堀江 恒祐 (東京都日野市立日野第六小学校)
2023年02月06日
ICTの活用の在り方は「教師の『指導用ツール』」「児童生徒の『学習用ツール』」の2つに大きく分かれるかと思います。今回は「教師の『指導用ツール』」としてICTを活用した実践例を一つ紹介いたします。「ちょこっと」のICT活用と教師の「ちょこっと」した発想の掛け算で学習効果が高まる指導の在り方…つまり、「児童も教師もHAPPY!」になれるICT活用例として、プレゼンテーションソフトを用いた指導について少しお話しさせていただきます。
2.ICTの再生環境について
本題に入る前に、ICTの再生環境についてご説明します。私はホワイトボードとプロジェクターを用いて指導をしています。ホワイトボードの左側をパソコン画面の投影用、右側を板書用、という形で二分割にしております。
3.プレゼンテーションソフトを「ちょこっと」活用した実践例
それでは本題に入ります。私がプレゼンテーションソフトを用いた指導で重きを置いているのは以下の4点です。
①言語材料
新出表現や児童にとって理解可能であると考えられる+αの表現に加え、スパイラル的に復習ができるよう、既習表現を精選し、プレゼンテーションに組み込みます。
②プレゼンテーションのストーリー
児童が没頭できるようなストーリーを、ユーモアを交えながら提示することを意識しています。こうすることで、児童からの反応や発話を自然に引き出し、後述する④に自然につなげていきます。写真はなるべく教師自身のものを用いることで、臨場感を豊かにします。
③提示方法
写真や文字の提示の仕方、タイミングなど、どのように工夫したら学習活動のねらいが高い学習効果をもって達成されるのかを計算しています。アニメーション機能は最低限のものに絞って活用し、できる限りシンプルにします。
④プレゼンテーションを基にした児童とのインタラクション
教師と児童とのインタラクションや児童同士でのインタラクションを、提示したプレゼンテーションを基に活性化することで、自然な流れでアウトプットさせることを大切にしています。
それでは、以下、第6学年において自己紹介系統の単元を導入する際に「教師が自身の自己紹介をテーマにしたプレゼンテーションを提示する」という学習場面を例として、上述した4点がどのように組み込まれているのか、お示しいたします。なお、このプレゼンテーションではほぼ既習事項のみ扱っております。
“Hi, everyone!”などと児童に挨拶を投げかけた後、いきなり写真を提示します。そうすると、児童はこの異様な光景を目の当たりにし阿鼻叫喚…とまではいきませんが、「え、誰?」とざわつき始めます。ここですかさず“Who is he?”と写真の男性を指示棒で示しながら児童に問いかけます。
児童から「〇〇先生?」「お笑い芸人の〇〇でしょ?」などと反応が出てくる中、「Mr.Horieだ!」という児童の声を拾い、“That’s right!” “This is me!” と伝え、“My name is Horie Kosuke.”と言いながら文を表示します。そこでさらに、児童に“What‘s your name?”と投げかけます。
児童が“My name is ….”と各々名前を言ったところで、“I’m a great teacher.”と発話しながら文を提示します。すると、“No!“などの反応が起きるので“Why?”と応じます。児童は“Not great!”などと自分なりの表現で返してくれるので、“Which word is great?”と表示したセンテンスの“I’m” “a” “great” “teacher”をそれぞれ指示棒で指しながら聞いていきます。すると、児童は教師が“great”を指したところで“Yes!”と発話したり挙手したりなどの反応を示してくれるので、“That’s right. You can read the word!”などと、既習事項の表現を用いて児童を称賛します。
そして、新たな文“I’m good at swimming.”を提示し、児童に“Can you read aloud?”と質問します。児童が“I’m good at swimming.”と発話した後、教師から“I’m good at swimming.”と正しい発音を聞かせてあげます。教師の発音を先に聞かせることも大切なのですが、児童に先に発話(アウトプット)させ、後から正しい発音を師範(インプットする)ことも学習効果を高める上で重要な指導技術です。教師が正しい発音を示した後は、“Look at this picture!”と投げかけ、以下の一連のスライドを提示します。
スライドをここまで提示したところで、「全然泳いでいないじゃん!」「得意ではなさそうだよね。」といった児童の愛があるツッコミが入ります。“You said 「得意ではなさそう」. Why?”と児童に投げかけ、“I’m good at ….”が「得意」を表す既習表現だということを引き出します。
ここで、次の文、“I like swimming very much.”を肩をすくめながら発話し、笑いを誘った後、“How about you? Do you like swimming?”と切り返し、児童に尋ねます。このように教師が児童とインタラクションを行う場合は、全員に一斉に答えさせてもよいですし、個別に、あるいは特定の列の児童全員に発話させるなど、そのやり方は目的に応じて様々です。
ここで話を次のトピックに移すので、“By the way, I like manga.”と発話しながら上のスライドを表示します。そして児童に“Do you like manga?”と投げかけて答えさせた後、“What manga do you like?”とさらに尋ねます。すると、児童は“I like …, …, and ….” “I like …, …, and so on.”などと、各々の表現方法で答えてくれます。そして“Let’s ask your partner this question!”などと投げかけ、ペアワークでのフリーカンバセーションを展開していきます。
フリーカンバセーションが終了した後、“What manga do you like the best?”と教師が発話しながら文を提示します。上のように、“the best”の部分のみを赤色に変化させることによって、フリーカンバセーションで扱った表現“What manga do you like?”との差異を意識させます。このような指導技術はICTを活用するからこそできる手法であり、手間もかからず効果的です。
そして、“Nice to meet you!”と締めの挨拶とともにスライドを提示し、最後に児童が一番印象に残ったであろう場面の写真を画面いっぱいに投影させ、笑いを誘って終わります。
余談ですが、これらの写真をこのような場…、インターネットに掲載する決断を下すのは、中々勇気がいりました。ここだけの話です。
以上、プレゼンテーションソフトを用いた実践例を一つ紹介させていただきました。あくまでも私が受け持つ児童の成長を通した実感ではありますが、このような指導を積み重ねていくことで、4技能5領域の資質・能力をバランスよく育成するための素地づくりができるかと思っております。
4.おわりに
「ICTの活用」というのは、あくまでも児童生徒に英語の力を身に付けさせるための数ある手段の一つに過ぎません。「ちょこっと」したICTの活用であってもそこに教師の発想を掛け合わせることでその効果を無限大に高めることができますし、その逆もまた然りです。「児童の成長」という目的に向かって、「手段」としての「ICT」を自由な発想で活用していきたいものです。
堀江 恒祐 ほりえ・こうすけ (東京都日野市立日野第六小学校指導教諭)
東京都日野市立日野第六小学校指導教諭。平成22年度より、学級担任を7年間経験した後、現在英語専科6年目。過年度に、ELEC理事長賞、文部科学大臣優秀教職員表彰「社会に開かれた教育実践奨励賞」を受賞。「指導の妥当性は児童の成長によって語られるべき」という信念をもち、臨床的な視点とユーモアを第一に日々授業改善を行っている。
先生向け会員サイト「三省堂プラス」の
リニューアルのお知らせと会員再登録のお願い
平素より「三省堂 教科書・教材サイト」をご利用いただき、誠にありがとうございます。
サービス向上のため、2018年10月24日にサイトリニューアルいたしました。
教科書サポートのほか、各種機関誌(教育情報)の最新号から過去の号のものを掲載いたしました。
ぜひご利用ください。