登場人物の人となりについてボーン図を用いて調べました。
このボーン図では、骨の部分に登場人物の人となりに関わる記述を書き出し、その内容を統合して頭の部分にその人物の人となりをまとめていきます。
この時、共有ノートを用いてそれぞれの考えの様子を互いに見合うことができる環境を整えました。それによって、友達の意見を参考に考えを付け加えたり、考えをまとめ直したりする姿が見られ、知識を身に付ける過程においてもICTの有効性を感じました。
その後、再度問いづくりを行いました。
ここでは、班ごとに人となりの分析を踏まえた上で再度問いを作り出していきました。人となりの分析のために文章を繰り返し読んでいることや、人となりが分かるからこそ行間に隠れた内容や、熊谷の葛藤、敦盛の潔さに隠された気持ちなどに対しても問いが集まりました。
また、この問いづくりの際にも共有ノートを使用しました。他の生徒の問いも参考にしつつ、自分ごととしての問い作りを進めることができました。
③・④問いを生かした学習(問いづくり・その解決の学習)
この時間では、自分の問いを分類し、優先順位付けを行い、そして、選んだ問いを解決します。
この場面でも共有ノートを使用します。他の班の問いもいつでも見ることができるため、他の班を参考に問いを増やしたり、問いの内容を吟味したりする班がほとんどでした。
問いの学習では、自分たちがどんな問いを選択するのか、その問いの質が重要になります。
そのため、問いを吟味する場面ではICTが非常に効果的です。
生徒たちは、問いを「物語の内容に関わるもの」「物語の設定に関わるもの」「物語の主題に関わるもの」に分類した後、それを優先順位付けします。ロイロノートでは、背景のシンキングツールを切り替えすることができるため、「Y字チャート(分類)」から「ダイヤモンドランキング(順位付)」と思考の段階に応じてシンキングツールを切り替えながら思考を深めました。
思考ツールを使うことで、思考を可視化しながら切り替えることができるため、グループ内の対話も非常に活発になります。
グループで、提示された条件に基づいて優先順位をつけた後、問いの解決を行いました。
この時に話題になったのが、「もし敦盛が16、17歳でなかったらどうなっていたか」という問いでした。この問いから生徒たちは「敦盛の年齢が物語で重要な役割を果たしており、その設定が物語の面白さを増している」と気付きました。
その後、それぞれの問いの解決を生かして「熊谷は物語の最後まで武士としての名誉を求めていたか」という課題に取り組みました。
生徒たちは、自分たちの問いを深める過程で、物語を繰り返し読み込むことで、より深い理解に至ることができました。また、この問いの解決場面においても共有ノートを用いたため、このような活動が苦手な生徒も友達のやり方を真似しながら自分なりの考えを持つことができました。
⑤物語の面白さを設定から考える
前の授業で生徒たちが「もし〜だったら」という問いを通じて物語の設定の面白さやその重要性に気付いたことから、物語における重要な設定をさらに探究しました。
生徒たちは、敦盛や直実に関する設定に対して新たに問いをつくることで、設定から物語のどのような面白さが生まれているのかを考えました。
⑥作品の主題と昔の人々の見方・考え方
問いを用いて繰り返し物語を読む過程で、生徒たちは平安時代末期や作者の時代である鎌倉時代の見方や考え方に触れ、それが現代とどのように異なり、またどのように共通するか考えることができました。
5 最後に
この取り組みは「ICT×問いづくり」の多様な方法の一つです。
これらの学習では、子ども達が様々な問いを持ち、それぞれの方法で学習を進めます。共有ノートを用いることで、互いの考えをいつでも参考にすることができます。それが、対話を促すきっかけになったり、友達の考えをきっかけに自己内対話を始めるきっかけになったりするのです。
また、協働学習が苦手な子であってもICTを用いることで無理なく協働の場に参加することができます。このような学習をますます発展させていくためにも、教師は様々なファシリテーションの手法を今後身につける必要があると考えます。
問いづくりの学習では、子ども自身が自らのプロセスで進めていく学習であるため、試行錯誤を繰り返しながらそれぞれの探究プロセスを確立することができます。
子どもたちが、自律した学習者として前のめりに学習が進められるように、今後も共に学びを進めていきたいと思います。
渡邉 亮祐 わたなべ・りょうすけ (御殿場市立御殿場中学校教諭)
「子どもが前のめりに学ぶ」をテーマに、「自ら問いをもって学ぶ」「自ら学習プロセスを確立する」「必然性をもって、他者と協働して学ぶ」「子どもたちが学習プロセスを楽しむ」授業実践と共に、「ICTを生かした学び」を推進している。2023年度教師海外派遣ネパールに参加。
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