工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2018年09月03日
工藤
さて,今回も津久井&工藤のEnglish Coffee Breakを始めていきたいと思います。前回と前々回は,英語教育の出口とも言える大学入試改革について話しましたよね。
津久井
そうですね。
工藤
とくれば,今度は,英語教育の入口をと思うのだけど…。
津久井
小学校かぁ…。
2018年度から移行期間が始まって,2020年度からは3年生・4年生で活動が始まり,5年生・6年生で外国語が教科化される…たしかにホットなトピックではあるのだけど。
自分は高校の教員をしているせいなのか,実はあんまり情報をキャッチアップできてなくて,苦手なトークテーマだなぁ。ここは,大学教員の工藤先生,よろしくお願いいたします。
工藤
正直に言うとね,もともと自分もすごく小学校の英語教育に興味があったわけではないのだけど,ここ数年に関しては,地域から依頼をもらって見学に行く件数は,小学校が一番多いんだよね。昼をまたぐと,児童と一緒に給食を食べたりすることもあって。
津久井
小学校の英語ってどんな感じなの?
工藤
まずは,ほとんどの児童がすごく楽しそうにしている。恥ずかしそうになんて,全然していない。
津久井
してないんだ,小学生は。
工藤
うん,全然。それはすごくいいことだなっていうのは,まず素直に思った。
津久井
あまり最近見られてないから少しイメージが偏っているのかもしれないのだけど…。
小学校って,外国語教育の歴史がまだ浅いのに,教え方のスタイルが確立されつつあるような気がするんだよね。「小学校英語はこうやらないとだめ」とまでは言わないけど,中学校と比較して,「小学校とはこうあるべき」というのがわりと固まっているというか。
工藤
先生の話し方やジェスチャーも含めて,ということですね。
津久井
うん,そうそう。
それはね,モデルがあることはすごく良いことだし,先生方の安心感にもつながっているとは思うのだけど…。なんだろう,いろいろな学校で中高を教えた身からすると,もう少し違うスタイルの小学校英語を教える先生がいてもいいんじゃないかなって思ったりするんだよね。贅沢な悩みかもしれないけど。
工藤
それは少しわかる気がするな。
でも,小学校英語はこれから正式な教科になって,評価までするという大きな変化を迎えたときに,授業スタイルにも変化が起きるんじゃないかな,という気はしている。いままさに過渡期で,研究されつつあると思うけど,何年か先の小学校の先生や児童,授業はどんな姿なんだろうって,すごく興味があるよ。
津久井
今のまま流れていくのか,何かがどこかで変わるのか。
工藤
あと,授業スタイルの変化の話でいくと,小学校3年生から外国語活動が始まったときに,5・6年生の「飽き」の観点も気になるかな。
昨年度(2017年度)までは,英語の授業は5・6年生の2年間で週1回やってきて,児童も,英語は算数とか国語の間に数時間ある体育に近いような感覚で楽しいって受けてきたと思うんだけど。でも,開始学年が早まり,教科として時間数も確保されたときの児童の様子の変化も,気にしておきたい観点ですね。
すぐに話せる小学校,いろいろ話せる中学校
工藤
英語の学習そのものについて,小学校での学び方をどんなふうに表現できるだろうって考えたときに,言ってみれば「かたまりで覚えること」ですよね。
津久井
I like ~. 「わたしは~が好きです」って覚えて,Iが主語で,likeが動詞…みたいに分析的にとらえない。
工藤
そうそう。
これまでの中学校以降の英語学習は,「文法のルールを覚えて,語彙を入れ替える操作の練習をして,ある程度習熟してから初めて使う」というステップのイメージだったけど,実は「かたまりでそのまま使う」ってかなり大事なことなんですよね。
津久井
「名前を聞きたければ,What’s your name?って言おう。はい,練習してみよう。じゃあ使おう!」って,導入した10秒後には使える世界に入れるのは強いよね。
工藤
そう,これはもう,本当に早い。
だけどね,やっぱりこのやり方での一方通行でも少し厳しいなとは感じていて。
中学校以降での分析的な学び方は,ちょっと時間はかかるけど,文法のルールをおさえたら,単語を入れかえて新しい文を色々作ることができる。自分の言いたいことを言えるようになるんだから,こっちはこっちの良さがあるよね。小学校の学び方と中学校の学び方,両輪を回せるようになるといいなと思うんだけど。
津久井
「両輪を回す」…って,例えば?
工藤
すでに両輪をうまく回して授業を行っている先生はいると思うんだけど,例えば,Sounds great!っていう表現は,この文の構造をしっかり教える前にかたまりで使わせていますよね。「いいね」って言いたいときは,Sounds great!って言えばいいよって教えて,その場ですぐに使えるようにしている。細かく分析していくと,これは第2文型(SVC)の一般動詞の文で,さらに主語が省略されているって,意外と説明しがいがあるものなんだけど。もしも,「主語がないものは命令文」というルールを生徒に教えていたりすると,それにも当てはまらないから,そこまで含めて教えようとするとかなり難しい。
津久井
あ~,確かに,Sounds great!はその代表かもしれないね。
工藤
そうだよね。
逆に,現在完了なんかは,ルールを教えてから使わせたい文法と認識している先生が多いんじゃないかな。だから,きちんと文構造を説明して,理解してから,発話の活動の設計をしていたり。
津久井
たしかに。
工藤
こんなふうに,「この場面ではかたまりで導入しよう」「この場面ではしっかり文法操作を教えよう」って,授業でうまく使い分けができるといいけどね。
全部分析的にいくと,生徒が「あれ,小学校でやった学びと違うぞ,なんか使うまでにすごく時間がかかるぞ」って思ってやる気がなくなっちゃったりするから。
かたまりで覚えるやり方と分析的にしっかりと学んでいくやり方をうまくコンビネーションしていくというのが,これからさらに中学校の先生に求められていくと思います。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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