三省堂のWebコラム

工藤洋路&津久井貴之のEnglish Coffee Break

第34回:令和にあるいろいろな辞書を考察

工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学

2023年02月01日

津久井

前回、辞書指導がどうして少なくなったか考えてみたけど、辞書指導は時代を問わず必要かもしれないという話になったね。

 

工藤

「紙の辞書 VS 電子辞書」みたいな議論は2000年の前半から中盤にかけて、学会でも取り上げられるくらいには流行ったよね。でも、紙だからできなかったけど電子だからできることもあるし、紙の良さを主張する論調はいまも変わらずあるから、それぞれの良さや使い方を考えてみようか。

電子辞書は単に紙辞書が小さくなっただけ、じゃないぞ!

工藤

電子辞書だと、複数の辞書を一気に串刺しで検索できるよね。例文や用例を一度にたくさんの辞書からひっぱってこられる。

 

津久井

そうだね。だけど、生徒に「英和辞典だと単語の使い方がよくわからないなら、英英辞典にジャンプして例文を見てごらん」なんて言っても、生徒たちみんなことごとく辞書間のジャンプができない。英語に特化した電子辞書だと、すごくたくさんの種類の辞書が入ってるのに、もったいないなって思うよ。

 

工藤

昔はなかなか中高生で英語活用辞典まで持ってる生徒はいなかっただろうけど、いまは英語に特化した電子辞書だと英活も入ってて、比較的多くの生徒が持ってるよね。持ってるからには使わせないともったいないし、今の生徒たちはリーディングよりスピーキングやライティングの活動に取りくむことも多くなってきてるから、思考が発信型で、「英語でこの表現どうやって言うだろう」っていうのが辞書を使うモチベーションになると思うんだよね。

 

津久井

そうだね。コロケーションを知りたがるよね。それって、英語を使おうとしてるからだよね。

 

工藤

そうそう。コロケーションを知りたいときに英語活用辞典を使えば「形容詞+名詞」みたいにかたまりで検索できるもんね。リーディングが英語学習の中心だった時は英和辞典が最もよく使われる辞書だったと思うけど、今は和英や英活がより使われてるんだろうね。せっかく昔じゃ中高生が持てなかったような辞書を当たり前に持てるようになってきてるんだから、昔は教えてなかった種類の辞書についても使い方を教えてあげる必要があるよね。

 

津久井

こないだ甥っ子に英語学習向けの電子辞書を買ってあげたから、場面に応じた辞書の使い方をちゃんとわかってるか聞いてみよう。高いの買ったからチェックしとかなきゃ!

紙辞書の、ココが良かった!

津久井

紙の辞書だと、単語が一覧で見られるから無意識単語が頭に入っていくなんて言われたりもしてたけど、どうなんだろう。

 

工藤

その主張は理解できなくはないけど、リーディングしながら意味が分からない単語を紙の辞書で引くっていうのは、結構クリエイティブで大変な作業だよね。特に、中学生で習うのは基礎的な単語だからこそいろんな意味があって、1つの単語を引いて、全部の意味を見てると5つも6つもの意味に出会う。生徒は、たくさん出てきた意味の中からどれがふさわしいか1個ずつ当てはめて考えることになるわけだよね。

 

津久井

結構大変だね。

 

工藤

しかも、1文に2つ分からない単語があったとして、それぞれの単語で5つずつ意味が出てきたら、1文を理解するために5×5で25通りの意味を考えて、その上でこの文脈でどれが正しいか考え始めると、もう「英語を勉強するのに何年かかるんだ!」っていう気持ちになっちゃうよね。

 

津久井

たしかにね。紙の辞書を引くことに意義はあるんだと思うんだけど、リーディングの活動で「読む目的」がある英文を読んでるときに途中途中で単語の意味を調べて、1つの単語にいろいろな意味があって、どれが正しいんだろうとかって考えてると、「何のために」読んでるかが分かんなくなっちゃいそうだよね。紙辞書だと1単語調べるのにも時間がかかって、その上すべての意味に目を通すとなると大変だ。

 

工藤

1つの単語に5つずつ意味があって、5×5で25通り、とかってやってると、1つの単語が持つ他の意味も自然と覚えるかもしれない。でも、テストには出ない。そうなると、効率性を考えたときにテストに出ないことは今はやらない、とかそういう発想になる。CAN-DOの発想で授業の初めに「今日は〇〇ができるように学習しよう」って指導してると、それ以外のことは勉強しないのかっていう逆の発想も生まれてくるからね。

 

津久井

たしかにね。「CAN-DOや授業のねらいとどう関係してるのか」って意識しすぎちゃうと、CAN-DOや授業の目標に関係のないことは昔に比べるとやりづらくなってるよね。

 

工藤

紙の辞書を使って調べたい単語の複数の意味を見るだけじゃなく、周辺のいろいろな単語や意味に出会うことを重視する先生もいるよね。紙の辞書だと、調べたい単語を一発で調べられないから、調べたい単語にたどり着くまでに他の単語も見ることになる。そうすると学習の合間に寄り道ができて、寄り道をすることそのものが英語学習に良いとか、偶発的な学習になるとか、意義があるっていう主張もあるよね。

 

津久井

紙辞書だとボタンを押したりしなくても周りの単語や調べたい単語のたくさんの意味が見られて例文まで読めるから、授業中ちょっと気になる単語の質問をされたときに生徒みんなに辞書を引かせたりしてたなぁ。中には机上用じゃなくて大辞典の方がいいって、机の上全面に辞書開いちゃってる生徒もいた。教師も生徒も辞書に書いてあるいろいろな情報を読むことに夢中になって、本来予定していた授業からは脱線してしまって「あ、今日の勉強はなんでしたっけ?」みたいなことがあっても良い気がするけど、今は授業自体がそういう遊びの部分を減らすような感じにはなってきてるよね。

 

工藤

まあそれもね、昔は言語活動はあまりやらずに基本リーディングだけを教える先生もまだまだ多かったから、遊びの時間がとれたんだろうね。

 

津久井

それもそうだね。今はやらないといけないことがとにかく増えてるからね。やらなきゃいけないって思ってることをホントにやらなきゃいけないのかって見直すことも必要かもしれない。

 

工藤

あと、「授業は英語で行うことを基本とする」ってなると、辞書は使いにくいよね。辞書って、日本語を英語にするか、英語を日本語にするかのどちらかなわけだから。英英辞典を使うっていう手もあるけど、中学生で英英辞典を使いこなすのはなかなか難しいよね。その辺も踏まえて、どういう場面でどういう辞書を使うと効率的かみたいなのを考えて、適切な指導をしていきたいね。

 

※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。

プロフィール

工藤洋路    くどう・ようじ

・1976年生まれ

・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)

・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授

・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部

・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース

プロフィール

津久井貴之    つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員

・1974年生まれ

・群馬大学教育学部・同大学院修了

・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師

・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく

・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー

令和3年度版『NEW CROWN』の情報はこちら

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