工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2018年07月03日
津久井
今回は,少し時間が経ってしまいましたが,3月の学会で工藤さんも一緒にシンポジウムに参加して議論した,自分の今ホットなトピック「大学入試改革」について話していきたいと思います。
工藤
英語で大学入試改革というと,スピーキングが一番注目され,話題になっているように感じますが,実は,これは「スピーキングテストを始める改革」ではなくて,全教科の観点から言えば,「思考力・判断力・表現力」を重視するテストへの移行だよね。その流れの中で,英語に関して言えば,「読む・聞く・話す・書く」という四技能を試験で課すことになった,ということをまず押さえておきたいよね。
津久井
今までにスピーキングってあまり聞いたことがなかったから一番話題になっているけど,これまでも出題されてきたリスニングやリーディングだって,変わっていくことになっているし。
工藤
そうそう。
中学の先生方は,大学入試を「まだ少し先」って思っていらっしゃるかもしれないけど,東京都立の高校でも改革は始まっているし,10年後には47都道府県全部がスピーキングテストやってたりして。高校入試が変わっていくというのも実は近々のことだよ,これは。
津久井
自分もね,時間をしっかりとって,公開されている新テストを解いてみたんだよ。
工藤
津久井さんの感想は?
津久井
英語だけしか見てないけど,今までのセンター試験に比べて,新テストのほうが,波及効果的にはいい感じはするね。
工藤
なるほど。
津久井
文法や語彙が基礎として大切なのは変わらないのだけど,設問として文法穴埋め問題や発音の仲間外れ探し問題のようになっていないのは,いい気がする。現行のテストだと,配点が少ないよって伝えたとしても,発音を選ぶ問題とか,文法問題ばっかりに偏ってしまう高校生って絶対にいるから。
もちろん,発音も文法の知識も大事なんだけど,そこで止まってほしくないと思うので。というか,発音も文法も語彙も基礎で,それらをどのように使って英文を読んだり聞いたり話したり書いたりするかというところまで視野に入れた学習や指導が大事だから。
工藤
新学習指導要領との関連で言えば,各領域の最後の目標へフォーカスがシフトしたと言えるかもしれない。これまでは最終目標手前の途中段階で学習した,個別の知識やスキルの部分もある程度配点を割いて測ってきたけれど,今回は各領域の最終ゴール部分で出題がそろった。大げさにいうと,今回の試験はそういうふうにも捉えられるかもしれないね。単語や発音の単独の問題がなくなったのは,「個別の知識やスキルの段階は測らなくて,いくつかの知識やスキルが統合された段階しか測らないよ」という出題者側のメッセージと捉えることができると思う。
対策の第一歩は,授業内の言語活動にあり
工藤
こういう問題を前にして,分析したり,物事を客観的に捉えたりすることができる生徒なら,表面上には出ていなくても,発音や文法の知識も必要なんだなって思えると思う。
けど,分析的に見ることができない人は,いろんなことが一気にわっと問われていて,学習のとっかかりがわからなくなってしまうっていうのはあるかもしれないね。
教える側の先生にも当てはまることかもしれないけど。
津久井
あるある,絶対あると思う。
新しい傾向にどう対応していいかがわからないと,単語を徹底的に覚えるとか,アクセントの位置を完璧に把握するとか,いまやっている学習方法をもっともっと極めなくちゃ,って思う生徒は,一定数確実にいると思うよ。
工藤
テストだけ変わっても,それに向けての学習方法とかを共有する時間がないと,結局テストの波及効果としてはいまひとつっていう話もあるよね。
津久井
確かにそうだね。
でも,個人的には,新テストの出題形式は授業との親和性が上がった気がしてるんだ。
例えば,リスニングで「音声を聞いて,その内容のメモを作る」っていう活動は多くの先生方が教室でやっていると思うんだけど,似た形式が新テストのリスニング問題でも出題されているよね。もし,リーディングでもリスニングでも,そんな活動をあまりやっていないのなら,授業内の言語活動で取り入れるのがまず対策の一歩。対策っていうと,言葉が大きすぎるかもしれないけど。
工藤
問題形式自体は,高校生じゃなきゃできないものっていうわけではないから,中学校でもトライできると思う。
もし難しいと感じるのであれば,骨子をそがないようにして,ダウングレードすればいいんだし。
津久井
うん。同じような活動をまずやってみると,どんな力が必要か・何が足りていないのかがよくわかる。
工藤
そのときに,教師が一言コメントをはさめたらいいよね。
どんな力が求められているかなんて,言葉だけで伝えてもぴんとこないと思うから。実際に似た問題形式を解いたときに,「この文章を理解するためには,単語も文法も必要だし,読み方の技術もいるよね。いろいろなことが求められているよね」って解説してあげると,一番理解してもらえると思う。
津久井
自分も,実際に授業で言語活動をしたときに個別の文法知識で終わらないようにしようねって声かけをよくするよ。「知識だから暗記すればよい」ではなく,使ってみることで本当に理解できているかがわかる,とも。
工藤
うん。
今回は大学入試改革がテーマで話しているけど,新テストへの移行は英語教育全体の変化を受けてのものって考えると,受験対策の枠組みだけじゃなくて,中学校の授業でも求められてくる変化も同じ枠組みで語れると思うよ。
津久井
スピーキングばかりに目が行くかもしれないけど,リーディングだって,どんな英文の読み方をさせているか,どんなタイプの英文を読ませているかっていう観点で問題を見たらヒントが得られる。その意味では,中・高の校種を問わず,先生方には,授業改善の視点としていろいろな問題を眺めたり解いたりしてほしいな。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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