三省堂のWebコラム

工藤洋路&津久井貴之のEnglish Coffee Break

Prologue:新学習指導要領が告示!この先の英語教育はどうなる?

工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校

2017年09月07日

工藤:

この対談は,「英語教育のトレンドワードに関する対談」ということで,編集部より企画をもらいました。第1回目なの「新学習指導要領(2017年3月公示)」をテーマに話していきたいと思います。

 

津久井:

何をどこまでしゃべっていいか迷うけど,まずい部分は編集部がうまく編集してくれる,ということで。

 

工藤:

ざっくばらんに話しましょう。

 

中学は,「いままで通り」じゃいられない

工藤:

3月に中学の新学習指導要領が公表されましたね。

語彙数が1600~1800語に増加したり,いままで高校領域だった仮定法や現在完了進行形などが盛り込まれたり,全体として相当ボリュームアップしたね。

 

津久井:

でも,現場の先生方にアンケートをとってみると,中学校の先生は「今よりも,もっとゆっくり丁寧にやりたい」と思う方が多いとか。

 

工藤:

津久井先生,このギャップをどう考える?

 

津久井:

もうね,「丁寧に」やれる量じゃないから。

 

工藤:

そうですよね,無理ですよね。

もちろん,全てをすっとばして進めるというのではなくて,丁寧にやらなくちゃいけないことは必ずあるから,どこを丁寧にやっていくかっていうのを考えるのがいいのだと思うけど。

 

津久井:

中学生を指導するときに,「どれだけ丁寧に・個別に・段階的に指導できるか」を大切にしている先生が多いと思うんだけど,その考え方が奪われるような感覚なのかな。

 

工藤:

確かに,自分が高校で教えていたときのことを振り返っても,高校よりも中学の先生のほうが生徒に対して個別に手厚く指導している気はする。

 

津久井:

もちろんその考え方は否定しないし,大切にしていくべきだと思うけど,それ一辺倒では,この先ちょっと苦しくなってくるんじゃないかな。

今の考え方だとどうしても,「1800語は多すぎないか」「仮定法まで入れるのは,おかしくないか」って思ってしまうけど,それは,もう「今までと同じやり方はできない」っていうパラダイムシフトを中学校に求めている,っていうメッセージとして受け止めるべきかと。

 

工藤:

厳しいけど,その通りだと思う。

高校がスキル習得を中心とした考え方で目標を上にストレッチして,小学校では英語の音に慣れ親しんで…って,上下に目標がストレッチしている中で,中学校だけ今まで通りに進めていても,小高とつながらなくなっちゃう。

 

津久井:

だけど,見かけ上中学校に大きな変化がないように見えてしまっているのが怖いんですよ。例えば中学2年生から新たに英語が2時間増えます,とかなら,「変わるぞ!」ってなるけど,見かけ上大きな変化がないから,変化が求められていることが見えづらくなっている。

 

工藤:

でも,実際には,小学校も高校も徐々に変化が実現されてきて,実は中学の外堀は固められている。

 

津久井:

そうそう。

ある意味,小学校と高校の「いいとこどり」をしなくちゃいけないのが中学。「中学校は要ですよね」っていうような話をよく聞くけど,本当に,今回こそ中学校がいよいよ変わるべきだと思うよ。

「知識重視」から,「技能重視」へのパラダイムシフト

工藤:

「変わってください」と一口にいっても,いきなりは難しいよね。

 

津久井:

ヒントになるかどうかはわからないけど…よく耳にする「英語教育であって,英会話だけをやるのではない」というのはその通りなんだけど,でも,スキルが身につかなくてもいい,ということではないから。

今度の指導要領では5領域っていう言い方をするけど,そろそろ「英語は技能教科なんだ」って腹をくくらなくちゃいけない。

 

工藤:

「技能教科」。

理解する・覚えるを中心とする「知識教科」じゃなくて,家庭科や体育のように「使える」を重視するやり方に変えていく,ということ?

 

津久井:

そういうこと。

指標・目標としてCAN-DOを作っている以上,英語学習のゴールは,「出来るようになること」。出来るようになるためには,やってみないと出来るようにならない。技能だから,その技を試す場面を,もっともっと作っていかなくちゃいけない。

そう考えると,ひとつひとつの語彙・文法の扱い方や,言語活動の面でも,自然と変化が生まれるかもしれないね。

 

工藤:

技能領域は,互いの専門でもあるから,具体的な実践についても今後話していければいいね。

 

※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,

 工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。

 

編集部

先生方,ありがとうございました!

English Coffee Breakでは,英語教育をとりまくさまざまなキーワードを取り上げて,

工藤先生・津久井先生に,普段はあまり言えない,ときに厳しい本音でざっくばらんにお話いただきたいと思います。次回の配信もお楽しみに!

(掲載:2017年9月7日)

プロフィール

工藤洋路    くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員

・1976年生まれ

・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)

・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授

・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部

・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース

プロフィール

津久井貴之    つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校

・1974年生まれ

・群馬大学教育学部・同大学院修了

・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭

・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく

・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー

『NEW CROWN』の詳細はこちら

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