ヤマザキ マリ
漫画家
『精選現代文B[改訂版]』 新教材「地球上の『旅人』」原著者
2017年05月24日
今思えば国語は得意と言える科目だった。得意,というより他の科目に比べて授業姿勢が積極的だった,と言うべきか。幼少期から活字への思い入れが強かったし,作文や詩を書くのも大好きだった。既に絵を描くことは自分にとって欠かせない表現手段でもあったけど,やはり活字には活字でなければ為せない技があることにも気付いていて,実家には未だに小学校の低学年のころ私が作った紙芝居や,挿絵付きの創作文が収められた段ボールが残っている。
先日久々にその中味を物色していると,小学校一年生の時の国語のテスト用紙が現れた。そこには,当時教科書に載っていた『どろんこハリー』についての熱心な思いが,筆圧の安定しない文字で綴られていた。この物語は教科書で読むだけでは飽き足らず,後に母親から挿絵の入った本を買ってもらったのを覚えている。
中学校になると,当時放送部の顧問だった国語の教師から,一ヶ月に数回,彼の選んだ短編を昼食時の放送で朗読することを頼まれた。教科書の中の文章とはいえ,面白いものがあればそれを“教材“という枠から解放させたいという思いが溢れて,授業中の朗読はいつでも真剣だった。時には感情を込め過ぎて生徒達に笑われる事もあったが,教師はそんな私の心情を見抜いて校内放送の朗読を依頼したのだろう。教科書にも採用されていたO・ヘンリ『最後の一葉』は,自分でも読みながら泣きそうになったのを覚えている。
私にとっての国語のように,ひとつの教科に本質的な興味が芽生えると,それについての教科書や授業という制約はもどかしいものになる。でも,優れた教科書や授業というのは,まさに生徒達をそんな思いに駆らせる要素を持ったもののことをいうのだろう。
(「高校国語教育2017年夏号」2017/6発行より転載)
ヤマザキ マリ
やまざき・まり
漫画家
『精選現代文B[改訂版]』 新教材「地球上の『旅人』」原著者
漫画家。作品に『ルミとマヤとその周辺』『テルマエ・ロマエ』,エッセイに『世界の果てでも漫画描き』,『国境のない生き方:私をつくった本と旅』などがある。
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