工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、大妻中学高等学校
2021年11月01日
工藤
English Coffee Break再開第2弾は、「文法指導」をテーマにしたいと思います。
津久井
オーラルイントロダクションや活動の中で、ルールに「気づかせる」指導が主流になってだいぶ経つけれど、悩んでいる先生も多いと聞くよ。
初歩的な文法のミスはなぜ起こる?
工藤
文法の話といえば、2019年の全国学力テストの結果が公開されたときに、ある問題がニュースでも取り上げられていたね。女性の絵と、住んでいる場所(Rome)の単語が与えられていて、これらを英文で表現する問題なんだけど、 “She lives in Rome.” と正確に書けた生徒は全体の33%だったの。
津久井
実際の生徒の様子を見ていると、33%はさほどびっくりする数字ではないかもしれないね。これまで高校生のライティングをたくさん見てきたけど、意外と中学校で習う文法、例えば三単現のsや時制でミスしていることがあるよ。
工藤
自分で主語や動詞を組み立てて英文を書いていると、「先頭の文字は大文字にしなきゃ」「liveのあとはinだよね…」みたいに、さまざまなことに意識を向けないといけないから負荷がかかって、知っているはずの文法に意識がいかないことはあるよね。
津久井
おそらく三単現のsを知識としては知っているんだけど、英作文の問題による負荷がかかったり、内容を考える方に意識が過度に向いたりしたことで、知識を頭から引っ張り出せなかったんだろうね。
工藤
そうだね。絵と一緒に “She ( ) in Rome.” という文が提示されていて、動詞の正しい形を選択する問題だったら、三単現のsだけに意識を向けていればわかるから、もっと多くの生徒が解けたんじゃないかな。
あと、このテストは中3向けのものだけど、中1が解いていたら正答率が高かったかもしれないね。
津久井
習いたてだから、鮮明に覚えているだろうし、そのぶん意識を向けやすいよね。
工藤
中1だと、学習した文法のレパートリーが少ないから、知識としてある文法をすべて意識することはそんなに難しくないけれど、中3になると、多くのレパートリーから選びながらアウトプットしないといけなくなるから、難易度が上がるよね。
そもそも「文法を理解している」ってどんな状態?
工藤
三単現のsを正確に書けた生徒と、書けなかった生徒の違いはなんだろう? この文法を知らなかった生徒は、かなり少数派だと思うんだけど…。
津久井
実際に使えるレベル、つまり技能レベルに到達しているかどうかっていうのは大きいんじゃないかな。もちろん、「技能」ってことはある程度知識が自動化して使える状態になっていなきゃいけないから、簡単じゃないけどね。その文法を扱ったレッスンが終わったあとも、使う練習をある程度継続してきたかどうかで、差がついているんだと思う。
工藤
何をもって「文法を理解している」とするのか、その認識が先生によってバラバラなのかもね。文法の理解について議論するときに、「文法の明示的な知識を持っている=宣言的知識を持っている状態」と「その文法を実際に使える=手続き的知識を持っている状態」を分けて考えることがあるよね。
津久井
手続き的知識か。あまりその発想がないような…。「教えたはず」「やったのになんでできないのか」という教師の焦りや生徒へのフラストレーションは、宣言的知識の伝達に指導や発想が偏っているからなのかも。中学校で習った文法がきちんと技能レベルに達していると、高校生になってからも英語でアウトプットするときに役立つから、先を見据えた指導をしていきたいところだね。
知識を技能レベルに引き上げるためには?
工藤
三単現のsを書き忘れてしまう生徒に必要なのは、その文法を頭の中のレパートリーから引っ張り出す練習だね。だからといって、三単現のsを引っ張り出せない生徒に対して、ワークブックの三単現のsのところを解かせる指導は適してないと思う。三単現のsを使うって分かっている状況で練習しても、引っ張り出す練習にはならないからね。三単現のsだけを意識していればできる活動ではなくて、その場に応じて適切な文法を使うようなアウトプットが大切だね。
津久井
そうだね。さまざまな目的・場面・状況でのアウトプットをやっていくことで、生徒が文法を理解しているかどうかを見取れると思う。確実にできそうな活動だけに取り組んでいると、どこかで大きくつまずいてしまうと思うので、チャレンジングな活動にもできる範囲で挑戦していかないとね。
工藤
でも、レッスンで文法を学んで、すぐに完璧に定着するわけではないから、そこは長期的な視点を持っておくことが必要だね。
津久井
自分も、教えたことを生徒が理解できていないときにちょっと悲しい気持ちになっちゃうんだけれど、よいタイミングでよい活動を取り入れたからつまずきに気づけたんだなとポジティブに考えるようにしているよ。生徒にも、間違いやつまずきに気づくのはよいことだと思ってもらえるように指導したいね。失敗している=学んでいる、失敗する機会がない=学んでいないって思うくらいでもいいのかも。
インプットで文法の習得を促す
工藤
三単現のsを書き忘れたときに違和感を持つ感覚を育てるためには、文法の説明による宣言的知識だけではなくて、手続き的知識の習得も必要だよね。自然な会話の中で三単現のsを使った文をたくさん聞いていれば、三単現のsを書き忘れていたときに、感覚的に気づくかも。
津久井
生徒のレベルを想定したインプットを提供できる機会として、ティーチャートークは大切だなとコロナ禍で実感したよ。ティーチャートークでは、意図的に言い淀んで言い直すこともあるかな。My sister and I usually like watching movies together, but she often fall … she often falls asleep, so I don’t know why she likes watching them with me. みたいな感じ。
工藤
もちろん、宣言的知識をもとに考える生徒もいると思う。ライティングであれば提出まで時間があるから、見直す時に「主語はsheでOK、文頭は大文字で書いた、…あれ、liveがおかしい! 三人称単数で現在形だからsが必要だ」って頭の中で整理することで、ミスに気づく場合もあるからね。教える側は、どちらの知識も身につくような指導を心がけたいね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学、「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授
・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部
・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
大妻中学高等学校、「NEW CROWN」編集委員
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在大妻中学高等学校教諭
・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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