三省堂のWebコラム

工藤洋路&津久井貴之のEnglish Coffee Break

第33回:時代に合わせて変化する辞書指導

工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学

2023年01月05日

津久井

学校で紙の辞書はもうほとんどみることがなくなって久しいけど、生徒が授業中に電子辞書をスクロールしてる姿も最近はあんまり見ないね。

 

工藤

辞書って昔に比べるとあんまりもう使われてないんじゃないかな。20年とか25年前は先生向けに辞書指導のやり方についてのワークショップが実施されてたりとか、辞書指導マニュアルのようなものが発行されたりとかして、辞書指導のニーズが高かったように思うけど。そういえば、生徒が辞書を使わなくなるにつれて辞書指導も少なくなったり、変わったりしてきた気がするね。その理由について考えてみようか。

先生たちが優しくなると辞書を使う機会が減る?

工藤

ちゃんと今の先生と昔の先生を比較したことがあるわけじゃないけど、自分が中学生だった頃を思い出すと、今の先生って昔の先生よりだいぶ優しいと思うんだよね。優しいってどういうことかっていうと、ちゃんとステップを踏ませて教えてるって感じ。例えば、リーディングの活動で読ませたい文章に難しい単語が入ってると、「事前にちゃんと単語導入しといてあげなきゃ!」って先生が準備するとか。

 

津久井

なんか耳が痛いな。たしかに、授業で読ませたい文章がちゃんと読めるように事前に準備してるような…。

 

工藤

そうすると、先生が先に手当てしてるから、生徒に対して自分で辞書を引きなさいってそもそも言わないよね。生徒が知らないであろう単語を事前にすべて先生がお膳立てして教えてあげてるわけだから。

 

津久井

うん。たしかに、そもそも新出単語含めてオーラルイントロダクションで導入して、生徒にあらかじめ理解させてからリーディングに取り組んでいる授業は、支援としてはとても良いと思うけど、自力で読ませるのはいつ?って感じになってるもんね。

 

工藤

そうそう。新出単語は絵とか写真とかを使って導入するんですよ、とか、例文を使って示すんですよ、とか、先生が新出単語を教えるための技術指導も盛んになってるよね。そう考えていくとやっぱり、先生が先に単語の意味を理解させちゃうから、生徒に辞書を使わせるっていう発想がそもそもなくなってるかも。

あと、先生が指導者用デジタル教科書を使ってたら、すぐ単語の意味が出て、わかるようになってるしね。先生が指導手順をしっかり考えて授業を作った結果として、生徒が辞書を引く機会がなくなったのかも?

先生も生徒も英語の授業中忙しすぎる?

津久井

あと、昔と比べると今は授業の中に入れなきゃいけない学習活動も増えてる感じがするよね。生徒に思い思いに辞書を引かせる時間が取れなくなってしまっているような気もする。

 

工藤

まあ昔はね、英語の授業といえば基本リーディングだけっていう先生も実情としては多かったもんね、そのほかの言語活動とかあんまりやってなくて。今より英語の授業で行うべき指導の範囲が狭かったから、余裕の時間が取れてたってのはあるよね。今は五領域とかいわれて、「読むこと」に加えて「書くこと」、「聞くこと」、「話すこと[やり取り]」、「話すこと[発表]」があって、リーディング以外の指導もしっかり行ってる先生が増えてるからね。

 

津久井

そうだね。もはや単語の学習が英語の授業時間外に出ていて、知らない単語を辞書を引きながら覚えていくんじゃなくて「単語の学習は単語帳で行うものだ」って感じで朝の時間とかでガンガン単語の小テストやってたりもするもんね。まあ、単語の学習は単語帳と小テストだけに依存するのは良いことだとは思わないけど。

 

工藤

授業でやりたいことが多すぎて、辞書使って知らない単語の意味を考えながらリーディングに取り組む時間をとる暇がなくなったのかも?

 

辞書指導をやらないといけないという強迫感が減った?

工藤

昔は、小学校の卒業記念品とかで父母会とかPTAとかから紙の辞書を卒業生にプレゼントしたりしたよね。

 

津久井

してたしてた!

 

工藤

そうすると、全員が同じ辞書を持ってる状況だったよね。あとは、プレゼントしてないとしても、同じ辞書を買うように指導してたりとか。「辞書を持たせたからには使わせないと!」みたいな風潮もあったかも。

 

津久井

たしかに。「辞書を使ってほしい!」という先生方の願いとともに生徒に辞書の引き方の指導をしてたのかもね。私が単語を発音して、「その単語を一番早く引ける生徒は誰だ?!」とかって英語の授業中に競わせてたりもした。

 

工藤

昔は、辞書はたくさん引いたもの勝ちだとか、ぼろぼろになるまで引けとか、一発で引けるようになるくらいにならなきゃいけないとか、そういうこともよく言われてたよね。

あと、先生がスーパーのかごみたいなのに辞書をひとクラス分入れて教室に持って行ってたりもしたね。

 

津久井

たしかにあったなぁ。台車にのせて運んでた。

 

工藤

全員が同じ辞書を持ってたから、説明したり指導したりっていうのもしやすかったのかもしれない。生徒みんなで同じ辞書を同じように引いて、みんなが同じ内容を見ながら話ができて。

 

津久井

そうだね。先生が名詞に“U”がついたり“C”がついてたりするのを説明してたりしたよね。でも、そう考えると紙の辞書だろうが、電子辞書だろうが、タブレットだろうが、辞書を正しく使わせるための指導って変わらずきっと必要だよね。辞書に特有の記号はいまも変わらずあるわけだから、今の生徒にも教えなければ生徒はわからない。次回、現代の辞書指導について検討してみようか。

 

※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。

プロフィール

工藤洋路    くどう・ようじ

・1976年生まれ

・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)

・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授

・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部

・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース

プロフィール

津久井貴之    つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員

・1974年生まれ

・群馬大学教育学部・同大学院修了

・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師

・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく

・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー

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