
羽生 麻子 (相模原市立橋本小学校)
2026年10月05日
1 背景と課題:教育現場におけるALTとの信頼関係の重要性
外国語指導助手(ALT)が笑顔で生き生きと現場で子どもたちと関わることは、安心して外国語によるコミュニケーションを取る態度を育てる基礎となります。その実現には、まずALTとJTE(日本人教員等)との間に確固たる信頼関係を築くことが不可欠です。
特に来日直後のALTに対しては、JTEが日本の学校事情について密にコミュニケーションを取る必要があります。学校ごとに異なる日課やルールがあるため、複数校を巡回するALTは着任当初に大きなストレスを抱えがちです。そのストレスから学期途中で帰国してしまうケースもあり、児童生徒が新しいALTに慣れるまでに時間がかかることも少なくありません。
異国の地で環境変化や異文化に適応しながら業務を行う大変さに心を寄せコミュニケーションを深める中で、学校現場以外におけるALTの様々な困り感が浮かび上がってきました。
2 資料作成の経緯と狙い:なぜ今「季節」に着目したのか
私が今までに出会ったALTから受ける質問の多くには、「季節」と「日本人の文化」が密接に関わっていました。日本人にとって季節の話題は自然な日常の一部で意識もせず話題にしますが、文化的文脈を共有しない外国人には「本題に入らない遠回しな会話」と不思議に思われることがあると知りました。
また「衣替え」や「冬支度」という習慣を知らないために、季節変化への準備ができず、体調を崩す実態にも気づかされました。日本は四季の変化が明確で、古来より自然の小さな変化に寄り添って暮らしてきた歴史があります。小学校の生活科等で季節感を養う教育が設定されていますが、日本人の「当たり前」の会話や行動は、外国出身者にとって理解しづらく生活を困難にさせる側面もあります。
生活面の不安や不調は業務への支障にも直結するため、こうした「日本人の当たり前」を言語化して伝える必要性を強く感じたことが、本資料作成のきっかけです。
互いを尊重し安心して働ける環境を整え、JTEからの生活基盤を整える支援が、結果として業務の安定につながると考えます。
3 ALTからの反応と反響
実際に資料やスライドを提示した際、最も大きな反響があったのは「季節の挨拶はコミュニケーションの潤滑油であり、あなたに共感していますというメッセージになる」という点であり、多くのALTが「気になっていた部分が、読んで納得した」と語りました。具体的には以下の点について、驚きや共感の声が寄せられています。
・二十四節気:4つの季節だけではなく、自然の微細な移ろいを24の区分で捉える繊細な感受性に驚いた。子どもたちとの話も、季節の話題を入れてみようと思う。
・お盆の考え方:お盆はあの世から魂が現世へ還ってくるため海や川へ行かないという教えに対し、神様を信じないと思っていた日本人の精神性や自国文化との共通点を実感した。
・大掃除の精神:年末の掃除が新しい年を気持ちよく迎える儀式であると知り、学校の清掃活動の意義を理解した。
・季節の挨拶:天気や草花の話をする理由が日本人にとって「相手と同じ景色を見ていることを確認するための態度」だと納得した。自分の国ではプライベートな話をすることが親愛の証であるが、日本人は相手への気遣いに季節や気候の話題が入るのだと知った。
4 期待される効果:共感から生まれるスムーズな人間関係
本資料を通して目指す効果は、双方が「季節を通じた共感のプラットフォーム」を持つことです。日本人が季節を話題にするとき、そこには相手の体調への気遣いや思いの共有、相手を尊重する態度が表れています。
ALTが「桜がきれいですね」「秋らしくなりましたね」といった言葉を発するとき、日本人側にも「この人は日本の文化や私たちの感覚を理解しようとしてくれている」という信頼感が芽生えます。完璧な文化理解を求めずとも小さな変化を楽しむ感覚を共有することで、職員室内でのALTの孤独感や不安は解消されやすくなるでしょう。また、子どもたちとALTとのコミュニケーションは、「異文化」の側面だけでなく、「共感力」という点でも構築されるべきだと考えます。
複雑に見える日本文化の中で、「季節」という言葉をキーワードに互いにより深い絆を築く一助となることができたら幸いです。
羽生 麻子 はにゅう・あさこ (相模原市立橋本小学校)
相模原市公立小学校教諭。学級担任、外国語専科として授業実践や教員研修に携わる。ALTとの協働を通して、互いに学び合い、自信を持ってコミュニケーションを楽しむ子どもたちの育成に取り組んでいる。

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