ICT 実践事例紹介

ICT 実践事例紹介

効率よく古文をマスターする!
—Pagesのニュースレターを使って、「木曽の最期」を新聞記事にする。

  1. 印刷する

高等学校国語

  1. その他

中藪 久実子 (関西大学高等部)

2023年08月01日

1.はじめに

 効率よく古文の読解力をつけるためには、興味を持って積極的に取り組む主体的な学習が必須である。「言語文化」の科目では、現代の文学のみならず古典を読むことに楽しんで取り組み、クリティカルに考える力を育てたい。限られた時間数で成果を上げるために、ICTの活用が力を発揮する。実際に成果を上げてきた授業を例に、活用のポイントと準備について述べる。

 

 本校は2010年に開校した、関西大学の系列校である。初等部・中等部・高等部・大学とあり、内部生徒に外部生徒が加わって構成されている。初等部・中等部の頃よりICT機器に日々慣れ親しんでいる生徒と入学後にはじめてiPadに触れる生徒が混在している。

 

2.ICT活用の利点

 ICT活用は、授業で新たなアプリや思考ツールを使わなければならないということではなく、本来身につけさせたい学力育成のための助っ人であると認識したい。

 

 ICTは次の作業を簡便にできるツールとして得がたいものである。

①すぐ調べることができる。

②手軽に資料が共有できる。

③作業が共有できる。

④プレゼンテーションのスライドを簡便に準備できる。

 

 したがって、①多くの資料を調査し取捨選択、整理する力、②文献をじっくり読解し、考える力、③協力して作業する力、④わかりやすくまとめ発表する表現力、などの育成が期待される。

 

3. 授業の基本パターン

 授業に取り入れるときの基本パターンがあると、様々に応用できる。ICTを使いたいと思ったとき、気軽に活用し授業を実施する。繰り返されることによって、生徒も気軽に使い、スキルも飛躍的に向上する。学級の生徒全員が参加し、主体的に課題に取り組み、学習後発表し、全体にシェアする形が望ましい。そのため、グループ学習、発表(プレゼンテーション)する形をとることが多い。基本は、個人思考→グループワーク→全体でのシェア→個人リフレクションである(内化→外化→内化)。今回のような古典作品を題材に発表する形式では、ジグソー法で部分を分担し全体を完成させる形式や、同一作品同一箇所を数グループで扱い、比較検討させたりする形式をよく使っている。また、生徒が興味を持ち積極的に楽しんで学習するためには、どのような課題を設定するかが重きをなす。その時その時の生徒の状態をよく見、内容、方法とも創意工夫したい。

 

4.作業前の準備

 主体的に活動をさせるためには、下準備となる知識技能の習得習熟が欠かせない。語彙語法などの基礎知識の習得、発表手法の習熟には日常的に取り組ませるとともに、資料のICTによる共有なども平常から実施しておきたい。

 

 生徒とのラポール形成は重要である。クラス内の良好な雰囲気作りも欠かせない。仲間と共同作業をして、皆で伸びていきたいという意欲を持てるかは、結果に大きな差をもたらす。また、時と場合によっては適宜競争意識をあおることも必要である。

 

5.授業例(『精選言語文化』(三省堂)使用)

⑴ 単元 五 軍記 『平家物語』木曾の最期

⑵ 対象 高等部1年(12月定期考査後、冬期休暇前実施)

⑶ 方法(4時間を配当)

1時間目

・以下を指示し、5〜7名の班をつくり作業分担する。班分けは毎回籤により組み直し、多くのメンバーと協力する機会を与える。

・資料として、大系、全集、集成などの該当箇所はICTを用い、共有させる。

・指示は出来るだけ明快に具体的にするよう配慮する。

 

【課題】Pagesのニュースレターを使って、『平家物語』「木曽の最期」を新聞記事にする。

◇4時間の内訳について

1時間目 説明、班分け、作業開始。2・3時間目 作業

4時間目 作ったニュースレターを投影、説明発表。(全員発表。各班7分以内)

◇各班の担当・配分について

教科書P98-P104を分担して学習し、新聞記事形式にまとめる。

他班が理解出来るようにわかりやすく発表する。

1班 最期の戦いに至るまでの経過(5人)

2班 義仲、最後の戦い(6人)

3班 巴との別れ(5〜6人)

4班 兼平、義仲に自害を促す(7人)

5班 兼平の奮戦(6人)

6班 義仲、兼平の死(7人)

