工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2017年09月07日
工藤:
津久井先生,この前,英語力調査の結果見ましたよ。
ライティングの力が,二極化しているって結果でしたね。
津久井:
ああ,「英語教育改善のための英語力調査事業(中学校)」ですね。
工藤:
書ける生徒はどんどん書けるようになったけど,まったく手が出ない,白紙の答案も増えた,っていう結果でしたね。
白紙の答案の原因は,「減点法採点」?
工藤:
やっぱり,定期テストなんかで減点法で採点しちゃうと,ミスを怖がって書かないようになっちゃうんですかね。
津久井:
高校入試では各校に採点の方針が任されているとはいえ,減点法でやっているところが多いんじゃないのかな?
工藤:
大学入試は50語・100語,さらにそれ以上書かせるところもあるから,さすがに減点法じゃないと思いますけどね。100語書かせて減点法だったらもう…
津久井:
マイナスになっちゃうよね。
逆に,高校入試は三文くらいしか書かせないから,減点法でも成り立っちゃう。
個人的には,中学3年生の段階では,白紙で出す生徒と出さない生徒の差がつく程度の採点でいいと思うんだけど。
工藤:
何が,減点法を維持させているんだろう。
津久井:
ひとつには,現場の先生が減点法の方が指導しやすいっていうのは大きいと思う。「2箇所間違っているから2点マイナス」という考え方はわかりやすい。
だから,ミスを恐れて量が増えていかないっていうのとか,細かい文法的な正確性を気にする,っていうのはあるんじゃないかな。
Fluency VS Accuracy
工藤:
ただ,英語力自体を伸ばそうと思ったら,絶対にFluency first, Accuracy secondだよね。(※)
※編集部注
Fluency…流暢さ,なめらかさ。ここでは,量を重視してライティングすること。
Accuracy…正確さ。ここでは,正確性を重視してライティングすること。
津久井:
うん。「正確さ」にびびりすぎて何も書いていない真っ白な答案に指導していくのが一番難しい。「手出して,鉛筆だして,何でもいいから書きなよ」っていう指導がいかに大変か。
それなら,うまく表現できなかった部分に,ドラえもんの絵でも書いておいてくれたほうが,よっぽど指導しやすいよ。「じゃあ,そのドラえもんの部分に,前置詞入れてみようかー」って。
工藤:
何か書いてくれないと,本当は指導できないんだよ,ライティングって。
昔,高校の陸上部の顧問していたときがあって,当然フォームが悪い生徒もいるでしょう。でも,走らせるよね。フォームが良くなってから走らせることなんてできないでしょう。走りながら直していくしかない。
それと同じで,書けるようになるためには,やっぱり書かせるしかない。それで出てきた間違いを直していくしかないんだよね。だから,白紙で提出されて,そこから指導なんて,無理なんだよ,本当は。
津久井:
確かに。
工藤:
それに,高校入試でAccuracyが求められるとしても,1年生から書かせることを始めれば,途中からAccuracyを入れていけるわけだから。ずっと,ただひたすら間違いを指摘せずに3年間書かせ続けるわけじゃない。
津久井:
中高一貫を指導していたときの経験だから,一般的ではないかもしれないけど,自分は中2でもFluency中心で問題ない,と思っている。中2っていう学齢的にも…ほら,何かにたてついてみたくなる年代っていうか,Fluency重視だって言っても何も書かなくなる生徒も出るくらいだから。
中3になると自然に入試を意識し始めるから,そのあたりから,Accuracyが入ってくるといいのかな。
工藤:
高校入試が減点法じゃないなら,正直高校までほうっておいてもいいくらい。前に大学入試を採点する機会があったときに,思ったのは,結局Fluencyが高い生徒はAccuracyも高い。
津久井:
そうそう,そろってくるよね,結局。
工藤:
FluencyとAccuracyは対立概念ではないから,どこかに必ずミーティングポイントはあるんだよ。若い学齢のときから,Accuracyの観点で指導・採点をするのではなく,Fluencyを重視した採点が行われるようになると,変わってくると思うけどね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり, 工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
(掲載:2017年9月7日)
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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