飯間 浩明
『明解現代文B[改訂版]』新教材「反対語を意識して考えよう」原著者
『三省堂国語辞典 第七版』編集委員
2017年06月13日
高校の国語の授業は覚えていない、という大人が多いようです。私は信じられなくってね。
もちろん、私は覚えていますよ。受けた授業を再現しろと言われたら再現できそう。まあ、それは言い過ぎにしても、けっこう細部まで覚えています。
「兼好法師は中世の人だが、それ以前の古典に詳しく、『徒然草』も古いことばで書いている。でも、ときどき同時代の言い方が出てしまうんだ」。S先生にそう聞いて、上手の手からも水が漏ることを知りました。
寺田寅彦の随筆にあった「ヘテロドックス」(異端)という語がどうしても発音できず、以後「ドックス」と略してしまったO先生。なるほど、聞き手も了解している語なら略していいわけだ、と納得しました。
高校2年の時、A先生による志賀直哉「城の崎にて」の授業で、私は強烈な体験をしました。
作品中、ある夕方に散歩していた「自分」は、大きな桑の木の近くへやって来ます。そこで〈ある一つの葉だけがヒラヒラヒラヒラ、同じリズムで動いている〉様子を目撃します。なんでこんな奇妙な動きをしているんでしょうね。はい、飯間君。
A先生に指名された私は、「風が吹いているからでしょう」と適当なことを答えました。たちまち周囲の友だちが「えー」と声を上げる。よく読むと〈風もなく〉と書いてあります。
若い女性のA先生は「風でないとすれば、何でしょう」と重ねて質問されました。狼狽する私。無事正答にたどり着けたかどうかは覚えていません。
私が文章をざっと読むのをやめ、人の数倍の時間をかけて読むようになったのはそれからです。今でも私は本を読むのが遅い。A先生の授業のおかげです。
(「高校国語教育2017年夏号」2017/6発行より転載)
飯間 浩明
いいま・ひろあき
『明解現代文B[改訂版]』新教材「反対語を意識して考えよう」原著者
『三省堂国語辞典 第七版』編集委員
国語辞書編纂者。日本語の用例を広く収集し研究しているほか、言葉に関するテレビ番組の講師や監修者を務めるなど、現代日本語全般に関心が深い。
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