青柳 美扇 書道家・アーティスト
2025年08月06日
「文字には心が宿る」。これは私が大切にしている信念です。日々の生活で何気なく使う言葉も、その一つ一つが相手に響き、人と人とをつなぐ力をもっています。書道も同じです。筆で書かれた文字は、単なる伝達手段ではなく、書き手の思いや感情がにじみ出るものです。書くという行為は、まさに言葉で心を表現する方法なのです。
私は4歳から書を学びはじめ、30年以上にわたり書と向き合ってきました。その中で気づいたのは、「書く」ことが一つのコミュニケーションであるということです。自分の思いを筆に託し、一画一画に心を込めて書く。それは、言葉では伝えきれない感情を相手に届けることができます。例えば、日常で「ありがとう」と口にするのもすてきですが、その言葉を手書きで綴ると、さらに温かみが加わりますね。想いを込めて丁寧に書かれた言葉には、自然と書き手の真心が映し出されるのです。
私は、19歳の頃、大学で書道パフォーマンスを始めました。当時、「書道は地味だ」というイメージがあり、書道部員はたった2名しかいませんでした。それを変えたくて、新しい形で書の魅力を発信する方法を模索していました。そこで、書道パフォーマンスを思いついたのです。みんなで一丸となって大きな紙に力強く書き上げる瞬間には、一体感と達成感が生まれました。書と言葉を通じて、仲間との絆をより深めることができたのです。この経験から、言葉や文字が書き手どうしの心もつなげる大切な手段であることを改めて実感しました。
さらに、最近はVRやメタバースを活用した書の新たな表現にも挑戦しています。仮想空間で行う、立体的な文字表現やバーチャル美術館での展覧会では、国境や時間という物理的な制約を超えて、世界中の人々とつながることができ、書道の魅力を広く伝えられると同時に、言葉や文字のもつ普遍的な力を届けられるのです。
文字を書くということは、コミュニケーションの一つです。だからこそ、私は「書く」楽しさを伝えることを大切にしています。書写の授業を通じて、生徒の皆さんには、自分の言葉や気持ちを大切にし、丁寧に表現する力を身につけてもらいたいと思っています。書くことは自己表現であり、同時に相手への思いやりを育む行為でもあります。
皆さんも、心を込めて書いた言葉が誰かの心を温かくする瞬間を、ぜひ楽しんでください。私は、今もこれから先も、人の心を温かくする言葉を書いていきたいな。
(『ことばの学び』No.21 2025年4月発行より転載)
青柳 美扇 あおやぎ・びせん 書道家・アーティスト
大阪府の生まれ。世界10か国以上で書道パフォーマンスを披露。4 歳から祖母の影響で書を学び始める。梅花女子大学日本文化創造学科書道芸術専攻、日本語日本文学専攻修士課程修了。
主な作品として、世界遺産「高野山」作品奉納、手塚治虫原作『どろろ』、CAPCOM『モンスターハンターライズ』、などを手がける。2023年「毎日賞」受賞。
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