三省堂のWebコラム

大島希巳江の英語コラム

No.1 グローバル化=欧米化ではない:グローバル化の危険性

大島希巳江
神奈川大学外国語学部国際文化交流学科教授、「NEW CROWN」編集委員

2016年12月28日

グローバル化とは世界の基準を作るということ

「グローバル化」とはグローバル・スタンダードに合わせる、つまり標準化するという意味です。基準を一つにすることによって、さまざまなモノや人の流通がスムーズになり、便利になることは間違いありません。

 

古くはメートル法の採用がグローバル化の良い例です。日本では寸(すん)・尺(しゃく)、イギリスではフィート(feet)・ヤード(yard)など、長さの単位は各国・地域でバラバラでしたが、現在はそのほとんどがメートル法に統一されています。長さの単位を統一することによって、貿易やコミュニケーションがぐっと楽になりました。相手がどこの国の出身であろうと3メートルの角材を注文すれば、きっちり3メートルの角材が届きます。それぞれ別の単位に換算する必要もありません。確かに、その意味ではグローバル・スタンダードを設けて世界各国がこれに合わせることのメリットは大きいといえます。

 

一方で、グローバル化がすすむことによって各地域の文化が画一化され失われていくという懸念もあります。メートル法を取り入れたことによって、日本では寸や尺という単位を使うことが一般的ではなくなりました。すると、一部の伝統的な概念が忘れ去られていくことになります。

 

たとえば、「一寸法師」という昔話は誰でも知っていますが、寸という言葉の意味がわからなくなると、なぜ一寸法師と呼ぶのか、一寸とはどのくらいの大きさなのか、それこそセンチメートルに換算しなければ理解できません。また、「尺とり虫」はなぜ尺とりと呼ばれるのか、尺八という楽器の名前の由来は何か。長さの単位がメートルに変わったことによってすぐにピンとこない言葉が増えたような気がします。言い換えれば、言葉が意味を失いつつあるのです。

 

もちろん、このようなことは日常的にさまざまな場面で起きており、グローバル化ばかりが原因ではありません。社会が変化することによって,使われなくなったもしくは必要なくなった言葉は死語となり消滅し、新しい言葉やコンセプトが増えるのは当然の流れです。

 

社会と言葉の変化、新しい言葉やコンセプトの変化に応じて自分の考え方や態度を変えていくことによって、自分のアイデンティティは常に変わっていきます。もちろん変えないという選択をする場合もあると思います。もともとの自分らしさをキープすることと、新しいモノを取り入れる柔軟性のバランスをとらなければならないでしょう。グローバル化の便利な面と懸念される面のバランスをとろうとする状況と同じです。

グローバル英語のコンセプトとは?

メートル法と同様に、言語でいえば英語が世界の言語のグローバル・スタンダードになっていると考えられます。ただし、メートル法ほど単純ではありません。英語は言語であり、ことばは生きています。ことばは人々にとってアイデンティティを表出するものです。

 

ちなみにメートル法はもともとフランスで使われていたもので、アメリカはある種の「アイデンティティの喪失」を危惧してメートル法を取り入れなかったとも考えられています。先進国で唯一頑固にインチ、フィート、マイルを使い続けているのはアメリカだけです。

 

そこで、グローバル英語とはどういうものなのか、きちんと考える必要があります。多くの研究者がそのコンセプトについて研究をしています。私自身,日本特有の英語に対する特殊な考え方や思い入れも考慮しつつ、グローバル英語という言葉が独り歩きしていかないようにしたいと考えています。いまでも、「本物のグローバル英語を身に付けるためにはネイティブ英語を学ぶべき」というような宣伝を多くの英会話学校がしています。

 

日本では英語のネイティブ・スピーカーのような発音で、ネイティブと同じような表現方法を使って英語を使用できるようになるのが望ましい、とされているようです。ネイティブから英語を学ぶことは悪いことではありませんが、「ネイティブのように英語を話せなければグローバル英語ではない」と考えるのは必ずしも正しいとは思いません。

 

こういった考え方は日本特有の現象で,グローバル英語を研究している研究者の間では,「ネイティブ・スピーカー・シンドローム」もしくは「ネイティビズム」とも呼ばれるネイティブ崇拝が存在するといわれています。

 

しかし,少なくとも伝統的に日本の英語教育は「ネイティブ英語」を目指してきており、そして残念ながら日本国内で英語のネイティブ・スピーカーを育成することには失敗してきました。これは考えてみれば当然のことで、国内で英語を使う場面が少なく、英語のネイティブ・スピーカーであることが求められない日本で,日本人をネイティブ・スピーカーに育てる必要性も土壌もありません。世界の英語を研究する本名信行氏は次のような方程式を提案しています。

 

×:アメリカ英語(イギリス英語)+ 日本人英語学習者 = 英語ネイティブ・スピーカー

○:アメリカ英語(イギリス英語)+ 日本人英語学習者 = 日本英語スピーカー

 

(本名信行『アジアの英語』くろしお出版,1990)

これから世界で活躍する日本人にとって必要なグローバル英語とはどのような英語なのか、このコラムではいくつかのアイディアを提案し、事例を挙げ、考えてきたいと思います。

プロフィール

大島希巳江    おおしま・きみえ 神奈川大学外国語学部国際文化交流学科教授、「NEW CROWN」編集委員

教育学(社会言語学)博士。専門分野は社会言語学、異文化コミュニケーション、ユーモア学。

1996年から英語落語のプロデュースを手がけ、自身も古典、新作落語を演じる。毎年海外公演ツアーを企画、世界20カ国近くで公演を行っている

著書に、『やってみよう!教室で英語落語』(三省堂)、『日本の笑いと世界のユーモア』(世界思想社)、『英語落語で世界を笑わす!』(共著・立川志の輔)、『英語の笑えるジョーク百連発』(共に研究社)他多数。

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