◇班内の分担について

各記事の字数は600字以上、写真図版をつけること。つけない場合は、800字以上の記事にまとめる。

① メイン記事 内容紹介(全員で担当しても可)
② 人物に焦点を当てて調べる。(エッセイにしつらえるのも可)
③ 衣装風俗などを解説。(ひと口知識的に)
④ 文法解説コラム。(6人班は④⑤をまとめても可)(5人班はなくても可)
⑤ 単語解説コラム。(6人班は④⑤をまとめても可)(5人班はなくても可)
⑥ 時代背景。
⑦ 考察(社説、編集手帳、天声人語、産経抄など参考に、なぜ?を追求してください)

 

〈留意事項〉

・作ったニュースレターはクラス別に班名を明記して、発表までにドライブに提出しておくこと。

・誰が読んでも理解できるように、5W1Hに注意し、正しい日本語で書くこと。

・発表時はリフレクションシートを使用し、相互採点。

 

2・3時間目

・各班作業。作業効率が上がるように、ICTを活用、共有して作業させる。

・調査の便宜のため、ライブラリーなどでの授業は有効である。

・全員発表の段取りをつけさせる。

・ファシリテーターとして教員の役割は大きい。随時様子を確認し、適切に助言を行う必要がある。ただし、あくまでも生徒たちが自分自身の手で作り上げているという自覚が大切であり、教員の指示に従って訳も分からず作業しているとの認識を持たせてしまうことは厳禁である。

 

□発表風景(動画)

 

□作成した新聞(D組1クラス分、各クラス6班で全文を学習)

生徒資料_1班

生徒資料_2班-1

生徒資料_2班-2

生徒資料_2班-3

生徒資料_3班

生徒資料_4班

生徒資料_5班

生徒資料_6班

 

 

4時間目

・作成したニュースレターを投影し、説明のプレゼンテーションをさせる。リフレクションシートにより相互評価。

・作成したニュースレターは、全員自由に閲覧できるようにしておく。

 

【リフレクションシートの目的・利用・効果】

 リフレクションシートの目的は、集中した発表会にする、自己を振り返らせる、他者を認める、の3点である。1点目は他班の発表を評価させることにより、他班の発表を集中して見聞きさせることができる。2点目は自己を振り返って、学んだことを確認、反省し、次回へつなげることができる。3点目は他者の良いところを褒め、助言を伝えることで、他者を認める気持ちを養うことができる。同時に、他者への表現も考えさせ、工夫させたい。

 

 各班の発表は、各々が点数で相互評価する。評価の観点は、毎回明確に指示する必要がある。今回の観点は、①スライドのできばえ、②内容探究の深さ、③発見があったか、④説明がわかりやすかったか、の4点である。各5点で採点、合計20点で総合評価。生徒の評価は集計し、平均点を算出。後日発表し、皆で顕彰し合う。最高得点班のメンバーには手製のしおりやカードで頑張ったことを称える。次回はもっと良いものを作り、上手に発表したいと思う活力につながり、励みになる。

 

□リフレクションシート例(今回使用したもの)

 

授業後にはプリントアウトし、保護者懇談時に貼り出して、好評を博した。

 

□貼り出し例(B・C・D組分)

 

 

6. ICT活用型授業の効果について

 生徒によるアクティブラーニング型授業の是非について現場では懐疑的な声も聞く。ましてや、ICT活用型授業の効果を疑問視する声も多々届く。

 

 しかし、生徒が主体的に楽しんでする学習は、生徒の学力となって根付いていく実例を目の当たりにしてきた。

 

 かつて、ほぼ同じ学力程度の2クラスの授業を、一方は旧来の一斉授業、一方は主体的な学習活動で同時に実施したことがある。『源氏物語』「夕顔」を教材にした。同じ試験を両クラスに実施して、あからさまに点差がでて驚いた。平均点が、一斉授業型67.6点、主体的学習型82.8点と15点ほど差がついてしまったのだ。過去の事例を考えても、67.6点は良く出来た点数である。主体的学習型がよく出来すぎた点数をたたき出したのだ。

 

 自分たちで学習、まとめて発表を繰り返して成長した生徒たちは、大学入試でも驚異的な実力を発揮した。難関国公立・医学部医学科などの大学に次々と合格し、顕著な成果が上がっている。そのような、主体的・対話的・深い学びの実現のために、ICTが力強い助っ人となって活躍している。

 

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プロフィール

中藪 久実子    なかやぶ・くみこ (関西大学高等部)

筑波大学卒。公私立高校5校を経て現職。大学入試問題集の編集委員を長年勤め、大学の求める学力の養成を試行、進学実績をあげてきた。教科書の編集協力員である。五感を駆使した授業に30年以上前から取り組む。新しい学力観に基づき、実際に使える国語力を目指した主体的で対話的な授業は、日常的にICTを駆使し斬新である。

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