
鷲尾 孝文 (武庫川女子大学附属高等学校)
2025年11月13日
『CROWN English Communication II』を使用して英語コミュニケーションⅡの授業を展開する中で、いわゆる句動詞(phrasal verb)を見かけることがある。例えばLesson 1のChapter 2で ‘But years later, as I sat on the wooden veranda of a temple, looking out at the garden, I thought I finally had a sense of wabi-sabi.’ という文が出てくる。この中で、 ‘look out at ~’という表現がページ下で取り上げられて説明されている。一見すると、 ‘look out at ~’という表現が1つの完成品であるかのような印象を与える。実際そのような捉え方もできるが、私が授業でこのような表現を扱う際は、必ず生徒に「省エネ」を呼びかける。「省エネ」とはつまり、「丸暗記をするな」という意味である。「lookは見る動作、outは内から外へ視線が向いていて、atは点のイメージだから、視界の中のある1点を見ている」というような説明をする。ここで登場している ‘out’や ‘at’ のイメージを持っていれば、 ‘look out at ~’という完成品としての句動詞を知らなくても意味の推察はできるし、自分が実際にアウトプットする際も、自分で表現を作ることができるという可能性につながってくる。一方で丸暗記のサイクルだと、アウトプットの際もその表現を知っているか知らないかでアウトプットできるかどうかは決まってしまう。丸暗記では、せっかく学習した表現を使う際に、英語学習者にとっては非常にハードルが高くなってしまうと私は思うのだ。
同じLesson 1を読み進めていくと、Chapter 4で ‘You breathe in the fresh air; you are looking up at the trees; (以下省略)’という文が出てくる。ここでは ‘look up’が ‘raise one’s eyes’の意味であると教科書では説明されているが、これは上記の ‘look out at ~’と同様に、 ‘lookから始まって、upは上の方を見ていて、その後に続いているatは視界の中の点のイメージ」と説明すれば、 同じ話だが ‘look up’を完成品として丸暗記する必要はないし、 その後に続く‘at’についての疑問も晴れる。
このような説明をいつでも必ず成立させられるわけではないが、少なくとも狙いとしては生徒に ‘out’ ‘up’ ‘at’のような語が持つイメージについて敏感に反応する感覚を持ってもらいたいということがある。私自身、句動詞(のようなもの)が本文に出てくるたびに、そういう感覚を持ってほしいと生徒に伝えている。これは語学学習に対しての姿勢・アプローチの話であり、動詞とセットで使われている前置詞や副詞に対して注意を払う習慣を持つのと、そのような語のニュアンスは気にせずにただただ完成品を丸暗記していくという習慣を持つのとでは、英語学習への姿勢・アプローチが全く異なる。私はもちろん前者の姿勢を取るべきだと考えている。
もう一つだけ事例を挙げると、Lesson 2のChapter 2で、 ‘Their house had a leaky roof patched up with pieces of plastic.’という文が出てくる。ここでは ‘patch ~ up’が ‘repair’の意味を持つと説明されている。生徒はこの文が持つ意味については大体理解できる。ただ、ここでも‘patch ~ up’を丸暗記しなければならないのかという問題が出てくるので、授業では生徒に ‘up’に注目してもらう。
「 ‘up’の意味を辞書で調べたことはありますか」
と生徒に尋ねると、誰も手を挙げない。
「なぜ調べたことがないのですか」
とさらに意地悪な質問をすると、生徒は極まり悪そうな表情を浮かべる。
そこで私はiPadでアプリを立ち上げ、プロジェクターに『ウィズダム英和・和英辞典』を投影し、 実際に生徒の前で‘up’を調べる。
最初の項目には「上方へ、高いところへ」という、生徒が最もよく知っている意味が表示される。しかしそのまま次々と項目を調べていくと、10番目に「すっかり、全部、完全に」という意味が表示され、 ‘use up’, ‘dry up’, ‘cover up’, ‘finish up’というような用例が紹介されている。
