那須 敬弘 (坂出第一高等学校)
2025年01月22日
生成AIの利活用に向けて
私が生成AIを本格的に校務で活用し始めたのは、わずか約1年半前からです。使えば使うほど、その便利さと可能性に魅了されています。生成AIは、膨大な知識を持つ相棒のように、こちらの指示に対して冷静かつ迅速に応えてくれます。ただし、決して万能ではありませんので、生成された内容を私たちが確かめて息吹を吹き込まなければなりません。具体的な活用例として、『AIと高め合う英語教育』(和泉敏之、那須敬弘 著)(https://amzn.asia/d/f0odCgF)で、英語教育におけるOpenAI社のChatGPTの可能性を紹介しています。本稿と合わせて是非ご一読ください。
生成AIの活用にあたり、18歳未満の生徒が使用する際には、保護者の同意が必要な場合があります。本校では、今年度からすべての生徒を対象として、保護者からの同意を得ることにしています。国によるガイドラインなどの適切な利用方法に基づいた活用方針を策定し、それらを『「総合的な探究の時間」等におけるAIツール使用に関するお願い』という文書としてまとめ、保護者に説明を行いました。今年度は疑問や不同意はなく、生成AIの有用性と慎重な活用方針に対して、保護者からの理解が得られたと考えています。保護者の同意のもと、「総合的な探究の時間」や「情報」などの授業で生成AIを積極的に活用しています。
教員がその有用性を実感せねば、生徒の活用は促進できません。教員が生成AIを広く活用するため、全校的な取り組みとして、プロンプト(注:生成AIに投げかける指示や質問のこと)の共有・作成支援システムを導入しました。このシステムにより、作成したプロンプトの共有やプロンプトのテンプレートが簡単に利用できる体制を整備しています。他方で、近くの席の教員や英語科の教員に便利な使い方を日常の場面で個別に共有するなど、草の根運動的なアプローチも日々実践しています。生成AIの利便性と可能性を学校全体で共有することで、さらなる活用の加速を目指しています。
生成AIの利活用事例
ここからは、私が最近の授業で実施した事例のひとつを紹介します。パフォーマンス課題を通じた学習は重要ですが、生徒の成果物をどう評価するかは常に悩みの種でした。ALTがいる場合は、添削や評価を依頼できるものの、人手に頼る限り限界があります。 生成AIを利用できる今、この課題にも解決の糸口が見えてきました。
教科書のレッスンに取り上げられた写真家の生き方についての感想と、自分のこれからの生き方についての考えを150〜200字の英語で表現させました。クラス全員分の英文が提出されると、人手での評価は大変な作業です。
生徒の提出物の例
そこで私は、生徒にChatGPTを開かせ、成果物をコピー&ペーストし、次のプロンプトを入力するように指示しました。「Please correct grammatical or wording errors in the passage below and make a list of them. Please point out all errors, even if they are minor.」
これにより、瞬時に添削結果が表示されます。その結果を参考にしながら、生徒には自分の文章を見直すよう促します。また、“チャットへの公開リンクの共有”機能を活用することで、添削内容を生徒と簡単に共有することができます。
リストの項目以外にも添削されている箇所がありますので、注意深く原文と比較させます。このことにより、自分が表現した英語とより能動的に向き合うことにつながり、添削箇所についてのより良い学習につながります。
さらに、ChatGPTの添削に加えて、DeepL社のDeepL Writeを活用し、より深い学びへと導くことも有効です。生成AIによる異なる視点からのフィードバックを受けることで、生徒は自分の表現により深く向き合うことになります。 授業が終われば、ChatGPTの“チャットへの公開リンクの共有”機能を使って共有した内容から、教員が生成AIに「判定」を指示します。この判定を参考にしながら、生徒にフィードバックを行います。生成AIによる判定を参考にすることで、教員の業務負担を軽減し、フィードバックを迅速に行うことができます。この迅速なフィードバックにより、生徒は自分の取り組みを記憶が新しいうちに振り返り、改善に取り組むことができます。ただし、このAIによる判定を成績評価に直接的に利用することはありません。あくまで生徒の学びをサポートするためのものとして取り扱うこととしています。
これらのフィードバックと改善のスパイラルにより、文法・語法の誤りが大幅に改善されているため、教員は内容に集中して評価を行うことができます。AIを取り入れることで、生徒の主体的な学びを喚起するために重要な、「フィードバックの迅速化」「改善点に向き合う学習の促進」「メタ認知を活用した成果発表の実現」といった要素について実現することができました。
まとめに
「十年一昔」とよく言われますが、ICTを取り巻く環境はこの10年でさらに大きく変化しました。時代が進化する中で、私たちは「不易流行」、すなわち変化を受け入れる勇気と、変わらない価値を守る勇気のバランスを取ることが求められています。これからの若者たちが、現代から未来に向けて「生きる力」を身につけられるよう、教育のあり方を探究し続ける日々がこれからも続きます。
那須 敬弘 なす・たかひろ (坂出第一高等学校)
1973年生まれ。1999年より学校法人花岡学園坂出第一高等学校に勤務。現在は教
育改革推進部長として、「ICT教育」、「総合探究」、「哲学対話」などにおい
て先進的な教育プログラムを推進している。また、Google認定教育者レベル1&
レベル2、Apple Teacherの資格を取得し、デジタル技術を活用した教育実践にも取り組む。
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