森住 衛 大阪大学・桜美林大学名誉教授
2018年09月25日
人間が1つの場所に動かないでいる場合の動詞表現は,一般の場合は,大別すると3つになる。stand(立つ),sit(座る),lie(横たわる)である。このうち今回取り上げるのはsit(座る)の文化的意味である。
まず,英語のsitも日本語の「すわる」もその動作は2つに大別される。1つは,「椅子や電車の席に座る,台に腰掛ける」である。もう1つは,「畳や絨毯,地面に直に座る」である。日英で,この2つのどちらが多いかを見ると,文化的意味がうかがえる。伝統的には,sitは前者に多く,「すわる」は後者に多い。極言すると,「椅子文化」と「畳文化」の違いである。この違いは,椅子文化だと脚が細く長くなる,畳文化だと短くて太くなるなどの「おまけ」が付く。
さて,英語のsitと日本語「すわる」の実態を少し細かく見てみよう。まず,sitだが,次の3つしかないと言ってよいだろう。
sit
①椅子やベンチに座る/腰掛ける sit on the chair / bench / couch
②ソファーに座る sit in the sofa
③椅子やソファーに深々と座る sit back in the chair / sofa
「すわる」の場合はもっと細かく分割される。
すわる
①正座する sit on one’s lap, sit on the floor in Japanese style, sit up straight with one’s legs folded
underneath
②片膝立てて座る sit with one’s knee up
③横座りをする sit on the floor/couch with one’s lower legs to one’s side
④あぐらをかい座る sit cross legged, sit with one’s legs crossed
以上のうち,英語圏の人たちをはじめ欧米の人たちがめったにしかしないのは,「すわる」の①の正座であろう。ときどきこの座り方がまったくできない人もいるくらいである。日本人でも最近の若い人たちは正座が苦手であろう。教師や親が生徒や子どもを叱責するとき,正座をさせる場合があるが,この習慣も最近は少なくなっている。法事などで僧侶の読経の間,畳の部屋の場合は,正座をするのが建前であるが,あぐらをかいたり,小道具を使って正座しやすくしたりする場合すらある。
あとの3つ②③④の座り方は,多かれ少なかれ英語圏の人たちにみられる。特に,これらの座り方は,戸外の割合は日本人と比べると多いと言えるだろう。ターミナル駅や空港でコンクリート面や通路の脇に直に座っている光景をよくみかける。これは,地面や床に関する日本人と欧米人の感覚の違いであろう。日本人にとっては,家の中の床は靴を脱いで上がるものなので,そこに座っても衛生上,大丈夫と思っている。逆に言えば,地面に直に座るのは不衛生だと思う。
一方,欧米人は家の中の床はホテルの通路や外の道路と同じように考えている。だから,家の中でも靴を履いている。そのために,家の外の地面に直に座るのは,家の中の床に座ることと同じ程度の衛生観念になる。したがって,日本人ほどには地面に座ることには抵抗感がないといえるだろう。逆にいうと,地面に直に座っても家の床程度にしか考えないかもしれない。なお,東南アジアや南太平洋の人たちも,この地面に座るはあまり気にしていないようである。
以上が,sitと「すわる」の物理的・直接的な動作の日英の比較であるが,2つの語が持っている派生的な意味も取り上げておきたい。意味の広がり方に日英で微妙な違いが見られるからである。
[英語sit]
①ある/位置する sit near the post office
②鳥などが休む,止まっている sit on the twig
③役目を果たす sit for a model / as a chairperson
④受験する(英) sit for the exams
⑤委員会などのメンバーである sit in/on/ for the committee
⑥〜を調べる sit on 〜
⑦〜に耐える sit down with 〜
⑧寝ないで起きている sit up
⑨子守をする sit
⑩すわりがよい/合う sit well
⑪抗議行動 sit-in, sit-down
日本語「すわる」
①地位などにつく「課長のポストにすわる」
②安定する「赤ん坊の首がすわる」
③動かなくなる「目がすわる」
④ものごとに動じなくなる「腹がすわった人だ」
⑤安定感「すわりがよい」
⑥抗議行動「すわりこみ」
以上,全体として言えるのは,sit が前置詞や副詞と合わさって,「いる/ある,休む,役目をする」などの意味合いになっているに対して,「すわる」は「収まる,止まる,動かない」など動詞の意味を敷衍して新たな意味合いを出しているということである。また,sitと「すわる」に共通している意味用法として,sitの⑤と「すわる」の①,sitの⑩と「すわる」の⑤,sitの⑪と「すわる」の⑥の組み合わせがある。
sit⑤ 委員会などのメンバーである sit in/on/ for the committee
すわる① 地位などにつく「課長のポストにすわる」
sit⑩ すわりがよい/合うsit well
すわる⑤ 安定感「すわりがよい」
sit⑪ 抗議行動 sit-in, sit-down
すわる⑥ 抗議行動 「すわりこみ」
この3つの組み合わせは,英語と日本語の発想が同じとしてよいだろう。なお,同じという点では,上の例には出していないが,「すわる」ことが瞑想を暗示させることを加えてよいと思われる。東に「座禅」があれば,西にmeditationありとするのは,あながち無理な結びつけではない。
森住 衛
もりずみ まもる
大阪大学・桜美林大学名誉教授
大阪大学名誉教授・桜美林大学名誉教授。関西外国語大学大学院客員教授。大学英語教育学会および日本言語政策学会の元会長、日英言語文化学会の現会長。専門は英語教育学・言語文化教育学・外国語学。特に、異言語教育を通してどのような言語観・文化観・世界観が育つかに関心がある。監修・編著などに『言語文化教育学の可能性を求めて』(三省堂)、『単語の文化的意味』(三省堂)、『大学英語教育学』(大修館書店)、『言語文化教育学の実践』(金星堂)、『外国語教育は英語だけでよいのか』 (くろしお出版)などがある。中・高の検定済教科書New Crown、Exceed (三省堂)の元代表著者、My Way (三省堂)の現代表著者。
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