この項目をスクリーンで生徒に示しながら、もう一度本文に出てきた ‘patch ~ up’について考えさせる。 ‘patch’には「に継ぎを当てる」という意味があり、 ‘patch the roof’とも言えるが、ニュアンスが変わる。ニュアンスが変わるが、 ‘patch the roof’は別に英語としてなんら問題はない。小さなことではあるが、この事実について生徒に気づかせることはとても重要であると私は考えている。絶対に‘patch up the roof’と言わなければならないわけではないのである。‘up’について『ウィズダム英和・和英辞典』の用例で紹介されている表現は、いずれも生徒が普段の英語学習の中で目にしたり、自分で使ったりしている動詞をもとに構成されている。これは非常に重要なポイントである。「みんなが普段使っている動詞と一緒にこの ‘up’は使うことができるんだよ」と伝えると、生徒は驚いたような表情で頷いたりする。「『掃除する』ってcleanで言えるけど、じゃあ『完璧に掃除する』はどうやって言えるかな?」みたいに問いかけると、生徒から「clean up」と返答がある。これが、「丸暗記する必要はない」と言う話の核の部分である。
『句動詞の底力―「空間発想」でわかる広がる英語の世界』の著者であるクリストファ・バーナード氏によると、「日本語は世の中の出来事を動詞中心的な見方でとらえ、英語ではその同じ出来事を空間を中心にとらえている」そうだ。「木を切った」という日本語は自然に使われている表現だが、 ‘I cut the tree.’と言うと、ネイティブの人は「ん?」となるそうだ。なので、 ‘I cut down the tree.’「私は木を切り倒した」や、 ‘I cut up the tree.’ 「私は木を細かく切断した」というように、「木にどのような変化が起こったのか」を特定する必要がある。ちなみに ‘cut up’の ‘up’は、『ウィズダム英和・和英辞典』では上記の「すっかり、全部、完全に」の次の項目で「ばらばらに、分けて、離れて」と説明されており、 ‘cut up’, ‘tear up’, ‘split up’ のような用例が紹介されている。
英語学習を進めていると、句動詞(のようなもの)に出会う機会はとても多い。多いが故に、そのすべてを「丸暗記せよ」というのはやはり無理がある。そこを打開するための方法として、これまで「知っている」「分かっている」という印象がある ‘up’のような語について、辞書であらためて調べて理解を深めることは、英語学習者が句動詞をマスターしていく上で必ず一助になると考える。このような句動詞へのアプローチを進める上で、教科書『CROWN English Communication II』は‘look out at ~’やlook up at ~’のように相互に関連する表現を一つのレッスンのなかで取り上げており、授業ではとてもスムーズな流れで句動詞についての理解を深めることができる。同時に、『ウィズダム英和・和英辞典』は ‘up’のような語についても生徒のレベルに合ったシンプルで適切な説明と用例を与えてくれるため、生徒も無理なく自分の表現の幅を広げることができる。生徒は若いので丸暗記も可能かもしれないのだが、人はやがて老いるので(と生徒にも常日頃話している)、できるだけ「省エネ」しながら英語学習を進めてもらいたいと考えている。
参考文献
・『CROWN English Communication II』三省堂
・井上永幸・赤野一郎 編,小西友七 編修主幹『ウィズダム英和・和英辞典 第二版』三省堂,2006−2008年
・クリストファ・バーナード『句動詞の底力―「空間発想」でわかる広がる英語の世界』プレイス,2013年
鷲尾 孝文 わしお・たかふみ (武庫川女子大学附属中学校・高等学校)
1977年生まれ。京都外国語大学外国語学部英米語学科卒業。関西学院大学大学院言語コミュニケーション文化研究科修士課程修了(言語文化学)。2005年より武庫川女子大学附属中学校・高等学校に勤務。英語科。剣道部顧問。最近はフランス語教育にも強い関心を持っている。

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