三省堂のWebコラム

工藤洋路&津久井貴之のEnglish Coffee Break

第37回:「学校の先生=ブラック」問題①:先生になるか迷っているみなさんへ

工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学

2023年11月14日

工藤

前回、「教員の労働環境はブラックって言われている」という話になったけど、教員不足が問題になっている一方で、先生のよさってあんまり語られていない気がするんだよね。

 

津久井

自分も教員の経験があるから、決してブラックじゃないとは言わないけど、やっぱり一面的な情報が多いよね。民間企業は「弊社はブラックですが来てください!」とは、あたりまえだけど言わないじゃない。大学では、現職の先生に来てもらって先生のよさを伝えるセミナーを教育学部の3年生向けに開いたりするけど、早い学生は2年生のうちに就活を始めていたりするから、すでに手遅れなんだよね。

なぜ「学校の先生=ブラック」なのか

津久井

先生のよさって、商品を扱っているわけじゃなくて、生身の人間を相手にすることそのものに魅力があるよね。単に「売れた」「売れなかった」みたいな結果ではなくて、「あの先生がこう言ってくれたことがきっかけでこう変われた」っていう変化のきっかけになれることがある。もっと生徒に関わったり、指導したり、支援したりしたらこう変わるんじゃないか、って思えるようになる。そうやって時間をかけることは、ブラックな働き方と表裏一体なのかもしれないけどね。

 

工藤

そもそも教員免許を取ろうと思って大学に入る学生も少なくなっているね。給料の安さとか、部活指導の大変さとか、「教員」に対する世間のイメージも影響していると思うよ。

 

津久井

しかも今は「先生って魅力的な仕事ですよ」って語る先生は怪しい、っていう風潮もあるよね。世間には先生はブラックな職業だってばれているのに、そのブラックさを隠して先生はいいですよ、って言っているように感じられる。

 

工藤

企業と違って、学校はもともと自分が児童・生徒として生活していたところだからね。裏事情までは見えてないとしても、学校っていう空間で過ごしてきて、先生がどんなことをしていたかって大体みんなわかるから。

 

津久井

そうか、児童・生徒として先生の働き方を見てきているのか。「あの先生はすごくいい先生だったな。でも、ずーっと学校にいたな」とか、「土日も部活に来ていたな」とか。

 

工藤

中学生のころなら「あの先生みたいになりたい!」って思うかもしれないけど、職業を選ぶときには「あの働き方はできないな」って無意識に思っているよね。

教員の働き方の変化

津久井

「先生のよさとブラックな働き方は表裏一体」って言ったけど、労働時間が長いことをブラックと言うのであれば、教員自らがそれに加担している可能性もある。

 

工藤

そうだね。いま「1学級の人数を減らそう」っていう動きもあるけど、労働時間は結局変わらないんじゃないかなと思う。例えば1学級を仮に20人まで減らしたとしても「もっと個別に見てあげたい」「もっと生徒と関わりたい」って思えば、労働時間は短くならない可能性もある。先生たちってそういう発想になるよね。

 

津久井

なるだろうね。自分はそう考えるタイプだったな。

 

工藤

そうそう。だけどこの数年、「教員の働き方改革」が進んでずいぶん改善されているのも事実だよね。

 

津久井

そう! 時間になったら職員室を閉めて、勝手に残業できないようにしていたりとか。

 

工藤

部活も毎日必ずやるわけじゃなくて土日も休みにしていたり、部活の付き添いは外部の支援を活用したり。中高の教員になった大学の卒業生にインタビューをすると、「部活は土日のどちらかは休むことになっている」とか、「平日もこの曜日は早く帰ることになっている」とかいう声があって、徐々に改善されている感じがするよ。

 

津久井

改善されるべきことはまだたくさんあるけど、よくなってきてはいるよね。

 

工藤

あと、教師になってまだ数年の大学の卒業生50数名にアンケートをしたんだけど、その中に「英語の授業の悩みを誰に相談しているか」っていうのがあって。仮説としては、周りの先生たちがみんな忙しすぎて、なかなか相談できていないんじゃないかと思っていたんだけど、意外と同僚の先生に聞いて解決している、っていう回答が多かった。

 

津久井

そういうところも、今はよくなってきているね。若手を育てようっていう意識も先生がたの間にあるのかな。

 

工藤

以前は、隣の先生が何をやっているかもわからないし、忙しそうで聞けないって回答が多かったけど、いまはずいぶん風通しがよくなっていると感じたよ。

 

津久井

こういう変化は、教育実習に行ったくらいじゃ学生にはわからないから、伝えていかないといけないよね。

 

※この連載は、お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり、工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。

 

 

プロフィール

工藤洋路    くどう・ようじ
玉川大学、「NEW CROWN」編集委員

・1976年生まれ

・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)

・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授

・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部

・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース

プロフィール

津久井貴之    つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員

・1974年生まれ

・群馬大学教育学部・同大学院修了

・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師

・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく

・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー

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