工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2019年01月07日
工藤
年が明けて,2019年になりました。今年も津久井&工藤のEnglish Coffee Breakどうぞよろしくお願いいたします。
前回に引き続き今回も,語彙の話をしていこうと思います。前回は,少し大きな,全体像の話が多かったので,今回は少し具体的な話ができるといいな。
ところで津久井さん,高校生のとき,単語帳使って覚えてた?
津久井
使ってた。学校で一括購入したやつ。
工藤
使い切れた?
津久井
うーん…,まあ,やったんだけど,そんなになんていうの,きちっとそれを覚えきるっていうのは,できなかった。使いこなせなかったってことかな?
まぁ,自分ができなかったから言うのではないんだけど,単語だけを覚えようとしても,あんまり身につかないイメージというか…。
工藤
身につかない?
津久井
「身につかない」って言っちゃうと言葉が強すぎるのかもしれないんだけど,単語と意味を一対一で,赤シートで隠したりして頑張って覚えても,その単語を英文の中で理解できたり書けたりするようになるのに,すごく時間がかかるような気がするんだよね。
生徒はそう思ってないから,とにかく単語帳をたくさんやって頑張るんだけど,それが実を結ぶのは, 3年生の秋か冬頃っていうイメージで。もちろん,究極的には根性論で身についちゃう生徒もいるにはいるのだけど。
工藤
単語と意味を対で学習していると,なかなか語法に意識が向きづらいっていうのがあるかもしれないね。suggest「提案する」って単語と日本語を一対一で覚えていると,そのあとに続くのが<to+動詞の原形>なのか,動名詞なのかわからなくて,結局書いたり言ったりできないというか。
津久井
あるね。それは。
あと,これは,単語帳っていうか学習の仕方なんだけど,生徒って,単語テストの前にがっと集中して10分間短期記憶で詰め込んでいたりするから,そういう対策をされると単語テストって本当に意味あるかな,とも思う。
工藤
でも,教師からしたらやっちゃうよね。単語テスト。
津久井
やっちゃう。今でもやってる。でも,それは,今言ったみたいなやり方では,単語は定着しないよっていうことを生徒にわかってもらうために,出題は工夫してる。
工藤
そっちの意図でやっているんだね。
津久井
そう,そっちの意図で。一語一義で覚えていると,「従う」とくれば,obeyじゃない。だけど,語法的にobserveしか入らないような問題出したりして。勉強の仕方を工夫しないと,身につかないぞっていう,メッセージを暗に託しているんだよね。
工藤
いま単語帳の話をしてて,少し思い出したことがあった。
単語帳を5周も6周もやると,「promiseの次にはproposeが載っているぞ」みたいに場所で覚えちゃうこともあるよね。そう覚えちゃうと,promiseがないとproposeが出てこなくなっちゃう。カラオケで1曲まるまる歌えるのに,2番の頭から歌って,って言われるとすぐに出てこない感覚と似ているかもしれない。フックが前にないと,その続きが出てこないってこと,ない?
津久井
あるある。「あのページのここに書いてあった」って思い出せるのに,語が出てこないやつ。
でもそれは単語帳が悪いんじゃなくて,上手に活用できてない,活用の仕方を教えられてないことが問題だよね。単語帳だけ渡して週に一回テストやるよっていうことになると,どうしても生徒はこういうやり方になってしまうから。
語彙指導のポイント
工藤
単語帳使うなら,さっきまで話したことをひっくり返して,「1つの単語と1つの意味だけを対で暗記しない」「単語単位で暗記して,文中での使い方を置き去りにしない」「掲載場所で覚えない」ように工夫するとよいかな。
単語帳以外でも,ほかに語彙に関して何かお伝えできることはあるかな。
津久井
そうだね。
たまに,現場の先生に「どんな語彙を増やしてあげればいいですか」っていう質問をいただくんだよ。
工藤
どう答えているの?
津久井
学校や個人でばらつきはあったとしても,基本的には「気持ちを表す形容詞を充実させましょう」って答えることが多いかな。「自己表現しなさい,自分のことを言いなさい」って盛んに授業では言っているのに,その気持ちを表す語彙を知らなくて,事実しか語れないっていうのは,ちょっと悲しいから。
いままでだと,自分が驚いたときは何でもsurprised,面白いものに出会ったらinterestingしかないというのが,amazedやmoved,funnyやawesome,coolとかになったらいいよねという話はよく先生方にしている。そこに生徒の意味のこだわり,語彙のチョイスのこだわりが出てくるでしょ。
工藤
確かにね。自分の気持ちにフィットする語を知っていれば,自信をもって話せるしね。
自分が,前に先生方に語彙関連でお話しさせていただいたのは,「スピーチ原稿作成のときの語彙」についてかな。
とくにスピーチのテーマが広い場合は,生徒の言いたい内容が教科書で習っていない単語ってことはあるじゃない。で,生徒は先生に「これなんて言うの」って習っていない単語を聞いてくる。
津久井
そうだね。
工藤
そういった場合,先生の気持ちとして,「まだ習っていないから言わないで」っていうことはないから単語を教えてあげると思うのだけど,これが1つのスピーチに5個も6個もあるとそれを聞く他の生徒が理解できなくなっちゃうんだよね。
津久井
話しているほうは理解してるけど,聞き手の受容語彙に入ってないんだね。
工藤
そうそう。
そういうときはうまく既習の単語でパラフレーズするとか,物を実際に見せて説明してみようとか,そんなアドバイスが一緒にあるといいよね。興味があるから言いたいんだし,そんな語彙はどんどん増やしてあげたいけど,それで通じないと悲しいから,通じる環境とセットで語彙を増やすことをお伝えしたことはあったかな。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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