三省堂のWebコラム

大島希巳江の英語コラム

No.3 自分のアイデンティティを失わない英語を使おう

大島希巳江
神奈川大学外国語学部国際文化交流学科教授、「NEW CROWN」編集委員

2017年03月08日

日本人という名の国際人になる

ここに到達するには、実はちょっと時間がかかるかもしれません。でも、そこが私たちの目指すところであることには間違いありません。英語を学習したり、グローバル化したり、異文化に適応したり、さまざまなスキルを身につけたりしたいと多くの人々が考えているわけですが、その過程の中で自分らしさを失わないようにしなければなりません。

 

グローバル化社会に適応する、国際人になる、ということは日本人であることを捨てて外国人になるということではありません。アメリカ人やイギリス人などの英語ネイティブの人間になるということでもありません。日本人という名の国際人になることが、グローバル化するということです。

 

言語的にもマインド的にもグローバル化とローカル化のバランスをうまくとる(グローカル化する)ことはなかなか難しいことです。グローカル化については、次回考えてみたいと思います。

バイリンガルが抱える様々な悩み

バイリンガルと呼ばれる人々でも、その言語能力、コミュニケーション能力、適応能力などはまちまちです。そして時々、「英語で話しているときと日本語で話しているときでは性格が全く違う」というバイリンガルも存在します。

 

英語で話し始めると、突然大きなジェスチャーを使い、表情をおおげさに作り、大きな声で少々無礼なくらいはっきりと言いたいことを発言するといった変化を見せる人もいます。もしくは、英語で話しているとなんだか自分が自分ではないような気がする、話し方が乱暴になっているような気がする、別の自分を演じているような気がする、そのために疲れる、という人もいます。

 

逆に、日本語で話しているときの自分は好きじゃない、なぜか英語で話しているときの自分は明るくてポジティブになれるから好き、日本語では言えないことも言えてしまうから楽、などの自己分析をする人もいます。

 

これは、ある程度のレベルまでは当然のことです。それぞれの言語には特性があるので、話す内容や話し方はその言語の特性に引っ張られて変化することがあります。また、さらに大きな要因としてはその言語をどのような人々に向かってどのような状況で話しているか、ということに大きな影響を受けるからです。

 

話す言語によって性格が変わるなんて、「自分って多重人格者なのだろうか?」とさえ思うバイリンガルやマルチリンガルの人々もいます。私の教え子にペルーと日本にルーツを持つ両親の間で育った学生がいます。ペルーや日本、さらにはイタリアを行ったり来たりして教育を受け、小さい頃からスペイン語と日本語のバイリンガルです。それでも彼は自分の多重人格ぶりに悩んでいました。

 

「日本語で話すときは性格が恥ずかしがりやで声も小さいし、無口で目立たないように振る舞うクセがある。なんとなく下を向いていた方が無難に過ごせる。小学校でちょっといじめられた経験があるせいかもしれない。でも、スペイン語で話すときは、もうすごくはじけて、めちゃめちゃ明るい性格。友達も多いし、どちらかというとみんなの中心になってずっとジョークとかベラベラしゃべっている。スペイン語が明るい言語だからだと思うけど、日本人の友達がそんな僕を見ると、すごく驚いてしまう。」

 

彼のような経験は、多くのバイリンガルもしくはマルチリンガルがある程度経験するようです。しかし、彼らもだんだん自分の中でバランスをとるようになってきます。どれが本当の自分で、どのような振る舞いや話し方が自分らしいのか、自分をより深く理解し、自己アイデンティティを確立し、自分で決めていきます。

 

数年たった今では、彼は日本語でも笑顔でよくしゃべり、ジョークを交えたプレゼンテーションがとても上手な学生になりました。初対面のときは彼が持っているもともとのシャイで奥ゆかしい性格が顔をのぞかせます。それでもスペイン語で話すと話すスピードが速くなる分、倍の量しゃべりますが。

 

別のケースもあります。アメリカで育ったアメリカ人の留学生が、日本語を学ぶようになって自分らしさを発見した、と言うのです。彼はもともと大人しい性格で、大きな声で発言することが苦手で、アメリカの学校ではなかなか苦労したそうです。しかし、日本語を勉強して日本で生活するようになると、英語とは違う、ゆったりとした日本語のペースや、人々の会話の仕方(人の話に無理やり割り込まない)などが彼の性格にぴったり合っており、居心地がよいそうです。彼の場合は、英語でも日本語でも自分を見失うことなく自分らしさを貫くことができているようです。

言語そのものにも特性がある

言語にはそれぞれ特性があると先述しましたが、英語は論理的な言語で日本語は感情的な言語であるなどの、単純でおおざっぱな分析があるように、ある程度の傾向は推測できます。英語では先に意見や結論を述べて、そして筋の通った理由を述べるという話し方が一般的です。

 

日本語では結論は最後で、理由や過程を先に述べるため、話がどこに向かっているのかわからないまま聞き手は聞いていなければなりません。そのため、相手の話を最後まで聞く、というのんびりしたペースの会話の運び方が主流となります。英語ではそのような流れにならないので、日本語で話す順序で話をしていると、どこかの段階で「So、 what’s your point? I’m lost.」と言われてしまうかもしれません。

 

このような言語の特性の違いと共に、聞き手と状況の違いによって、コミュニケーションにギャップができます。英語を話すということは、相手は英語話者(母語であっても第二言語であっても外国語であっても)であるということですから、ある程度相手に合わせて話をしなければならない、という意識が働くので、「英語で話すと性格や話し方が変わる」ということになるわけです。

 

同様に、日本語で話しているときは、相手は日本人もしくは日本語や日本文化をよく知った人である可能性が高いので、それなりに丁寧語や尊敬語などを駆使し、思慮深く話したほうが無難、ということになります。

 

言語と振る舞いを相手に合わせて話す、というコミュニケーション能力は非常に重要です。これができればバイリンガルとしても能力が高いといえます。さらにもう一歩先を目指すとしたら、日本語であろうと英語であろうと性格も話し方も変えることなく、自分らしさを貫けるバイリンガル国際人といったところでしょうか。

(掲載:2017年3月8日)

やってみよう!教室で英語落語 [DVD付き]

大島希巳江 著

本体2,000円+税 A5判 128頁

978-4-385-36156-7

2013年6月20日発行

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プロフィール

大島希巳江    おおしま・きみえ 神奈川大学外国語学部国際文化交流学科教授、「NEW CROWN」編集委員

教育学(社会言語学)博士。専門分野は社会言語学、異文化コミュニケーション、ユーモア学。

1996年から英語落語のプロデュースを手がけ、自身も古典、新作落語を演じる。毎年海外公演ツアーを企画、世界20カ国近くで公演を行っている

著書に、『やってみよう!教室で英語落語』(三省堂)、『日本の笑いと世界のユーモア』(世界思想社)、『英語落語で世界を笑わす!』(共著・立川志の輔)、『英語の笑えるジョーク百連発』(共に研究社)他多数。

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