三省堂のWebコラム

大島希巳江の英語コラム

No.6 多種多様かつ共通点が多いアジアの英語

大島希巳江
神奈川大学外国語学部国際文化交流学科教授,「NEW CROWN」編集委員

2017年08月03日

アジア英語の文法

英語圏から言語的,文化的,さらに地理的にもかなり離れたアジア圏では,ヨーロッパよりも独特な英語があります。近年中国や韓国では英語教育にかなり力を入れており,特に若い人たちの英語力が高まっていますが,そんな彼らの英語にも発音や文法の特徴が見られます。私はアジアの概念を上手に表現している英語に出会うと楽しくなります。日本人の英語に似通ったものも含めていくつか紹介します。

 

① 所有格の略

my friend nose (my friend’s nose)

she nickname (her nickname)

 

これは,韓国語やミャンマーの英語で見られるものです。韓国語では所有格助詞が省略されることが多いことから,このような英語になると考えられています。

 

 

② 複数形の略

three student (three students) 

two week (two weeks)

 

日本語や韓国語では複数形の概念が希薄なので,名詞を複数形にしない傾向があります。また,多くの英語圏の学校では,学年の呼び方がfirst grade, second grade, third grade, fourth grade…となりますが,多くのアジア圏では,例えば「3年生」はthree year studentとなることが多いようです。そのため,学年の呼び方を簡易化することが多く,日本国内のインターナショナルスクールでも混乱を招かないようにするためか,grade 1, grade 2, grade 3, grade 4…としているところが多いようです。

 

 

③ be動詞の略

my nose long (my nose is long)

 

シンガポール英語や台湾英語,ハワイのピジン英語などのアジア英語にみられる特徴です。加えて,アフリカン英語にもbe動詞を使用しない傾向があり,よく知られている表現としては, She so nice.やYou the boss.などの表現があります。

 

 

④ Yes / Noの使い方

A: Oh, you are Korean. So you don’t speak Chinese, do you?

  (中国語は話さないのですね?)

B: Yes, I don’t speak Chinese.

  (はい,中国語は話しません)

 

日本でもよく見られる「間違い」とされる英語の使用例です。インド,中国,韓国,ミャンマーでも全く同じような使い方がされます。英語圏ではyesとnoが反対でわかりにくい,という点はアジア人同士で通じ合うようです。

 

 

⑤ 付加疑問文の使用

A: You won’t come today, no?

  (今日は来ないんでしょう?)

B: No, I will come today!

  (いやいや,今日行くよ!)

 

これはインド英語の例ですが,先ほどのyesとnoの使い方と同様に非常にアジア的です。アジアの英語では全体として「~だよね?」「~でしょう?」と相手の意思を確認したり,表現を和らげたりする機能があるため,付加疑問文を多用するという特徴があります。マレーシアやシンガポールでは本文の内容にかかわらず,語尾に~isn’t it? ~is it? ~right?を付けることが多いようです。

 

You are a student, is it?(学生さんですよね?)

 

日本人の英語では,語尾に ~OK?もしくは~right?をつけることが多いと観察されています。

 

So we meet at five, OK?(もしくは So we meet at five, right?)

(では,5時に会うということでいいですよね?)

 

 

 

⑥ その他

 (a) 社会言語的な特徴

Our house is rich. (My family is rich.)

 

英語ではhome, family, houseと単語そのものにはっきりとした違いがありますが,例えば日本語で「うち」というと,家族のことを指していることもありますし,物理的な家を指すこともあります。「うち」「家族」「家」の違いがあまりはっきりしていない言語を母語としていると,このような表現が使われることがあります。

 

 

(b) 文化的な特徴

I have two elder brothers and one younger sister.

(I have two brothers and a sister.)

 

これは年齢の序列を明確にしたい文化的な背景が英語にあらわれる例です。韓国語や日本語では,兄(年上),弟(年下),姉(年上),妹(年下)と,年齢の概念なしに兄弟姉妹関係を表現できません。

 

 

(c) 直訳的な英語

台湾では,お店に入ると店員さんが “Welcome!”と声をかけて歓迎してくれることがあります。日本語でいうところの,「いらっしゃいませ」でしょうか。英語圏では知り合いに使う表現なので,最初は驚かれるようですが,親しみを込めた言い方と受け止められるようです店を出るときはCome back again!の意味で“Welcome again!”と言うそうです。

 

 

今回は主に文法の特徴を取り上げましたが,もちろんこの他にもたくさんの特徴がそれぞれの英語にはあります。日本人の英語との共通点も多く,儒教の影響をうけた概念も似ているから,英語であっても言い回しなどが似てくるのかもしれません。アジアの英語を知るのはとても面白いです。特徴が似ていると親近感がわきます。英語で話さなければならない状況においても,相手がアジア人だとなぜかわかりやすくてホッとする,という人も多いようです。

(掲載:2017年8月3日)

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大島希巳江 著
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プロフィール

大島希巳江    おおしま・きみえ
神奈川大学外国語学部国際文化交流学科教授,「NEW CROWN」編集委員

教育学(社会言語学)博士。専門分野は社会言語学、異文化コミュニケーション、ユーモア学。

1996年から英語落語のプロデュースを手がけ、自身も古典、新作落語を演じる。毎年海外公演ツアーを企画、世界20カ国近くで公演を行っている。

著書に、『やってみよう!教室で英語落語』(三省堂)、『日本の笑いと世界のユーモア』(世界思想社)、『英語落語で世界を笑わす!』(共著・立川志の輔)、『英語の笑えるジョーク百連発』(共に研究社)他多数。

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