工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学
2022年07月28日
工藤
今月のEnglish Coffee Breakは、前回に引き続き、文法の話です。
津久井
前回は、初歩的な文法のミスを減らすための工夫について、お話ししました。
今回は、そもそも文法ってどういうものなのか、どのように指導していけばよいのか、そんなことについてお話ししたいと思います。
キーセンテンスを丸暗記させていませんか?
工藤
中学校の授業では、本文やキーセンテンスの暗記を積極的にやっている場面をよく見かけるね。個人的には、文法指導において暗記を強調するのはどうなんだろうと思っているんだけど…。
津久井
中学校では英語の成績がよかったのに、高校に入ってからうまくいかなくなったっていう生徒がいるんだけど、話を聞いていると、中学校での勉強法が原因じゃないかなと思うことがあるよ。中学校では暗記することでテストや受験を乗り越えていたけれど、高校では文章量が増えるから、暗記ができなくなって行き詰まるんだろうね。
工藤
中学校のうちは暗記でもやっていけるけれど、高校になって同じ勉強法をしようとすると、破たんしてしまうよね。そうならないために、中学校での文法指導を柔軟にとらえてもらえたらと思っているんだよね。
楽をするためにルールを覚える
工藤
まず考え方として、文法は最低限のルールを覚えて楽をするためのものっていうことを、先生も生徒も念頭に置いてほしいなと思っていて。最低限のルールを覚えることで、単語の知識があれば自分で新しい文を作ることができるのが、文法の利点だからね。せっかく文法を明示的に説明したあとに、キーセンテンスを丸暗記させるのは、矛盾した指導になっているんじゃないかと。暗記は大事なんだけれど、覚えるのは文法のルールや使い方であって、本文やキーセンテンスそのものではないんだよね。
津久井
丸暗記して文法を理解したつもりになっても、忘れやすいよね。その文法を別の場面や表現でも使う練習をしていく過程で、時にはミスもしながら、徐々に文法を身につけていくんだよね。
工藤
そうそう。文法学者たちが最低限のルールを導き出してくれたんだから、活用しないと文法がかわいそうだよ。
津久井
丸暗記するよりは時間がかかるし、生徒がミスをすることを不安に思う先生もいらっしゃるかもしれないけれど、習得までの過程として普通のことだから、あまり神経質にならず、寛容に見守っていけたらいいよね。
パターンプラクティスを効果的に使う
津久井
最近は、コミュニケーションの中で文法的なところをおさえていく指導がよいと言われているよね。ただ、そうはいっても、30~40人の習熟度がバラバラな生徒たちを相手に、全員が文法的な気づきを得るような指導をすることは、すごく難しい…。
工藤
文法を定着させるために、パターンプラクティスがNEW CROWNでも取り入れられているけれど、賛否両論あるみたいだね。英語教育の歴史でも、パターンプラクティスはメカニカルだから意味にフォーカスしづらいという批判があって、コミュニケーション重視のCommunicative Language Teachingが広まったりしたし。でも、文法的なところをおさえていくためには、ベストとは言わないけれど、ベターな方法だと思う。
津久井
もちろん、コミュニケーションの中で指導できるのが理想なんだけれど、比較的誰でも取り入れやすいパターンプラクティスは、たしかに有用だね。
工藤
コミュニケーション中心の指導をするために、研修を受けるなどして先生がた自身のスキルアップを図りつつも、パターンプラクティスでおさえるべき文法知識を固めて、生徒の文法知識の精度を上げていくのが現段階ではいいんじゃないかな。ただ、例文を身近なものにしたり、先生や生徒自身に関わる内容を表す語句を用いたりして、意味へのフォーカスもできるように配慮したいね。
津久井
パターンプラクティスは中学生にとって、文法ルールの習得以外にも、英語の世界を広げる意味合いも大きいと思うよ。中学校では小学校と比べて、学ぶ文法がぐんと増えるけど、そうなったときにさまざまなチャンクで練習できると、「この文法を使うとこんなことも言えるんだ」っていう気づきの機会を少しでも増やせるよね。
個別に文法を指導するときなんかも、必ずその生徒のことを聞いて、例文を生徒に引き寄せたものにしてから、「使われてる文法は何? どこか違いに気づいた?」とか聞くようにしていたんだけど、自分ごととして発話内容を考えてから文法について考えたり教わったりすると、興味を持って学ぼうとしてくれてたんだよね。チャンクの中で、生徒たち自身の生活や興味関心とマッチングするものがあれば、定着しやすいような気がする。表現したい内容と文法が、うまく生徒の中で結びつくようにしたいね。
工藤
たしかにそうだね。
文法によってはさらっと説明して1~2回口ならししただけで定着するものと、パターンプラクティスをくり返さなければ身につかないものがあるよね。すべての文法で同じ分量の練習をする必要はないので、パターンプラクティスの分量や時間については、生徒たちの様子を見ながら、指導に軽重をつけていくことも大切だね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学、「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授
・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部
・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師
・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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