工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2019年09月03日
工藤
さて,半年ほど時間が空いてしまいましたが,English Coffee Breakを再開していきたいと思います!
津久井
この半年の間にも,工藤さんには色々な所でよく会ってたけどね。
工藤
まあね。再開するにあたって,何かテーマになりそうなことはないかなって,改めて周りを見回してみたら,一つ「これは」ということがあって。
津久井
なんだろう。
工藤
ここ数年ありがたいことに多くの学校に呼んでいただいて,授業を見学する機会が多いのだけど,実際教室に行って,生徒の英語を直接聞いてみたら…。
津久井
なんとなく,わかってきた気がする。
工藤
そう,生徒の英語が聞き取れないことがままあって。もちろん,40人のクラスで一斉に話しているわけだから,環境的な側面もあるのだけど,それでも,これまでの学習履歴を共有していない外部の人間が,生徒の音声だけを頼りに内容を把握しようとすると,なかなか…ということが何度かあって。
津久井
音声指導とか,発音ってことだね,今回のテーマは。
工藤
そういうこと。
津久井さんは実際高校で授業してて,生徒の音声について気づくことってある?
生徒の発話が聞き取れない!?
津久井
自分もときどき,反転授業のような展開で,生徒が自宅で準備してきた英文を用いてペアで活動することがあるんだけど,そうなると…。
工藤
まったくわからない。
津久井
そう,まったく。こういう,友達の英語を本当に聞かなくちゃいけない状況になってはじめて,何言っているか全然わからないっていうのが起きるんだよね。友達同士だからはっきりは指摘し合わないけど。でね,こういうとき,教室で何が起きるかというと。
工藤
うん。
津久井
お互いが英文を見せ合う展開になっちゃう。
工藤
そう!そうなるんだよね!
津久井
その姿を見たときに,生徒たちは自分の英語が「本当に通じているか」っていうのをあまり気にしていないし,自分も気にするように指導してこなかったなって反省した。
工藤
自分もかつて大学の授業で,二種類のテキストを配って,ペアで違うものを読んで,そのあとに内容を伝え合うっていう活動をしたのね。
津久井
うん,うん。
工藤
で,実際やってみたら,まったくわからないの。
津久井
やっぱりね。大学生でもやっぱりそうだよね,現状。
工藤
学生の原稿見たらそれなりに書けているんだよ。伝えたいことがそこにあって,伝える英語もできているのに伝わらないってすごくもったいない…そこで,音声っていうのは,やっぱり大事だなと思ったんだよね。
津久井
大事だよね。
「英語は相手に伝えるものだ」というマインドセット
工藤
でね,その原因を,少し考えていたんだけど,音声の指導があまりされていないということももちろんあるのだけど,そもそも声が小さいっていう原因もあると思って。
津久井
あ~あるある。先月,アメリカの中学生年代の学校を視察したときにこんな張り紙(図1)が各教室にあって,きちんと指導していかなきゃいけないんだなって感じた。そこは,ニューヨーク州郊外にある,移民の子どもたちが早くアメリカの教育システムに慣れるようにするための学校なんだけど,向こうの校長先生が,声の大きさは文化を越えて大事なことだって言ってたのが印象的だったな。
工藤
おー,津久井さん,アメリカに遊びに行ってただけじゃなかったんだ。日本の小学校にもこのような掲示があるのを見かけることがありますね。伝えるための声の大きさは改めて考えないと。
あと,声の大きさだけじゃなくて,メッセージの方向性というか,先生が生徒を指名すると,その生徒は先生に向かって答えちゃうから,隣の生徒すらその発話をきちんと捉えていない,ということない?
津久井
正直,聞いてないよね。
工藤
そう,傍観者になっちゃうっていうのもあるし,仮に音は聞こえていても,向かってる先が先生だから,キャッチできないっていうのもあるよね。だから,クラスみんなに聞こえるようにするとか,先生じゃなくてクラスメイトに言おうっていう指導というか,そういう環境を作るっていうのは,すごく大事。伝えなくちゃいけないっていうマインドセットっていうのかな。
津久井
下手すると,先生にすら言ってないときもあるもんね。黒板に向かって答えてたり。
工藤
黒板!?
津久井
こないだ自分の授業で思わず,Thank you for your nice eye contact to the blackboard!って言ってしまった。
工藤
え,どういう感じ?黒板に…?先生ともアイコンタクトとってなくて?
津久井
自分,生徒を指名したあと,その生徒の視界からわざと外れるようにするんだよね。そうするとちょっと違和感が出て,生徒は目で先生を追うから,そこで「ほら,みんなに向かって」って指導するんだけど,このときは,ちょっとうまくいかなくて。
工藤
なるほどね。
以前(※)にも紹介したと思うんだけど,先生に伝えるんじゃなくて対角線にいる生徒に向かって答えるように指示する,というのもいいかもしれない。
津久井
この間自分の授業で,同時通訳みたいのやってみようって言ったら,こうしゃべるんだよ(図2 Before)。40人20組が話しているから,横に並んでいたら全然聞こえないのに…。初めに話す生徒は前を向いて一生懸命英語を話しているし,それを聞き取らなくちゃいけない生徒には,ほかのペアの会話も聞こえてきちゃっていて…聞き取れないと活動できないのに。
工藤
なるほど。
津久井
だから,「ちょっと小学校みたいだけど,体の向きはハの字になろう」って言ったんだよ(図3 After)。でね,それって,裏を返すと,普段英語を使っているときに,音を届けるっていう観点がなかったんだって,思ったんですよ。
だから意識づけっていうか,英語は言語で,それを音として発話している以上は独り言じゃない限り,伝える相手がいるわけで。その人に伝わらない限り,当たり前だけど自分のメッセージは届かない。授業だとその視点を見失いがちになっちゃうけど,やっぱりそれは常に共有しておかなくちゃいけないね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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